すべての者の行動が、此の星々に繋がった。

それは、今までステージに立ってきた亜美あみだからこそ気づけた。



(・・・・・・・・・・・・・・・・?・・・・・・・????)



今まで幾度となく、彼えらの顔を見て来た亜美あみだからこそ、理解できた。



(あれ?これなんか・・・・おかしくない?)



そのことに気付けるのは、この会場において、亜美あみを除きひとりしか理解できなかった。


そのひとり、安藤あんどう康人やすとにとっては、違和感程度のものであったが、その違和感が会場にいくつも設置された虎の子の小型ライトを、早々に起動させた。


そうして康人やすとは巻き起こる歓声かんせいに、やはり気のせいだったと、この直感を



◇  ◇  ◇



そうしてライブは終了し、万雷の喝采が巻き起こった。


ステージを終えた亜美あみは興奮する観客と司会の声を、その背中で受ける。


「お疲れ、亜美あみ


舞台袖で康人やすとが出迎える。その胸に亜美あみは飛び込んだ。


突然の抱擁ほうように、虚を突かれた康人やすとではあったがそれも一瞬で、彼は彼女を労わるように肩を撫でた。


「ごめん康人やすと、わたし負けた」


その言葉に、動揺した康人やすとはステージを見やる。


そこには彼女が進化せざると得なかった原因が経っていた。


もしかすれば、彼女の純粋な歌声ならば、この結末に至ることはなかったかもしれないのに・・・。



◇  ◇  ◇



片や観客側では、亜美あみの話題で持ちきりだった。

生徒全員が先程に行われた亜美あみの歌唱を褒めたたえていた。


「次、どうする?」


「え~。でもキモイやつでしょ~。いいよ。ほか行こ」


もうその日、最後の演目だ。そうなれば人も自然と帰路につく。


「お父さん?もう帰るの?」


「ああ、もういい時間だしな。最後まではいられないよ」


これは文化祭、すべてが終わるまで留まるほどの熱中はなく、気分が乗らないから変える、時間が遅くなってきたから帰る、メインイベントが終わったから帰る、程度のラフなスタンスなのだ。


「ん?・・・どうしたの?」


会場の出口に向かった女生徒だったが、身内のひとりが立ち止まりステージを見ていた。彼女もここにきて、その違和感にようやく気付いたのだ。


少女は指をさして仲間に指し示す。


「なんで皆、帰らないの?」


しかし、異常はそれだけではない。

出口から退場しようとした彼女達だったが、逆に中へと押し流されてしまった。


なぜなら、


そうして照明の落とされたステージで、光が灯る。


それは遥斗はるとだ。彼はステージで両手の光を回す。


「・・・・帰ろう。あんなのと同じに思われるなんて嫌だ」


「そうだね」


そうして、会場の生徒たちが出口を目指そうとするが、彼らもその異常に気付いた。


だが、気づいた時にはもう遅く。彼らはもう身動きを取れなかった。


それほどまでに、人が集まっていたのだ。


『はい!続きましては!・・・・・・・え?紹介分の変更?』


司会が傍らからきた生徒に困惑する。その声がマイクに入ってしまっていることから、司会にとっても予定外のことだったのだ。


それにより、遥斗はるとには肉体の痛みだけではなく、心の痛みも生じた。


(俺は多分・・・この学校の人たちにヒドイことをする)


それは、『人間とはそういうモノだ』と豪語する遥斗はるとにとっても、目を背けたくなる悪逆だった。


けれど・・・・・。


(けれど・・・俺は大切な人に伝えたいんだ)


浅井あざい遥斗はるとにとっては、それよりも優先すべきことがある。


『・・・・え?・・・ウソ?!・・・え?』


さっきよりも大きな動揺が、マイクに入り込んだ。

それを気にできないほどに、その知らせは司会を驚かせた。


だが、すぐに咳ばらいをして冷静さを取り戻した彼女は、紹介に移る。


『な、なんとなんと!ここに来てスペシャルゲストの登場だァ———————ッ!その明かりを灯す姿に多くの賛同者を有する命知らずな若人!批判を跳ね除け、嘲笑を乗り越え、サイリウム両手に駆け抜ける時代齟齬じだいそごのトップランナー!それはニッチか、はたまた新領域の開拓か!』


前奏が終わりに到達する。

そうして、それまで一人で光を振っていた遥斗はるとが両手のサイリウムを天井へと投げ、視線が上に集まる。


これによりステージは彼らの意識外となった。


『チャンネル登録者は100万人越え!彼らのパフォーマンスは人の目を灼く!チーム「Stars」の登場です!』


紹介の幕引きと同時に、ステージで24の光が灯る。


その大質量の光源に、観客は息を呑んだ。

その星々に、観客は凝視せざるを得なかった。


それはまるで、初めて綺麗なモノを見た、子どものような目だった。


明日華あすか、頼みがある。みんなを・・・チームを集めてくれ』


彼らは遥斗はるとが設立したヲタ芸チームのメンバーである。




ここに至るまで、実に多くの行動があった。


それを知る者は、どこにもいない。

舞台袖でステージを見守るみなみ明日華あすかと、その電話先で声を荒げるバーの店主のマイクでさえもだ。


『おい、マイドーター!これはどういうことだ!』


「どういうことって・・・わたしは与えられた仕事をちゃんとやったよ」


遥斗はるとを拘束するはずだった奇襲班は、無駄を嫌う現実主義者が〝無駄であると知りながら起こした叛旗はんき〟によって阻止され、主義者は今、校舎裏で昏睡している。


彼の行動が、中心で輝く一番星に未来を与えた。


『だからって店の広告を使って宣伝する奴があるかぁ!』


「全部じゃない。一部分を借りただけだよ、父さん」


チーム「Stars」をこの場に辿り着かせないために仕向けたはずの襲撃班は、すべての事情を理解した歌姫の幼馴染である巨漢が「悪い事をした、だからこれはその償いだ」と立ち塞がることによって回避した。


彼の行動が、一番星に続く星々をここに導いた。


『お前なぁ!やるのは構わないが事前に許可を————————』


「感謝してるよ♡ありがとう、パパ♡でもわたし今は忙しいから切るね♡」


『あっ・・・おい!ちょっと待っ————————————』


康人やすとの最後の頼みに綱であった理事長による音源ルームの緊急停止は、そこを管理していた数学教師が「僕でもやればできるんだッ!」と押し返したことによって、こうして残っている。


彼の願いが、星々を音楽を授けた。


そして・・・。


「さてと・・・・・」


明日華あすかは胸元にスマホを仕舞うと、ステージに目を向けた。


「今まで散々やってくれたけどさ・・・正直、すごくムカついてんだよね」


その目線の先は、ステージで輝く光たちではなく、反対側の舞台袖、


「けれどその顔が見れてスッキリした。だから許してあげる」


そこで慌てた様子でどこかに連絡を取る康人やすとを見ていた。


「アタシの方が上手だったな、青二才」


人をプロデュースすることにおいての勝敗があった。


事実、会場に集った観客には「Stars」のファンの方が多くいた。



すべての者の行動が、此の星々に繋がったのだ。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回「我らを導きし源流よ、たとえあなたと別れることになっても。」


誰にでも、他人に言えない趣味や好きなモノがあると思います。—————

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