第15話 悪夢の原因!

 テスト期間中になった。私の出番は呪文学の実技試験の時にあるだけ。今はまだ筆記だからやることがない。

 そんな中、授業塔で生徒達がテストを受けている最中にとある場所に向かっていた。


「あら?どなたかしら?」


 扉を開けて部屋の中に入ると、どこかから声が聞こえてきた。そして、本棚からすり抜けるようにスザンヌ先生が現れた。


「こんにちはスザンヌ先生」


「あら、いらっしゃい、サラ先生。テストは……、そっか先生はないのよね」


「ですね」


 教師の身である私はテストを受ける必要がない。


「それで、図書室で本でも読んで時間を潰そうということかしら?」


「それもありますが……」


 私が図書室に来たのは本を読むためではない。


「私はスザンヌ先生に話があって来たのです」


「私に?何かしら?」


 いつも通りの笑顔のスザンヌ先生だけど、その表情は今見ると作り物に見える。


「端的に言って、私はスザンヌ先生がパウラさんに魔法をかけたのだと疑っています」



「スザンヌ先生は、五感の中で一番記憶に残るものってどれだか知っていますか?」


 話をするために、小部屋に移動し対面で座ったところで私は切り出した。


「確か……嗅覚だったからしら?」


「ええ、そのとおりです」


 人の嗅覚は動物に比べればつたないけれど、その記憶に関してはかなり優秀だ。

 幼い頃にいだ匂いを大人になって再び嗅ぐと忘れていた過去を思い出すこともある。つまり匂いがキーとなって、記憶を呼び起こすことができるのだ。


「まず、私が違和感を覚えたのはこの図書室の匂いです」


「図書室の匂い?」


「ええ、普通の図書室には本がいっぱいありますから。独特な匂いがありますよね?」


「インクの匂いのことかしら?」


「ええ、または本が古くなったりそんな匂いです」


 私が前世で学校にいた時も、図書室には独特な匂いがあった。


「それがこの図書室からもしたんですよ」


「……何かおかしいかしら?」


「ええ、おかしいですよ。だって、ここの本は魔法で保存されているんですから」


 10年前の校内新聞を開いたときに、その紙はほとんど劣化していなかった。インクだって滲んでいる様子が全くなかった。


「保存魔法をかけ忘れた本が沢山あるかもしれないわよ?」


「ええ、その普通だったらその可能性もありますね。ですが、ここではありえないんですよ」


「ありえない?」


「だってそうでしょう?スザンヌ先生ほどの管理者がいるのにそんな魔法をかけ忘れるみたいな致命的なミスはないでしょう」


 スザンヌ先生は魔法生物だ、この図書室の管理を任されているのであれば、忠実にその役割をこなすはずだ。

 スザンヌ先生にとっては、この図書室の状況は手に取るようにわかるはず。そうじゃなければ生徒の求める本をすぐに出すことなどできない。


「何か買いかぶられている気がするけど。私だってミスしちゃうこともあるわよ?ほら、私もう結構いい歳だから」


「魔法生物に年齢は関係ないのでは?というツッコミはしませんよ?」


「あら、残念ね」


 魔法生物は歳を取らない。そんなことはシャロンだってわかっているだろう。多分。



「そもそもの話として、私が魔法薬をあげてもまだ夢を見るっていう状況が奇妙なんですよ」


 私がパウラさんに薬を与えても、パウラさんはまだ夢を見ることがあった。


「だって、私が魔法解除の効果を薬に入れているんですよ?仮になんらかの魔法がかかってたらそこで解除されるはずなんです」


 パウラさんに与えた魔法薬は私が友達のために作った特性のものだ。その出来に関しては、お母さんにだって認められるくらいだ。


「だから、考えました。きっとパウラさんは日常的に魔法をかけられているのだと」


「それだったら、教室とか……」


「それだったらなぜ、パウラさんが同じ夢を見続けるようになったのか」


「それは……」


「パウラさんは、日常的に図書室を利用していたそうですね。そして、毎日のようにここで本を読んでいた」


 きっとこの図書室の本には、匂いを発するようにされていたのだろう。そしてその匂いをキーに魔法をかける。

 そんなことができるのはこの図書室の管理をしているスザンヌ先生だけだ。


「どうでしょう?以上が私の考えた推論です」


 ところどころ、穴があるのは否定しない。だけど、結論だけは間違えていないはずだ。


「……ええ、そうね。パウラちゃんにはちょっとした魔法をかけたわ」


 思った通りに、スザンヌ先生は頷いた。


「だけど、それが何か?私のちょっとしたいたずらじゃない?ちょっと校内新聞を読んでたパウラちゃんをからかいたかっただけなのよ」


 うん。なるほどね。かなり無理がある主張だ。だけど、ある種予想通りの反応ではある。


「はい、そういうのも仕方ないと思いますよ。ですが……」


 私は杖を構える。


「サラ先生!?」


「『バインド』!」


 私の呪文と共に、スザンヌ先生の先生の両手が縛り上げられる。スザンヌ先生が拘束されているのは見るのはとても痛ましい。まぁ、私がやってるんだけど。

 これからやることに、拒否反応でもおこされたら困るからね。


「どういうことかしら?」


 それでもスザンヌ先生は笑顔のままだ。

 私はそれには答えずにもう一つ魔法を使う。


「マインド・ディスペル!」


 私の杖から出た魔法がスザンヌ先生を包む。


「……うっ!」


 魔法に包まれるスザンヌ先生は少し苦しそうだ。

 しばらくそのまま魔法をかけていると、やがてパリン!という高い音が響いた。

 同時に、魔法を止めて、スザンヌ先生の拘束も解除する。

 地面に着地すると同時に、伏せるスザンヌ先生に私は話しかける。


「さて、これでやっとお話ができるようになりましたかね」

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