俺の全てはその歌に。


次の日から、俺は必死に亜美あみを売り込む手段を探した。


町内イベントのステージ参加、その他、多様なボイストレーニング法をネットから引っ張り、公式サイトを設立。その他複数のSNSのアカウントを作成、同時運営した。


それでも、中学目前の、それも設立直後の反応は、見て居られるものではなかった。


幼馴染を売り込むと意気込んだものの、

視聴されるほうが珍しいという状況だったのだ。


あまりの反応の無さに気恥ずかしくなったのか、亜美あみが何度もやめようと言ったが、それでも今はまだ下積みの時期だからと、あの手この手で誤魔化しやって来た。そうやって言いくるめられながらも、亜美あみも存外に、真面目にやっていた。彼女にとっても、それはしっかりと夢だったのだ。


いくつか部屋で動画を撮りながら、試行錯誤の毎日。


一番手ごたえが良かったのは、全国で開催されるのど自慢大会だった。


県予選で準優勝、それでも十分すぎる結果だ。


「この路線で行こう。亜美あみ


その結果もついてか、亜美あみのお小遣いが上がった。

俺たちの練習場所は、亜美あみの部屋からカラオケボックスに。


大会を基軸にその他にも賞金イベントに参加、各種動画サイトやSNSも、先の大会で運営に頼んで行った宣伝が功を奏したのか、少しの盛り上がりを見せた。

それでも吹けば消えてしまうような視聴数だったが・・・。


だからだろう、中学に上ってすぐには、冷やかしも受けはした。


「ねえ、最近亜美あみ、調子にのってない?」


「わかる。なんか嫌な感じだよね」


「見てよこれ、超下手くそだよ。これならわたしがやったほうが良くない?」


「うわ、なにこれ」


「出来もしないくせに夢見ちゃって、ほんとうにバカだよね。可哀想」


そんな周囲との隔絶にも屈することなく継続できたのは、長谷川はせがわ海里かいりの存在が大きかった。


「おい、お前ら。亜美あみになんか文句でもあんのか?俺は陰口を言うような性格のひん曲がった女はキライだぞ」


甘い顔から、鋭い視線と言葉が飛ぶ。その言下を追って、少女二人が弁明する。


「は、長谷川はせがわくん。そんなんじゃないよ。ね?」


「う、うん。わたしたち、亜美あみちゃんのこと大好きだから。冗談だよ、冗談・・・・だからキライにならないでね?」


そうやって俺たちの壁になってくれたから、俺たちは安全にただ努力することができた。


亜美あみが地方ブロックの代表になった時には、イベントで獲得した賞金を資金源にして、スタジオを借りた。


機材は全て借り物ではあったが、それでも一畳の部屋からここまで来たのだ。


中学三年、受験を考える頃には軌道に乗って、それなりの知名度を得ていた。


「すごいじゃん、亜美あみ!今度テレビ出るんだって?!」


「応援するよ!亜美あみならきっと優勝できるって、わたしたち信じてる!」


「ありがとう、ふたりとも」


教室の反対側でもみくちゃにされる亜美あみをしり目に、俺と海里かいり

窓際でそれを見ていた。


「けっ!都合のいい奴らだぜ。二年も前だったら、亜美あみのこと見向きもしなかったくせによ」


「気にする必要はないよ。いいじゃないか、今が平和なら。それも亜美あみの努力の成果だ。元々才能はあったんだよ」


「はんっ!有象無象は見る価値無しってか!さすがはプロデューサー様だな!それなら亜美あみが成功するのも当然だ!」


「それはお前が守ってくれたからだよ、海里かいり。これからも頼りにしてるぜ、ボディーガード」


「うるせえ、8年間もおもりさせやがってこの野郎」


だけれど、そうして得た平穏は一時で、次には新たな苦難が待ち受けていた。

それは高校受験だ。


康人やすとは一般だよね。勉強、頑張って」


「いや、俺も一芸だ」


俺たちの通おうとしている高校は、少し特殊で、一芸入試なるものがある。


通常の受験とは違い、並外れた身体能力と運動センス、もしくは、桁外れな才能を持つ者を発掘する競争型のテストだ。


もちろん海里かいりは身体テスト、まあ、あいつなら問題ないだろう。亜美あみも今の知名度と、投稿している動画、過去の実績を上げれば申し分ない。


「え?でも康人やすと、なんかあんの?」


だから彼女にとって、俺もそこを受けるのは、予想外だったのだ。

我が幼馴染ながらひどく恩知らずなことを言うなあと思いながらも、


「まあ、なんとかするよ」


そう、何とはなしに答えた。


それに、手を打たないわけにもいかなかった。


一応の安全策、滑り止めも準備しておかなければ。


そうして来たる受験日に、幼馴染三人が校門の前で集まり、俺が言った。


「今日受かって、お祝いにカラオケに行こう」


亜美あみの独壇場じゃねえか・・・」


「わたしは楽しいよ」


「でしょうね」


はあ、とため息をつきながら、諦めた表情をした海里かいりは、


「もう長いこと面倒見て来たんだ。今更三年ぐらい追加されったって、変わらねえよ。お前ら、絶対に落ちんじゃねえぞ」


その一言を残して、大きな背中は、グラウンドに向かっていった。


それとは反対方向に、俺と亜美あみは校舎の方へ。


そうして、俺たちはそれぞれの会場に向かった。



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次回『ならば俺は〝悪〟でいい。』

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