我らを導きし源流よ、たとえあなたと別れることになっても。
それは
「来たか、待ってたぜ」
年のほどは
扉の前で佇んでいた彼は、
彼の後方を見ると、まだ何人かいた。
彼らの前に立った
「すまない、みんな。俺の問題に巻き込んでしまって・・・俺の力が足りなかったばかりに。感謝してる」
彼を出迎えた面々は、お互いに顔を見合わせて苦笑を浮かべる。
彼らにとって、そんなことは今更であったのだ。
「そんなの今更だ、気にする必要ねえよ。困ってるんだろ?」
「でも・・・打ち合わせも何も・・・」
あと二日、その期間でどれだけ完成度を上げられるか・・・。
だがその心配は無用だった。背後から
「大丈夫、事前に連絡は取った」
あらかじめこうなることを予想していたのか、彼女はチーム全体に知らせを出していたのだ。
「事情はすべて知ってるよ。相変わらず、デタラメなくらいに詰め込みやがって・・・俺たちを殺す気か?お前は・・・。悪いが調節した。あれじゃあ俺たちがついていけないからな。目を通しておけよ。皆もう頭に叩き込んでる。あとはお前だけだ」
賛同したのは
それを証明するように、一人の気弱そうな少女が
「えへへ・・・リーダー。これ・・・これ・・・」
少女は手に持ったモデルガンを、「試しに撃ってみてください」と遥斗に差し出した。
言われた通り、それを売って見ると、明るいスタジオで見にくくはあるが、確かに小さな小型サイリウムが点灯した状態で発射された。
それに、
「
「
その少女の傍らに出て来た少年が、少女の手元にあるもう一丁のモデルガンを見て言った。
目前で手元のレプリカを見合う少年と少女、彼らも「Stars」のメンバーだ。
「凄いじゃないか!」
ヲタ芸だけに伸び悩みをおぼえた
「えへへ・・・はい。文化祭なんて反吐が出るくらいキライですが・・・リーダーのお願いともあれば、喜んで行きます」
笑みを浮かべながら答える
その返答に、
「・・・ありがとう、助かる」
「えへへ・・・はい。文化祭・・・生徒がいっぱい・・・陽キャ・・・えへへ、えへえ、へへ・・・・・へへふふふフフフ」
「み、
突如として様子のおかしくなった
そんなピりつくスタジオの中に、空気を読まずにも、最後のメンバーが集った。
「やあ、やあ!待たせたね、皆!主役の登場だよ!駆けつけるのが遅れて申し訳ない!」
その美青年はスタジオの扉を開けて、髪を掻き上げると高らかに声を上げ続ける。
「不運にも我が恋人が熱を出してしまってね。おかゆを作り、食べさせて—————————」
「陽キャは死ねえええええぇえっぇぇええアアアッ!」
「なんとおおおおおおぉッ!」
憎悪が有頂天に達した
そしてスタジオに、雨のような発砲音が響く。
「ああ・・・・また
さすが武器オタクと言うべきか、リコイルも完璧で間隙なく銃弾を浴びせている。
その様に、
「頭を抱えてないで止めろ!
