第16話 犯人の目的!

 多くの人に取って憂鬱だった筆記テストは終了し、残るは実技の試験だけ。教師陣は筆記テストの採点に追われていた。

 そんな中、とある教師は机の上に溜まった答案用紙の中から、一枚を選び取り出す。


「これだな」


 目を通すのは自分が教える、とある女子学生の答案用紙。

 成績の悪いその女子生徒には教え込んだだけあって、ギリギリで赤点は免れていた。


「ふむ、想定通りだな」


 予想通りの点数にご満悦な彼から、笑みが溢れる。

 答案用紙を自分の机に放り投げる。


「あとはやっておけ」


 誰もいない宙にそう言って、彼は席を立った。


「わかりました」


 後ろから返事が返ってきたが、彼は見向きもせずに本棚に向かう。

 本棚から一冊の本を取り出すと、それを別の本棚に入れ直す。すると、本棚が動き始め、その奥からは隠し扉が現れた。


 何事もなかったように男は、その中に入っていく。

 暗い階段を明り一つなく、下っていき、底までついた。


 そこには、大きな魔法陣が描かれ、その中心には水晶玉が置かれている。

 男は魔法陣の外で杖を構えて呪文を唱える。すると、水晶玉が紫色に光った。

 呪文を唱え終えた男は、その水晶玉を手に取って笑う。


「……もう少しだ」


 男が持つ水晶玉は黒く怪しく光っている。

 それを見て、男は満足げにつぶやいた。


「何が、もう少し、なんですかね?」


 後ろから声が聞こえた。驚いて振り返ると、そこには幼い少女の姿があった。

 気配を全く感じなかった。


「サラ先生」


「どうも、こんにちはユベール先生。お話に来ましたよ」


 それは、今年から教師として採用された女子だった。



 驚愕している様子のユベール先生に私は杖を向けた。


「ああ、答えなくてもいいですよ。おおよその想像はついていますので」


 そもそも、彼がここにいる時点で彼の罪は確定している。


「なんのことでしょう?私は先程たまたまこの通路を見つけて不審に思ってここに来ただけですが」


 いつも通りの笑顔を浮かべるユベール先生。顔がいいだけに胡散臭さが凄い。


「白々しい言い訳は不要ですよ、なんならあなたがやってきたこと、やろうとしたこと語ってあげましょうか?」


「何をいったい」


「邪神の召喚。それがあなた達の目的でしょう?」


 私の言葉にユベール先生の眉がピクリと動く。


「あなたは邪教の一員として、このフィスニール魔法学園に潜入していたスパイだ」


 ユベール先生の表情がほんの少しだけ崩れた。



 昔の校内新聞で悪夢を見る女の子、サマンサのインタビューを聞いたときに違和感があった。

 それは、パウラさんは寝ている自分を眺めていると言い、対して、サマンサは寝ているけど身体が動かないと言っていた。

 この場合おかしいのはパウラさんの方だ。だって、寝ている自分なんか眺められるわけがないのだから。

 だから、私はパウラさんが見ている人物は誰か違う人なんじゃないかということを考えた。誰かなんて明白だ10年前に同じ思いをしていたサマンサだ。

 つまり、パウラさんは過去のサマンサを眺めていたということ。


 なぜパウラさんがその夢を見るようになったのか、それはスザンヌ先生の魔法によるものというのは確認済みだ。

 では、なぜスザンヌ先生はパウラさんにサマンサを見せたのか。

 それは伝えたいことがあったからだ。


「スザンヌ先生は言ってましたよ、伝えるのに長い時間がかかってしまったと」


「まさか!?」


 私がスザンヌ先生の名前を出すと、ユベール先生はあからさまに動揺する。

 スザンヌ先生は魔法生物だ、そして魔法生物である以上、契約者には逆らえない。それでも、彼女はなんとしてでもユベール先生の企みを阻止したかった、そのためにギリギリできる方法があの夢を見させる魔法だった。

 彼女は恐れていたのだ、またユベール先生の凶行によって生徒が犠牲になることを。

 結果として、その凶行は今年も行われてしまったけれども、私がここにいる以上もはや終わりだ。


「成績の悪い生徒に補講と称して個人授業を受けさせて、魔力を集めるですか?」


 よくもまぁ、善人ぶってあくどいことを企んだこと。


「しかし、今年のターゲットにシャロンを選んだのは致命的でしたね」


 天文学の補講に魔力が減る要素があるのか、それは否である。

 あの時、シャロンが疲れ切っていたのは、勉強に疲れたせいではなく、魔力を急に抜かれたせいだ。

 思えば、あそこでスザンヌ先生が私にシャロンを預けたのもヒントのうちだったのかもしれない。


「ユベール先生は生徒から魔力を収集して、邪神を召喚しようとしていた」


 この一連の話はこれが真相となる。

 私は、言い切って、ユベール先生の表情を見る。

 最初の頃にあった余裕の表情は崩れ落ち、完全にこわばっている。


「あなたが、教師としてこの学校に来ると聞いて嫌な予感がしたんですよ」


 ユベール先生はうつむいたままポツリと話す。


「そもそも、あの時あなたを回収できていればもっと早くに終わっていたはずだったんだ」


 あの時?この人は何を言っているんだ?


「我々は魔力を持つ子供を集めていました、その中でも特上の魔力を持った子が日本にいると聞き向かったのがもう5年前のことになります」


 まさか……


「あの時はあなたの母親に阻止されてしまいましたが、今度は……邪魔させません!」


 ユベール先生は私の一瞬の隙をついて、懐から杖を取り出す。

 その独特な短い杖には見覚えがあった、5年前私が誘拐されたときに見た黒いローブの男が持っていたもの。


「『テレポート』!」


 呪文と共に、ユベール先生が消えた。

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