全てを踏み越える魔王。
「う゛そ゛つ゛い゛て゛た゛な゛ん゛て゛ひ゛ど゛い゛じゃ゛な゛い゛で゛す゛か゛~~~~」
「あはは、ごめんなさいね。でも良い演技ができたでしょう?」
「だ゛か゛ら゛っ゛て゛こ゛ん゛な゛命゛が け゛な゛こ゛と゛さ゛せ゛な゛い゛で く゛だ゛さ゛い゛~~~」
「なんでお前、前に出たの?」
「だってその方が盛り上がったじゃん、結果論だけど・・・」
「お願いだから予定にないことしないでくれるかなぁ!怖いから!」
舞台袖でステージを終えた両陣営は、張りつめていた空気から解放され、普段の状態に戻っていた。
先程のステージでの荒々しさはもうなく、そこにはごく普通な学生たちがいた。
一方は両肩に乗った重圧から解放され大人にしがみつき、一方は相手の首元を持ってぐわんぐわんと揺さぶっていた。
『さあ、続いては来ました来ました来ましたァ!我らが学園の誇る才能の権化!彼女の歌は人々を魅了する!先日に行われた学内アンケートでも、その実力から一位を獲得!テレビ出演も数えきれないほどに踏み越えて、芸能へと転向しようとしている彼女!さあ、あなた方は将来のスターの目撃者です!飛び立つ前の鳥が、今、翼を広げます!』
だが、そんな彼ら彼女らもスピーカーから流れる音に、気を引き締める。
まだ、戦いは終わっていないのだ。
学内祭で完全に心を奪われた司会は、興奮した様子で紹介を始める。
その次々と飛び込んでくる情報に、観客も騒ぎだす。
客席には、
そして、幕が上がる。
そこには闇があった。
人混みが、待ちに待った人物がいないことに困惑する。もしや何かトラブルがあったのではないかと、辺りを見回す者もいた。
だけれど、次の瞬間。客席にいるすべての者は、ぞわりと背筋に寒気を憶えた。
なぜなら音が足元から駆け上がってきたのだ。
それはあらかじめステージではなく、ステージの下に配置したスピーカーから流れた曲の導入音だ。
戦慄く観客を置いて、ステージの闇が揺れる。だが、それはライトの消えた会場では輪郭しか見えない。
だけれどひとつだけわかることがある。
その輪郭からは、複数人がステージに立っていることが伺える。
それは学内アンケート第三位の猛者たちだった。
『出演者はそれだけではありません!なんと!ダンス部も緊急参戦だァ————ッ!これで彼女たちに敵はなしだァ——————!」
ダンス部は前奏に身を任せて、肢体を広げる。
予想だにしない隠し玉に、ステージを見る者達は押し黙る。彼らはもうステージから目を離せなかった。
それは、学園祭のレベルではなかったのだ。
前奏が、積みあがる。
それに合わせてダンサーたちもお互いの腕を重ね始めた。
外側から集まる彼らは、中心へと両腕を伸ばす。音量が上がるごとに、ダンサーの腕で作られる肉壁は、その向こう側を完全に見えなくした。
そうして通過した歌いだし。
音がわたしたちを殺した。
それを受けた観客の理性は、そのタガを外される。
なんと音が、歌声が、生じた瞬間にダンサーは蜘蛛の子を散らすように左右にはけ、彼らの腕の間から突然、
会場が思わず感動に包まれる。
それは喝采、感涙、感激、指し示すことなく歌の途中だというのに拍手が巻き起こった。
待ちに待った歌が、最上のタイミングで彼らの耳に届いたのだ。
「「「「「・・・・・・」」」」」」
それを目の当たりにした演劇部と軽音部の面々が、言葉を失った。
確かに、この演出には驚かされた。しかし、彼らが言葉すら発せなくなったのは、なにもダンサーがついたことではない。
彼ら彼女らは、亜美の歌だけで喉を潰されたのだ。
信じられないことに、
なんと彼女はこの短期間で、上限を破って仕上げて来たのだ。
学内祭など序の口だったのだ。
彼女はここに来てまだ進化している。
その恐ろしくも禍々しい姿。
もはや、魔王であった。
「クソッ!あいつらタッグを組みやがった!」
軽音部、ギター担当の
それを皮切りに彼らに絶望の色が流れ始める。
「・・・・・・」
演劇部の主演である
そんな今にも崩れ落ちてしまいそうな教え子の肩を抱いた演劇部の顧問は、あかねを力強く励ます。
その言葉は、隣で冷や汗を垂らす軽音部にも聞こえた。
「安心しなさい。あなたたちは決して、あれに引けはとってはいませんでした」
その鼓舞に、ステージに立ってきた挑戦者たちは顔を上にあげた。
まだ、わたしたちは負けてはいないと言うように。
「信じなさい、あなたたちの最善を。これまでの努力を」
その一団は、会場の熱気を受けても、下を向くことはなかった。
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※
次回「すべての者の行動が、此の星々に繋がった。」
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