他人とってはどうでもいいので簡単に壊せる。
(痛い・・・・)
帰宅してすぐにスタジオに向かった
「お、来たね」
呼び鈴に声を紛れさせて、
「じゃあ、今日も始めよっか」
「痛ッ・・・!」
その様子を訝しんだ
だが
「・・・・・」
その背中を見送った
◇ ◇ ◇
次の日も、
「先輩、あいつは何をやったんですか?」
同行していた後輩が、隣に立つ二年生に問いかける。
彼らの視線での先で、
初めは抵抗していたが、今では叩かれるだけの肉塊だ。
「あいつは
後輩は何を言っているのか理解できた。
なぜなら彼も会場の空気を肌で感じたからだ。
「俺たちはそれが許せない。せっかく
憤怒の色を顔に浮かべた彼は、そのまま
「そんなもんにマジになってどうすんだよ。現実見ろよ」
「お前らだって、野球選手にならないんだから、やっても意味ないだろ。やめろよ」
「は?お前のそれと俺たちを比べるな。努力する奴をバカにするんじゃねえ」
持ち上げる手は、とても固くなっていた。
もう何度もマメをつくり、また潰してきた手だ。その手こそが彼らのこれまでであり、命そのものだった。
「こっちは野球に心血注いでんだよ。全て捧げた。お前みたいなお遊びとは違うんだよ」
「・・・・その割にいじめる暇はあるんだな」
その一言で激昂した彼は
「マジ気色悪いわ、コイツ。自分の世界に入りすぎだろ。おい、こいつ抑えてろ」
取り囲んでいた三名が、
その行く先は、
「や、やめろ。それは大切なものなんだ」
「知らねえよ。俺たちは大切じゃないんだから」
「だ、だからって壊して良いはずがないだろ。違うだろ」
そうして、力む声と共にそれは振り下ろされた。
襲い来る激痛に、
そんな彼に、鉄の持ち手は冷静に言葉を落とす。
「俺らの仲間だって怪我で野球が出来なくなったヤツがいる。そいつらと比べれば、お前のは軽い」
彼らにとっては、もう何度も見て来た光景なのだ。いったい幾度・・・、苦痛に歪む仲間の顔を見てきたことか。
(それこそ知るかよ。俺はそいつらの顔を知らない)
しかし、そんなことは
「これに懲りたら、俺たちの夢を壊すな」
先程の喧騒とは一転して、校舎裏には静寂が舞い降りた。
◇ ◇ ◇
数名の男子生徒が去り、その場に取り残された人物は二名となった。
一名は
「馬鹿じゃないの?お前・・・。こうなるって予想できただろ?」
同学の彼は、うずくまる
「意味がない———どころか敵を作るようなことをやって・・・、お前いったい何がやりたいんだよ・・・」
理解できない。彼と
すると
「俺は今まで意味のないことをしてきた」
「なら・・・」
なら、やめてしまえばいい。
何も残らないのなら、何も成しえないのなら、投げ出した方が賢明だ。
だが、肩をかばって立ち上がった彼は、その賢明な部類の人間ではなかったようだ。
「意味のないことをしてきたけど意味のあることができた」
その矛盾に、
「俺にはそれがあるから、こうしていられる」
だから彼は、この先に希望があると信じていられる。
多くの破滅が待っているのだろう。
多くの脅威をつくるのだろう。
この先には明確に苦痛がまみれている。
だけど・・・・。
「終わりはないんだよ、
目指して、叶うまでは、終わりは訪れはしない。
終わりは人の手にあり、その人が諦めないと決めたのなら、そこに終幕は存在し得ない。
たとえ小さくとも、その汚濁の中に光があるのなら・・・。
それが過去の光景であり残光であろうとも、彼は追いかけ続けるのだ。
だって彼はここまで〝星〟を目指してきたのだから。
しかし、
「訳わかんねえ・・・」
実りがないと分かれば即座に斬り捨てるし、無駄なことを一番に嫌う男だ。
なので彼はいま、自分自身に腹を立てていた。
なぜ自分は、コイツなんかに入学当初から無性に惹かれたのか、と。
「一生わかんねえよ、お前たちには・・・」
憎々し気に吐く
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※
次回「善の反対は悪ではなく、また別の善である。」
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