人を魅了するとは・・・。

人を魅了できるものとは、どんなものなのか・・・。


遥斗はると自身、その答えを見つけられずにいた。


目の前に映し出される文字の羅列に、頭を抱える。


『光の軌跡が綺麗!』

『完成度が高くて、すごくオシャレ!1:32から始まった花火みたいなヤツが好き!』

『演者が突然現れる演出に驚いた』

『まったく違う映像同士をつなぎ、そのつなぎ目を違和感なく見せることは尊敬します』



後半に至っては明日華あすかの編集技術を讃えるものだった。あいつめ、この前の仕返しにこんな異物を混ぜてきおって・・・。


それにコメントから察するに、やはり曲のファンが辿り着いた印象が強い。


「OAD、金剛、エリュサー」


少ないながらも、それらの中で共通点を見つけていく。初見では突きや回転、身体パフォーマンスを組み合わせた高度な技よりも、腕を広げた単調な回転系統の技の方が、受けが良いようだ。


しかしエリュサーとは、また難易度の高いものを。この技は片足を軸に360度も回転するのでとてつもなく難易度が高い。なのでセンターバレットやツイストダイブなど、他の回転系列の技で代用することにした。


そうして、スタンドにはめこんだスマホの動画撮影を起動させて、流しを行った。





そうして、一連の動きを終わらせたあと・・・。




「やっぱり、動きが悪くなっていくよな・・・」


記録された映像を見て、出て来た感想がそれだった。


今まで動画を製作する都合、技を区分ごとに分けて撮影を行っていた。そのため長時間での通しでは、後半にかけて技のむらが生じていた。


それは遥斗はると本人であるために気付ける細かな問題ではあったが、これが見る側にとっては口の中の砂粒のような違和感となってしまうかもしれない。


遥斗はるとがそれへの対応を考えていた時だ。


ガチャリ・・・!。


注意深く映像を確認していると、スタジオの扉が開いた。そこから現れたのは、明日華あすかだった。


「今日も来てるって聞いたよー。連日来るなんて珍しいね・・・って、何やってるの?」


「お邪魔します。使わせてもらってるよ」


スタジオに入り込んできた明日華あすか遥斗はるとの傍らに移動してきた。


遥斗はるとは先程の映像を見せて、事情を説明した。


「ふーん。長時間のパフォーマンスね」


「ああ、そうなんだ。いつもなら疲れを感じないけど、通しとなると、どうにも気になってね」


それは、あらかじめ用意していた技単体での映像でも顕著けんちょだ。


単体でやったものと、通しでやったもの。

この両者を見比べれば、明らかに前者の方が綺麗に映っている。


「そっか・・・わかった!それなら良い方法がある」


そうして一度はスタジオを後にした、明日華あすか。彼女の帰りを待つ時間、遥斗はるとはもう一度、映像を見やった。


考えることは自分の始まりだった感情だ。

彼は今、それを求めている。


人を夢中にさせるとは、いったいなんなのだろう。

僕はどうして、これに魅力を感じたのだろう。




「で?これはどういうことだ?マイドーター」


「見ての通りだよ、父さん。遥斗はるとの練習に付き合ってよ」


「それがどうしてこんな逆ギロチンみたいになってる?」


バーの店主であるマイクは、突然たたき起こされたかと思えば、下半身への絞首台こうしゅだいに立たされていた。


場所はスタジオの中心。もちろん遥斗はるともいる。


立ち位置的には、遥斗はるとが真ん中に立ち、右側にマイク、左側にはマイクのコレクションである、あずにゃんグッズの抱き枕がはりつけにされていた。


だがマイクの立ち位置だけ特殊で、ふたつのパイプ椅子の上に立っている。


マイクのすぐ横で、遥斗はるとは腕を振って準備を整えている。それまではいいのだ。


彼の手には、ゴムバンドで固定された鉄アレイがあった。


その鉄の塊が、さっきからマイクの股間のすぐ横を、ひゅんひゅん、と飛んでいる。


マイクの娘である明日華あすかは、遥斗の足元にある色付きテープを指さして言った。


遥斗はるとをこのテープから外側に出したくないんだ。それに腕の可動域も一定にしたかったんだけど、怪我をさせるわけにいかないからクッションが必要でね。それでお父さんの出番ってわけ」


「なんで俺がここに立つことは確定事項なんだ。代わりならいくらでもいるじゃないか。せめてここには立たせないでくれ」


「父さんは筋肉質だからね、万が一捻挫でもさせたら大変だ。だから比較的柔らかい場所で受け止めてよ」


「嘘だろ、そこは唯一鍛えられない場所なんだぞ・・・」


「それじゃあ、遥斗はると。始めようか」


明日華あすかは演者へと声掛けをした。一方、当の遥斗はるとはと言うと・・・。


「スタジオをタダで使わせてもらってるうえに、こんなことまで。マイクさんには感謝しかありません」


「ハハハ、この状況でその言葉が出てくるのって、率直に言って頭がおかしいのかな?」


正確に言えば、スタジオ代やサイリウムなどの備品は、すべて動画収益から差し引かれているのだが、細かい事は気にしない遥斗はるとであった。


そうして練習は始まった。一往復ごとに、びょんびょんと、鉛がマイクの股間を通り過ぎる。


遥斗はるとが行っている技はOADオー・エー・ディー、元はどこかのアイドルのダンスらしい。円軌道に回した両腕を顔の横で打ち付けて、また逆方向へ円軌道の軌跡をたどり、また打ち付ける。この繰り返しである。


差し掛かるごとに襲い来る血の気が引く感覚、この時のマイクの心胆は、計り知れない。


「これはいつまで続くんだ・・・」


「うーん。十分くらい?」


「ファッ○ンジャパニーズ」


自身の娘に対して汚い口調になるほどの、計り知れない恐怖である。


そんな落ち着かない様子が続いて、五分くらいが経ったことだろうか。


「そう言えば遥斗はると。父さんがこの前さ、わたしたちの収益でどっかVtuberにスパチャしてたんだよね」


「は?」


「バカ!?今言うんじゃねえッ!?違うんだ遥斗はると、ちゃんと返す、返すつもりだから!」


マイクは必死に、鉄アレイを持った遥斗はるとに訴える。誇張なしに命の危機を感じていた。。


なぜなら鉄アレイが近づき、ちょっとかすったのだ。


「俺が悪かった!倍にして返す!約束する!」


「いや、違うんだ。マイクさん・・・」


「何がだ?!」


「ただ単純に、ブレて来た」


「やめろ!悪意があった分、まだ恨めたのに!」


そうしてとうとう、そのときがきた。


「あっ・・・!」


ガキンッ!と玉の潰れる音が響く。


「ah———————————ッ!」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回「その星と歌は人を魅了する。」

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