暗雲の中に、希望があると信じて、それで・・・。

「は?・・・学校でやるの?、これを?」


脚力トレーニングは継続したまま、一連の技を通しで行っている遥斗はるとに、明日華あすかは予想していなかったのか頓狂とんきょうな声をあげた。


少し上ずれた声が、スタジオに反響して徐々に収まる。


「そのためだよ。今までも、全部」


数時間前まで怪しげな男性と話していたことなど、一欠けらも覚えていなかった遥斗はるとは中盤に行う撒菱まきびしという技を行っていた。


「あー・・・それで新規の意見が欲しかったわけか・・・」


「なんだと思ってたんだ?」


「いや、単純に登録者を増やそうとしてるのかと・・・」


遥斗はるとにその目的はなく二の次であったが、「それもいいな・・・」と明日華あすかの意見も取り入れることにした。


そこから鉄アレイを置いて、体幹に移る。

床ばかり見ているのも退屈なので、ちらりとスタジオの端で椅子に腰かける明日華あすかを見た。彼女は膝に肘をつき、手のひらを顎に添えている。その表情は、あまり晴れやかなモノではない。


「止めても無駄だからな・・・」


なんとなく何を言われるのか想像できた遥斗はるとは、明日華あすかが口を開く前に釘を差した。

けれど遥斗はるとが考えているほど、明日華あすかも深刻には考えておらず、それを否定した。


「いや、別にやる分にはあんたの勝手だけどさ・・・」


それでも口の中に言い切れないものを残しており、彼女自身でも納得が出来ていないようだった。


「何だよ~・・・?」


そんな中途半端な反応をされるものだから遥斗はるとも不安になった。

すると明日華あすかは、


「なんていうの?・・・学校の雰囲気ってあるじゃん」


「ここで言うのは生徒の話ね」と付け加えて言葉を続ける明日華あすかはそのまま、


「学校によってそれは違うわけじゃん。陽キャオーラできゃぴきゃぴしてるのか、陰キャオーラでじめじめしてるのか・・・」


両手の人差し指をあげて、右手はブイサインで活気に動いている。対する左手は第一関節で曲がって項垂れていた。


「・・・・・そんなの今まで覆してきた」


遥斗はるとも、今まで苦難なく来たわけではない。

散々に毒も吐かれたし、いわれのない誹謗中傷は受けて来た。


その度に根気強く踏みとどまり、必死に伝えて来た。

その末に手に入れたのが今の地位だ。


ならば今回も、もう一度それをやればいい。

当初は右も左もわからない青二才だったが、今は違う。

技術も磨いてきた。知識も身に付けた。十分だと思っても上を目指した。もうこれ以上はないという段階を、何度も超えてきた。


明日華あすかも今までそれを間近で見て来たのだから、こうして否定しきれずにいる。だからだろう・・・。


「まあ、時代を信じるか・・・。昔みたいに、そこまで当たりが強いとは思えないし。じゃあ、頑張んな。Haru君」


そうして、遥斗はるとは本番前の前哨戦である学内祭に挑む。


それでも、彼はここで勝負を決めるつもりだ。



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次回「変える、変わる、変えられる。」

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