ちなみに今、
そんなイケメンである顔がボコボコになったあたりで、彼は
◇ ◇ ◇
数年間、同じスタジオで活動してきた彼らに
当日の舞台袖、静かに会場を見つめる
「準備も完了している。あとはお前の号令を待つだけだ、
「・・・ここまで本当にありがとう、
「・・・・・・御礼なんて水臭いぜ、そんなのこれからもたくさん被ってやる。どこまでもな」
そしてその予感は的中し、ここに来てようやく
「僕はこれを機に、ライトを置くことになるだろう」
そこにはなんの未練もない、まっさらな顔をした憧れがいた。
「あとは頼んだぞ、新リーダー」
肩に手を置かれて、託される。その手は、鉛のように重かった。
だけれど、
だから愚かであると知りながら、
「・・・やり残したことはないのか?」
もっと、彼とまだ見ぬ景色を見たかった。
「まだ満足していないことがあるんじゃないか?」
まだまだ、彼の隣に立っていたかった。
だけれど、それは叶わなかった———————————。
「あるわけない。俺にとって大切なものは、ただひとつだけだよ、
なぜなら彼の心には、それしかないのだ。
さっきまでの焦りが嘘のようになくなった
「そうか・・・・。
「それは皆に見せてやれ。これからはお前が導くんだから」
「ああ、必ず辿り着いてみせる」
「期待してる。その時は、しっかりと目に焼き付けてやるよ」
そうして、
「
その背中を、
彼にはまだ言ってないことがあったのだ。
「アンタの姉貴が疎まれたのは自分に力がなかったからと言ったな。それは違う」
彼にはそれが認めることが出来なかった。
〝自分の信じた星〟に力がなかったなどと、信じることが出来なかった。
「俺たちはアンタのおかげで自分を好きになれた、認めることが出来た」
それでもいいんだと、認めて貰えた。
「こうしていることが出来たのは、先頭でアンタが引っ張ってくれたからだ」
主張できなかった俺たちに、声を出せる場を与えてくれた。
「俺たちの努力も、アンタの〝願い〟も、絶対に否定させたりしねえ」
だからこのステージに敗北は許されない。
「どこまでもついていくぜ、リーダー」
俺たちの積み重ねた月日も、この情熱も、他人が蹴落として良いほど軽くはない。
それを受け取った
自分の無意味な行動は、誰かの意義のある行動だったのだ。
それが彼にはたまらなく嬉しかった。
そんな
「おめえら気合いれろ!これがリーダーの最後の晴れ舞台だ!」
それはオタクと揶揄されるような者たちではなかった。
ひとりひとりがなにかの勇者で、
ひとりひとりが誰かの救いであった。
そこに侮蔑も嘲笑も存在しない。
だから、それがどんなものであろうとも、なにかに全力になる人は、かっこいいのだ。きっとそうだ。
◇ ◇ ◇
止まらない震えと葛藤を抱えて、
だが、それも自分の意思ではない。
思い悩む
彼女は今、会場の入り口で立ち往生している。
「・・・やっぱり、帰る」
顔を上げて、踏み出そうとした
脳内に溢れだした嫌な記憶が、彼女をこの場所から遠ざけさせる。
そうして帰ろうとした時だ。
「どこに行こうっていうの?」
彼女は
「
知るのが遅かった自分には、彼に何もしてあげられなかった自分には、これしかできない。これを成し得なければ、わたしは彼に顔向けできない。
それが
「アンタが逃げたら、あいつが何のためにやってきたのか、わかんないじゃない」
これまで
そうして全てが揃った今、彼女の瞳を通して、あの時の熱が返還される。
背後から聞こえる歓声に振り返った
◇ ◇ ◇
背後で仲間のサイリウムが点灯したことを確認した
それを受けて「Stars」の面々は、それぞれの配置につく。
中心に立ったのは、新リーダーの
彼の特徴は肉体を活かしたパフォーマンス。
細身ではあるがガッシリとした骨格、樹木のように舞台の床を踏みしめる長い足。
彼はその大きな肉体表現により、チームの大黒柱となっていた。
「始まったよ。またあのキモ—————」
ヤジを飛ばそうとした女生徒の口が止まる。彼女はそこから先の言葉を紡ぐことが出来なかった。
なぜなら
それは他の生徒も同じで、
言葉を飲み込んだのは、なにもそのせいだけではない。
彼らの動きは、全くの同一であったからだ。
もう何百回とやって来た。
曲も音程の細部まで明瞭に覚えた。
動きも筋線維の微細な血流まで思い出せる。
横で打つ仲間の息遣いすらも記憶に刻んだ。
だからそれは同一人物なのではと見紛うほどの連打であるのだ。
曲が進み、布陣が弾倉のように回転する。
今度は
彼は
彼の特出した能力は、魅せ方だ。
彼は視線(女性限定)には過敏なので、
それによって会場の全ての女生徒は、彼の味方となった。
次の瞬間、黄色い歓声があがる。
そうして、また弾倉がまわった。
陣形が変わり、ふたりの少年少女が、突貫する。
彼らの手には、紐トーチのようなものがあるが、よく見ると細かな違いが見られた。
