そうして他人を壊した。
「
〝それ〟から視線が外れるように、さりげなく
「ごめん、今日は都合が悪くて・・・また今度にしてくれないかな」
「え~・・・いいじゃん、ケチぃ。邪魔しないからさ、てか何してんの?また理事長からの依頼?」
「まあ、そんなところ」
「そうかぁ~・・・仕方ないね。っみせかけて、とうっ!」
残念そうな顔をした亜美は、そのまま振り返って帰ると見せかけて、玄関から内部に滑り込んできた。
「大丈夫、わたしがいたところでなんの支障にもならない・・・ってナニコレ?」
和やかでのほほんとした
彼女が答えを求めるように顔を顰めて、指を指した先には
「
片眉を上げて右のおでこに
すべての状況を理解した
◇ ◇ ◇
「・・・・・・」
「・・・・・・」
数分前までの、恋人同士の空間が一転。
今ではなんとも言えない空気が流れていた。
絶対零度の俺の部屋。テーブルを挟んで、右に
なんとか少しでも和ませようと、九月だというのに温かいお茶を置いた。
「粗茶です」
コトリ、ピキッ!
(亀裂が?!!?!!)
さすがの粗茶くんも、空気に耐えかねて砕け散った。逃げ出したいのは同じようだ。
重たい沈黙が
「
パソコンの画面を
一瞬、
この状況、一方的に敵視しているのは
「ねえ、なんの話?」
「あなたは関係ない。話しかけないで」
「はあ?」
ちょっと
やめてよ、
ただでさえ沸点が低い子なのに・・・。
「いや、関係ないわけないでしょ。こうして同じ部屋にいるんだし、てか混ざれない方が難しいと思うんだけど。どうやったって会話は耳に入るわけなんだから」
「今が取り込み中ってわからない?わたしたち仕事の話をしてるの。いわば企業秘密なんだから、ああそうだ、それだったらちょっと廊下に出ててくれない。いや、廊下じゃダメか、一階のリビングで待っててよ。わたし
「急に押しかけてなに?
「人のこと言えなくない?あなたもここに来てるじゃん。そう思うならそっとしてあげなよ。
「歌ばかり歌うと頭が緩くなるの?わたしはここにお呼ばれしたんだよ?それってつまりわたしといるのが心が休まる時ってことだよ。その鈍い頭、少しは締めたらどうなの?」
「緩いのはお前の股だろ?」
「ああもうだめ完全にキレた
「ケンカ、ダメ、オネガイ、ヤメテ」
その日の
仁王像も震えあがるほどの冷気がその場を包んでいた。
その中心で、ひたすらに動く、小さな首振り人形、それが俺だった。
◇ ◇ ◇
激突から数時間後、俺の家には
お互いに暴投を投げまくった彼女たち、時間帯も良いところになったのでふたり揃って帰ろうとしたのだが、
——————————————————————————————————————
「ごめん、
「・・・今、言えばいいじゃん」
「悪いね、
「なにそれ・・・」
「もう
憤慨した
——————————————————————————————————————
「ほんと、迷惑な子だった。
頭痛をこらえるように言った
「そのことなんだけどさ・・・」
「ああ、そうそう。話だったね、なに?」
「
まさかその名前が出てくるとは思わなかったのか、突然の発言に、目を丸くする
「最近、
「・・・どういうこと?」
「正直、プロデューサーの立場からだと、長谷川と
「え?本当は付き合ってなかったの?」
「知らなかったのか?」
「いや、わたしも聞いた話だし・・・」
どうにも腑に落ちない回答にも、話が逸れてしまうので、その問題は後回しにすることにした。
「まあ、つまり。
目的を簡潔に告げた
「わたしがあいつのために? 冗談じゃない。いくら
「
「・・・・じゃあなおさら無理だね。わたしには関係ない」
だけれど、そんな
イスに座る
「亜美にはできない。君にしか頼めないんだ」
「これはふたりだけの秘密だ」
「 〝
その言葉の勢いと誘惑に、
「・・・・・・」
あの女の為というのは、彼女にはすごく癪に障ることだが、何より、
「わたしの方が、
そうして、彼女も加担した・・・・。
◇ ◇ ◇
次の日になれば、
「
時間は放課後、
いつもなら共に帰宅して動画の打ち合わせをしている時だが、少し話をしようということで、こうして遠回りをしてきた。
「あの子のこと、なんだけどさ・・・名前は?」
「昨日のこと?
「ふーん・・・
「普通に、会って遊んでたんだよ」
「
語調に少しの怒りが混ざって、突き刺すように彼女は言った。
「確かにそうだけど、誰に会おうと俺の勝手だろう?」
「いやいや、お互いに活動してるんだから影響するに決まってるじゃん。てか、
「俺はものじゃないよ、
「ああ、ごめん。まずこれを確認しないといけなかった。あのさ・・・」
「
俺を突き刺すような視線でじっと見つめる
「そうだよ」
断言した俺に、突き詰めていた表情が、一瞬歪んだ。しかし、すぐにキッと目線を絞った
「でもさ、わたしたちこれからじゃん。これからふたりでやっていこうっていう時にさ、
「ねえ
その願いに俺は胸に手を当てて、強く宣言した。
「約束する、俺は絶対に
薄暮の空に、少女のくぐもった声が鳴り、耳鳴りのように響く学校の部活動の音が、ひどく現実味を帯びていなかった。
ふらりと揺らいだ
「・・・・・帰って。あと、打ち合わせは明日にしよう」
「・・・ああ、そうだね」
俺は彼女の言う通り、背を抜けて帰宅した。右手に曲がり、校舎の影に消えようとした
「・・・・・」
得も言われぬ気分の悪さに、足取りも重くなる。
コーン!と響く金属バットの音が、落ちた心を淡く震えさせるだけだ。
「あれ?
くたびれたように歩く
「ちょっと待ってくれ。今はひとりにしてあげてほしい」
「・・・・どういうことだ?」
事情を聞いた野球部員たちは、そのまま
そうしてきた道を戻った
彼らの視線の先には、膝を抱えて静かに泣いている
「最近、・・・
そうして
その原因が、一人の女生徒のせいであると。
しかもその女生徒がそれを利用して、恋人の長谷川海里を奪おうとしていることも。
「でもさ、おれ許せないよ」
説明を聞いた野球部員のひとりが、
押し黙る彼らの中で、その言葉は、強く、彼らの心に響いた。
「
悔しそうに、握り拳をつくる彼に対して、仲間も後に続いた。
「確かに、何もしてないヤツがそんなことを言うのは、気分が良くないな」
「
横にいた一人が肩に手を置いて、顔に微かな怒りを滲ませていた。
「・・・ありがとう、助かるよ」
——————————————————————————————————————
その日から、瞬く間に情報は学校中に流れた。
以前、本当に
——————————————————————————————————————
そうして来たる文化祭に日。
文化祭ライブは大盛況で、
しかし、その会場をわかす姿は、何かに似ていた。
ミロのヴィーナス、不完全に完全。
どこか欠けた、少女。
されど欠けたからこそ、人々を魅了する。
そのまっすぐな表情と、痛切な歌声が、どこかもの悲しさを湛えながら、人々の脳裏に刻まれた。
強く、だけれど不安定に孤高で、
マイクを握る細腕はしなやかで繊細だ。
その喉から繰り出される歌声は、何をもにも揺るがぬ芯があった。
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※
~~ そうして物語は、 第三章へ ~~
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