第二章 ひび割れた関係、変わった生活
もうひとつ物語
俺、
対する俺は、いつも周囲からは、良くは思われていなかったと思う。
輝くふたりの引っ付き虫、おいしいところを喰らうハゲタカ、ずる賢い狐。
そんなところだろう。
何もなかった。何もなかったのだ。
誇れるモノなど、何一つなかった。
そんな俺でも二人と関わることが出来たのは・・・。
小学校の頃の、ちょっと特殊な関係があったからだ。
「
「またか、
同じ家に住む
父親は海外赴任、母親は自宅からの距離を考えて会社近くの賃貸を借りていた。
そんな俺を一人暮らしさせるのも心配だったから、こうして佐々木家にお世話になっている。元々安藤家と佐々木家は、親同士で仲が良かった。
親の世話がなくとも、なに不自由なく暮らしていけたことには、感謝しかない。
そんなある日だ・・・。
大好きな祖母が亡くなった。
せっかくの家族水入らず、顔をあわせたのは、大切な人がなくなったお葬式だった。
普段は笑顔を絶やさない母も、どこか浮かない顔をしていて、父にいたっては目の端に涙をためていた。
俺はというと、ただ現実を受け入れられずに呆然としていた。葬式を終えて、両親に抱きしめられてもなおだ。
そうして両親が、
「うっ・・・うぅ・・・・・」
葬式から三日を越えた晩だったかな、俺はベッドで泣いた。現実として浮き彫りになってきた死という事実を、今になってようやく実感できたのだ。
その瞬間、頭の中で懐かしい景色が次々と思い浮んだ。
祖母の家は、赴きだった民家で、木造りの、とてもらしい作りだ。
夏の日、訪れる祖母の家は、夏の日差しに照らされて、天上の黒い瓦が光っていたから、車の中で覗く俺にとっては、その反射がいつも目印だった。
家の柱に掘った、俺の身長。何度も穴をあけた、襖の引き戸。傍から聞けば、じじ臭い、ばば臭いと言われるだろう匂いが、俺は大好きだった。
けれど思い出す香りは、その残り香で、まるで目から零れる涙が、本当の匂いを落としているみたいだった。
「
突然開かれた扉から、
「だ、大丈夫だよ。心配いらない」
そう言っていた俺の声は、彼女にはどう聞こえただろうか。
必死に取り繕ったが、普通に聞こえただろうか。
「壁が薄いから、聞こえてたよ」
「・・・・明日になれば、治るよ。・・・きっと」
俺の悲しみは、どうやら隠せていなかったらしい。
男の子だったから、泣くことに気恥ずかしさを憶えていた俺は、必死に問題ないと、彼女から背を向けた。とても見せられる顔ではなかったのだ。
「・・・・・・」
俺のくぐもった声に、唇を噛みしめた
そうして背を向けて寝転ぶ俺の肩に触れて、優しく撫でたのだ。
「La——————————」
それは耳心地の良い子守歌だった。
「LaLaLa————————」
普段はポップな曲調が好きな彼女、だが今、彼女の口元から奏でられているのは、悼むような、祈るような、願いだった。
それは、誰かの声に似ていて、俺は少しして、ようやく思い出すことが出来た。
「LaLaLa——————La———」
昼下がりに、おばあちゃんが謳ってくれた子守歌。
どうして忘れていたんだろう・・・・。
そうして、いっぺんに記憶が溢れて、俺は声も押し殺すことが出来ずに、声をあげて泣いてしまった。
「わたしね・・・歌手になりたいんだ」
俺が泣き止んだ頃に、彼女が言ったのだ。
「今は難しいかもしれないけど、いつか必ず、
「・・・・きっとなれるよ。いや————」
自信なさげに言葉を並べる
「俺が必ず、
その時の俺の顔は、とてもではないが、恰好はついていなったと思う。
腫れぼったくなった目元、涙の跡の残った頬、そして鼻声。
客観的に見れば、すごくかっこ悪い。
「・・・そういうの・・・なんて言うんだっけ?」
俺の言葉がすごく嬉しかったのか、満面の笑みでそう挑発する。
その顔に、言葉を間違えたと理解した。
ここではもっと〝らしい〟言葉がある。
「今日から俺は、
その日から、俺にその肩書がついた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※
次回『俺の全てはその歌に。』
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