運命よ、死に給え

 敗走 だ。 完全なる 敗走 である。


学内祭から翌日を迎えた遥斗はるとはマイクのバーへと撤退していた。


彼が見ているのはバーの大画面、そこから映し出される映像を直視している。

それは遥斗はるとが撮影した学内祭の映像だ。


「焦ったね。仕掛けが早すぎる」


場面は遥斗はるとがメガサイリウムを点灯した局面、明日華あすかがその様子を見て言った。


映像は最後方から撮られたものだが、ステージでは大きな光が灯っていた。


映像から微かに短く小さな歓声が聞こえたが、すぐにざわつきに掻き消えた。


「あの空気をどうにかしたかったんだよ・・・」


「それでも悪手だったよ。そのせいで最後が地味になってる」


遥斗はるとの言い訳にも「あーあ・・・」とばっさり一刀両断する明日華あすか


あまりの正論に、遥斗はるとも反省する。


「正直、甘く見ていた。こだわらずに〝やり〟も持っていくべきだった」


せめてあともう一工夫を加えていれば、どうにかできたかもしれなかったのに。


しかし、後悔ばかりしても仕方がないので、これを礎にして打開策を施すしかない。


「学園祭まで時間が無い。もう一度、演出を見直す。明日華あすか、意見をくれ」


あと一週間、練り直して治せるところは全部を治す。道具だけの問題じゃない、自身にもまだ足りない部分がある。


画面を消してスタジオに向かう遥斗はるとだったが、


「学園祭のノリで受け入れられないなら、もうどうしようもないと思うよ?」


カウンターに座る明日華あすかが、頬杖をつきながらそう言った。


遥斗はるとはその言葉を否定できなかった。


「結果が得られないかもしれない」


なぜなら彼は壇上でそれを見たのだ。


けれど・・・・。


「でもやらなければこのままだ。それだけは絶対だ」


少しでも認識が変わってくれるのなら、そこには価値がある。


「負け戦だと思うんだけどね~」


否定的な言葉を吐きながらも、明日華あすか遥斗はるとと共に、スタジオに向かった。



◇  ◇  ◇



一夜明けた学園で、遥斗はるとは見かけ上は普通に過ごしていた。


それでも彼の頭の中では、教師の声も雑音で、文化祭の構成立案でいっぱいだった。


それはお昼時を迎えた今でも同じだった。


浅井あざいくん」


考えていたところで、クラスメイトが話しかけて来た。

「どうしたの?」と聞くと、彼女は扉を指さして、


長谷川はせがわ先輩が、浅井あざいくんを呼んでほしいって・・・」


彼女の指の先には、それは大層、顔の良い長身の男子生徒がいた。


その生徒の登場に、クラスの女子生徒が黄色い歓声をあげる。



◇  ◇  ◇



次の瞬間、遥斗はるとは逆さまに空を舞った。


襲い来る浮遊感と、肢体に感じる遠心力も束の間で、遥斗はるとの背中ははコンクリートの地面に叩きつけられた。


「人の好みにどうこう言う気はねえよ・・・」


「そんなの勝手にやってればいい。俺は俺だ。・・・・けどさ」


苦痛の呻く遥斗はるとを見下ろす長谷川はせがわ海里かいりは、親の仇が如き顔で、地に這う彼を見下して言った。


「お前だけは絶対に許せねえ」


海里かいり遥斗はるとの襟首を掴んで持ち上げる。悲痛に歪んだ彼の顔からは、怒りを湛えた声が出た。


「お前がいなければ、若菜わかなは普通の女の子だった」


これが運命なら、死んでしまえばいいのに・・・。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~ 終着を彩る第Ⅲ章へ 星よ、赫赫と弾けよ ~~

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