サイリウムは紐の一端ではなく、両端についていたのだ。
それはヌンチャク型のサイリウムである。
武器に精通する彼らは、肉体の一部が如く、それを振り回す。
それに彼らを待っていた観客が歓声を上げた。
ここで、暗闇の中で輝く光の軌跡を見てきた学園の生徒らの感性が崩壊を始めた。
今まで、卑下してきた認識が、目前のそれとは別のものであるのではないかと疑い始める。
次の瞬間、先程のヌンチャクサイリウムで作った光よりも、巨大な光が現れた。
その光は、両手を伸ばした人間の可動域を優に超えていた。
それを扱っているのは
ふたりの間で
三人が扱っているのは槍型のサイリウムである。
長く頑丈な棒の両端には、サイリウムがついていた。
その時には、会場にいた学園の生徒も、純粋にそれを楽しみだしていた。
認識が捻じ曲げられたのだ。
その証拠に、
ふたりの生み出した流星にも似た光が、確かに彼らの心に響いたのだ。
その波に乗るように、「Stars」のダンスチームが前に出る。
今までに負けずとも劣らない熱狂が巻き起こった。
ダンスとヲタ芸の混同を見た学園生徒の中で、「Stars」の演出と、自分のたちの忌避するヲタクという認識が
一小節を踊り切った彼らは、両側へと弾ける。彼らは自分たちをここまで導いてくれた主導者に道を空けた。
曲面は三番のサビ前の前奏、その間奏部だ。
今までうるさいくらいに騒がしかった会場の音が、一瞬止まる。
穏やかな曲調の中で、少年は己が出せる最大の技で、人々の声を奪ったのだ。
それは、学内祭よりも劣った動きだ。
度重なる肉体的苦痛により、それは「Haru」史上最低の動きと言える。
しかし、それを受け入れる態勢に入った彼らにとっては、それだけで十分に魅了できるものであった。
(姉さん、見てくれ)
少年には、あの時の感情が、今もまだその胸に残っている。
(あなたの好きは間違いじゃないんだ)
それを示すように会場が、徐々にざわめきだした。その声には蔑みはなく、あるのは純粋な驚嘆だ。
(だってあなたが俺にくれたモノは、こんなにも人々を魅了している)
両腕から繰り出される、
その速度に、静まった会場が再熱した。
それがこれまで
技で魅了するのではなく、速さで魅了する。
視線へ滂沱の情報量を流して、考える頭をパンクさせて、勢いのまま魅了する。
認識すら超える速さで相手に刻み付ける。気持ち悪い文化、そんな固定観念すら置いてけぼりにする技で、速度で、努力で、何もかも捻じ曲げる。
ヲタクの文化ではない、これはもはや芸術だ。
そこで彼は見たのだ。
在りし日に自分に似た目を。
(ああ、そうか・・・)
それを見てしまえば、自分などどうでも良くなってしまう。
(姉さん、あなたも僕にこれを見たの?)
そんな宝物を見るような目をされては、全てを賭けられてしまう。
(こんなにキラキラした目を見たから、最後まで捨てずに抱え続けてくれたの?)
なら、僕もそれに答えないと—————。
僕とあなたがいた夏の部屋。
「綺麗だね」と言い合ったあなたの背後では、空へと伸びる入道雲。
だけれどあなたの顔はもう思い出せない。
(あなたの顔が、とても遠いんだ)
あなたの顔を思い出そうと、あなたとの唯一の繋がりに埋没したが、それは同じだった。スタジオへと集まってどんなに素晴らしいモノを完成させようとも、それは変わらない。
あの頃を思い出すだけに止まり、時だけが過ぎていく。
でも、もしも—————。
(一秒だってなくたっていい)
居場所のなかった僕たちが集まって、そうして生み出した子供のような作戦が、あなたの心を救うのなら—————。
(一瞬でもあなたにまた会えるのなら)
そうすれば僕たちはまた動き出せるはずだから。
(さよならをしよう。)
そうすれば、またあの笑いあった日々に戻れて、もう一度、出会えるはずだから。
ステージの中央、少年が突き出した右手の矛先は、会場の入り口で口元を覆い、涙を浮かべる
彼の気持ちは確かに届いていた。
だがそれは
人を魅了するのは
彼らの人生の中では、それはほんの一時、
だけれど、
〝星〟は瞬きであるからこそ美しいのだ。
最後のサビに突入した。
メンバー全員が点灯したメガサイリウムがステージの全てを照らし、弓を引くような動作から始まったアマテラスからの腕を広げて派手に回転するウィンドミルが彼らの最後を彩った。
数奇な運命で巡り合った彼らは、彼らにしか出せない色で人々を魅了した。
演目は終わり、幕が下りる。
会場は、拍手に包まれていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※
次回「さようなら、僕の大好きな人。」
そんなあんたが胸を張って、好きなモノを好きだと叫べる世の中が、—————
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