胸を張って言えるモノ。
週末の学園生活を終えて、休日を迎えた遥斗は、うつ伏せになってフローリングの床を直視していた。
床といっても、その視線は自身の直下に置いてあるスマートフォンに向けられている。
それにはこれまで記録してきた自身の動きが映し出されていた。
みぞおちから下腹部にかけて力を籠める
地下バーのダンススタジオ。
「休日に来るのもそうだけどさ。珍しいね、それやるの」
心底つまらなそうに、手元のパソコンから視線を外した
「必要になれば、喜んでやるよ」
「でも前に言ってたじゃん。こんなのやるくらいなら技の練習したほうが良いって」
自分の以前した発言に顔を
「状況が変わったんだよ。それにふらついてたら見栄えが悪いだろ?」
「これ以上うまくなってどうすんのよ。見栄えを求めるなら、体を鍛えればいい。労力も比べて少ない上に効果も望めるよ?」
確かに、ガタイを良くすれば動画映えするし、なにより格好良く映る。けれど・・・。
「正直、それはあまり気が進まないな。自重が変わる。必要最低限の筋力さえあればいいよ」
練度を犠牲にして、と考えるなら、悩ましいところだ。
「あ・・・っそ」
「ぐえっ?!」
粗雑に返答を返した
「重い重い」
「ふーん・・・。そんなこと言うんだ。じゃあ、ここで作業するよ」
そうして、そんな長時間も酷使してきた体幹、加えて腕と脚が耐えられるはずもなく、数分と経たずして撃沈した。
「はい、これ。まとめた奴」
「ああ、悪いな」
フローリングに腹ばいになる
床に
「こいつと、こいつ。その以前の意見を調べてくれ」
「え?そっち?」
彼女は捨てられた意見を一例にあげて、
「ペリジースさんにフェルノースさん、フライさんとかの意見の方が、参考になると思うけど」
「確かにそうだけど、新しい目線が欲しくてさ」
確かに玄人意見は重要であるが、
「だってそれがすごいなんて、俺たちにしかわからないだろ。やるなら、初めてみた人を虜にするようなものでないと」
だから
「皆にもちゃんと、これが綺麗なモノだって、知ってほしいんだ」
偏見のない、ただ純粋な、あの時に俺が見たカッコよくて綺麗な〝星〟のように。
スタジオの端に移動した
それは二本の3Lペットボトル同士を紐でつないだものが二セット。
それを肩に担いだ
「知ってもらえれば、きっと変わるはずだから・・・」
◇ ◇ ◇
「ん?
ボイススタジオに
本日は呼吸トレーニングを発声練習であったはずだが、今では音階トレーニングを行っていた。
「良い声の出し方思い浮んじゃってさ、居ても立っても居られなくなっちゃった」
「それでも無理はさせられないよ。文化祭まで三週間はあるけど、この時期の不調はとても惜しい」
本人が気づけないほどの変化も、過度なトレーニングを行えば現れる。それは聞き手にも大きく影響するのだ。
それでも、
「お願い、きっとここでやらないと、わたし一生後悔する。できることはやっておきたい」
「・・・・・わかった。こっちでもスケジュールを見直すよ。君が全力で歌えるようにする、それが俺の役目だ」
彼女が見せた本気に、
だけどそうは言っても、絶対に喉に怪我だけはさせられない。
「でもケアはいつもより重点的に行うよ。面倒くさくてもやってもらう。用品も増やしておく」
スマホを立ち上げて、リストにケア用品を多く加える。
その後押しに、彼女はまっさらな純情で練習に望めた。
「やった!・・・じゃあ、手始めにわたし史上、最長の声を伸ばそう!目指せ一分!」
それは世界記録を超えているので、いくらなんでも無謀過ぎないかとは思ったが、モチベーションの問題なので、
「La—————————————————ッ!」
その夢に打ち込む姿に、
昔の
どちらかと言えば、俺や
だけど彼女が、こんな無茶な望みに奔走できたのは、これまで積み上げてきた実績と、次第に認められていく周囲の評価が、そのまま自信となって彼女を突き動かして邁進させるのだ。
(限界を超えて、最高のステージにしよう。
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※
次回「人を魅了するとは・・・。」
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