さようなら、僕の大好きな人。
「負けちゃったね、
文化祭が終わり、会場で一番に注目を集めた者達が決まった。
彼、芸能事務所の社長である
「待ってください、異議を申し立てます」
納得のいっていない
それは
「当然の結果だろうね、あの場には「Stars」のファンが多かった。なら、投票で負けるのも当然だ」
「・・・・わかってるじゃないですか、ならこの結果は無効です。彼女には才能がある。こんなのズルだ」
相手が理解しているのであれば、話は早い。
「公演の順番だってそうだ、もしも
だから彼女は歌手になれる。
その歌で、もっと多くの人を魅了してみせる。
俺を救ったように、たくさんの人を救ってみせる。
だが、そんな
「本物はそれすら踏み越える」
「
「ち、違う・・・!」
康人はそれが嘘であると分かっていたが、そう言わざるを得なかった。
この程度の嘘で亜美が歌手になれるならもうなんでもよかった
「言ってしまうが、
「これがこの世界の厳しさだ」
そればかりか、幾ばくかの生徒も「Stars」へと票が流れた。
それもひとえに、彼らも染まってしまったからだ。
その結論が、経営者である彼のスカウトに待ったをかけた。
「やり方次第で、どんな結果でも得られる」
だが、それで完全に彼ら、
彼らはまだ積み上げなければならないだけなのだ。そうすれば、あの歌は誰にも負けない。
「また這いあがってきなさい」
だから彼は、その先で
「ま、待って!」
残ったのは、会場の外裏口から帰る
「・・・・クソッ!」
人がいるかもしないという考えすら顧みず、
彼の右手から血が滴る。
「康人、手・・・・怪我してるよ」
動揺と怒りに任せた行動は、背後から歩み寄った
思わぬところを見られてしまい、今までの行動を隠すように血が垂れた右手を隠した
「
「・・・・・・」
彼女の顔を見据えて宣言する。
それを
「まずは宣伝力をあげる。今回の敗戦は決して
「・・・・
「俺も、君のプロデューサーだって胸を張れるように力をつける。もうこんな負け方は二度としない。だから—————」
「目、拭いたほうが良いよ」
「・・・・えっ?」
彼女の言う通り、熱い物が流れていた。
「あれ?・・・・なんでだ?・・・」
それは気持ちもだ。
「ごめんっ・・・
自分がもっと頑張っていれば、彼女を大空に羽ばたかせてあげられた。
彼女の夢を、もっと確実な道とすることが自分の仕事なのに、それが出来なかった。
なにより、自分が愛した歌が敗北したことが、たまらなく悔しかった。
「一緒に強くなろう」
そんな今にも崩れ落ちてしまいそうな
◇ ◇ ◇
「・・・・・寒いな」
文化祭から数週間が経った今日、季節は冬へと向かっていた。
そんな肌寒い朝に、俺、
「よっ!・・・
立ち尽くしていると、隣家の扉が開いた。
そこから出てきたのは制服姿の
「行かないの?」
「・・・人を待ってるんだよ。お前も一緒に行くか?」
「ふーん?」
「いいや、姉弟水入らずって感じだし・・・。先行っとくよー」
そうして、そのまま華奢な背中が消えた。
そのタイミングで、俺の家、玄関が騒がしくなる。
「もう!大丈夫だってお母さん!心配しすぎッ!」
その声に、俺の心臓と肩がびくりと跳ね上がった。
なんとかそれを落ち着かせようと、居住まいをただしたところ、「行ってきます!」と背後の扉が開く。
そこには、俺を確認してぽかんと口をあける姉さんの姿が。
その姿は寝間着姿ではない。ちゃんと制服だ。
「あれ?
「・・・・実は一度姉さんと一緒に登校するのが、夢だったんだ」
「なんだそれ・・・」
俺の余裕のない冗談を受けて笑みを浮かべる姉、
ふたりはそのまま仲睦まじく、学校に向かった。
「うわあ。懐かしい!・・・って、あそこの畑潰れてるし」
姉さんにとって、一年も経った通学路は、異世界と変わりなかったようだ。
こうして自然と笑顔を浮かべられる姉の隣を歩めるのは、何年ぶりだろうか・・・。
そんなことを考えていると、足元の疎かにしていた俺は
冷や汗を浮かべた俺だったが、それを即座に察知した姉さんは、すぐに支えてくれた。
だがその善意は、全くと言っていいほどうれしくなかった。
なぜならその手は、俺が着けているギプスに触れているのだ。
「・・・でもひどいよね、治療費だけ出して、あとは揉み消すなんて」
予想通り、姉さんはその話題に触れた。
その苦言は、我が校の理事長に対してだ。
しばし、痛切な無言を流れる。
せっかくの姉さんとの通学に、邪魔をしないでくれよ、俺はそう心の中で学校自体に悪態を吐いた。
「青春は残酷なんだ、綺麗なところしか見せない。姉さんこそ、大丈夫?特に勉強とか」
だけれど悲しいことに、今俺たちの会話の内容は、その学校の事しかない。
こんなことになるなら、子どもの時のことを、もっと記憶に刻み込んでおくべきだった。
「うぅ、嫌なことが言うなよぉ・・・。もう帰りたい」
これからのことと、学校から半ば押しつけられた課題の量に頭を抱えた姉さんは、そのまま学校に歩みを進めた。
「姉さんッ・・・・・・!」
その離れ行く背中を、俺は声を張り上げて呼び止めた。
その声に姉さんが振り返る。
「・・・・何?」
「・・・・えっと・・・・・・・」
一瞬、俺は口をつぐんだ。
その顔を見て、未練が湧いてしまったのだ。
「・・・・姉さん」
だけれど俺は、覚悟を決めた。
ゆっくりと深呼吸をする。
俺が今まで伝えなかったから、俺はそう知っている。
俺が彼女たちに選択を委ねてしまったから、俺はそう知っている。
俺が恐れてしまったから、僕はそう知っている。
言わなければならない。俺はそう決意した。
今まで、答えを出さずに黙っていたから、こんなにこじれてしまったんだ。
姉さん、一度俺たちの関係を白紙にしよう。
好きと、嫌い、ではなく。
男と、女、ではなく。
姉と、弟として。
ただ純粋な愛を叫ぶ。
今ここで、あなたと〝さよなら〟するために。
この気持ちと、〝お別れ〟するために。
怖いけど、もう一度踏み出すために。
あなたの好きなモノが間違いでなかったように、
この気持ちもきっと間違いじゃないから。
それを証明するために、俺はここまで来たから。
それを証明できたから、俺はこうしてあなたに口にできる。
そうして、少年は積年の想いを告げる。
「好きだ」
失ったモノは大きかったです。手に入れたモノは小さかったです。
けれど、その手に入れたモノが、何よりも大切なんです。
「ごめんね」
その言葉を受けて、
積み上げてきたものは、その一言で全て崩れ落ちた。
それがとても大きな感情だったから、彼はこんなにも傷ついた。
終わるものだと分かっていた。
だけど・・・・それがこんなにも・・・。
「痛いな・・・痛いよ、姉さん」
こんなにも、痛いことだったなんて・・・・。
「そうだね・・・すごく痛い」
それは
「悔しいなぁ・・・苦しいなぁ・・・」
俺はこの気持ちを、未来で何度も思い出すのだろう。
輝かしくも暖かな、木漏れ日の陽として。
「フられるのがこんなに痛いことなんて・・・知らなかったなぁ・・・・」
さようなら、僕の大好きな人。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※
Last Episode「次はキミだ。」
そんな世の中が、いつか来ますように。—————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます