手に入れた大切なもの。

遥斗はるとは将来、どんな人になりたい?」


僕は引っ込み思案で、いつも姉の後ろにいる、頼りない弟だった。


「うーん、とね・・・・・・わかんない!」


「わかんないかぁ~・・・」


背後では水樹みずきがゲーム機を両手にカーペットに寝転んで、足をパタパタさせていた。


「でもねでもね。僕、お姉ちゃんのことが大好きなんだ!」


「お~、嬉しいこといってくれるねえ~」


「うん!だからお姉ちゃんをお嫁さんにしたい!」


「う~ん・・・。それは難しいかなぁ。お嫁さんは水樹みずきちゃんがいいと思うよ?」


若菜わかな!」


背後にいた水樹みずきが、顔を真っ赤にして声を荒げた。


「僕は水樹みずきよりもお姉ちゃんのほうが好きだよ」


「・・・・・・・」


「コラ!遥斗はると!そんなこと言うんじゃありません!水樹みずきちゃんに謝りなさい!」


遥斗はるとは小走りに水樹みずきの下へと向かった。

姉のことが好きだから、何でも素直に言う事を聞いたのだ。

遥斗はるとは、泣く寸前の水樹みずきの前にしゃがみこんだ。


「ごめん水樹みずき、僕はお姉ちゃんのほうが好きなんだ・・・」


「・・・・・・・」


「コラ!遥斗はると!」


水樹みずきは泣いた。



◇  ◇  ◇



「お姉ちゃん、なに見てるの?」


「うーん?」


小学校低学年の頃だった。


姉はいわゆる〝〟の趣味に傾倒していた。


姉の手元では、両手にサイリウムを持った数人が、腕を振り回していた。


「綺麗でしょ?」


当時の姉の声音が、いつもより一段は高かったことを、よく覚えている。


「・・・・・・」


ふたり並んで寝そべって、それを見た。

自身の手元に落ちる姉の目は、期待と希望に満ちていた。

姉の目もキラキラと輝いて、彼女の手元もキラキラと輝いていた。


僕は、〝星〟に囲まれた。


この時だ。僕に目標が産まれたのは。僕も、こんな風に・・・。


「僕もこんな〝星〟になりたい!」


そう、僕は〝星〟を追いかけていたのだ。

川に落ちて、引き上げてくれた姉の笑顔、その〝星〟を愛したのだ。



◇  ◇  ◇



「たまに、自分が間違えているって、考えることがある」


中学に上って、僕の中にあった弱音が漏れた。

遥斗はると自身、初めからそれがいけないものだと気づいていた。


遥斗はるとが間違ってるなんて、ありえないよ」


水樹みずきに話すことが出来たのは、本音を聞いたからだ。辛いよって、僕の家で泣いた彼女を抱きしめた。そうしなければならないと思った。

彼女が心を開いてくれた。そうやって、彼女が僕に弱さを見せてくれたところがあるかもしれない。


返ってきた言葉には、安堵の気持が大きかった。なんだか罪を隠してるみたいで、僕は疲れていたのだ。心のどこかで、この気持ちを認めてほしい部分があった。


水樹みずき、俺は姉さんが好きなんだ」

「・・・そ、・・・そう、なんだ」


けれど水樹みずきの様子を見て、やっぱり違うのかなって思った。


「・・・なんでわたしに?」

「君には言っておかないとって思ったから」


水樹みずきを当て馬にしてしまった。

姉への気持ちを誤魔化すために、何度も彼女に好きと言った。

その好きで勘違いをさせた、その言葉で幾度も彼女を惑わせた。


責任はとらないといけないから。


俺は最低だ。もうこれがこれまでへの義務なのか、内から漏れる本当の愛なのかわからない。


けれど、彼女に伝えなければならない。嘘ではないのだ。


だって、だって—————————————————————。


〝『ありがとう、はるちゃん。わたしも大好きだよ』〟


——————僕の中には君がいる。

——————じゃないとあの時、胸の中にいた女の子が、こんなにも大切に思えるはずがないじゃないか。


必ず帰ってくるからって、この〝好き〟に決着をつけて、君に〝愛してる〟と叫びに帰ってくるからって、伝えたかった。


「だから———————」

「言わないで!」


けれど、伝わらなかった。


拒絶された。俺は告白もさせてもらえずに、振られたのだ。



◇  ◇  ◇



次の日にあった水樹みずきの顔は、汚物を見るような顔だった。

当然だと思った。だってそうだろう。

面と向かって二股を許してくれなんて言おうとしたんだから。


それでも彼女は、俺と友達に戻ってくれた。


彼女が俺を捨てずに、友達に戻ったのはなぜだろう・・・。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回『姉を嫌いになりたくない。』

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