第13話 10年前の記録!

 魔法生物とは、簡単に言えば、魔法を使って生み出された生物のことだ。アンドロイドとかホムンクルスと言っても差し支えないかもしれない。

 大体は何らかの役割を与えられて生み出された存在で、契約者に従順なのが特徴だ。

 そして、その多くは身体を持たず、思念だけの存在になってる。


「私は、何世代も前の学園長に作り出されて、図書室の司書としての役割と担っているわ」


 なるほど、この図書室の管理人みたいなものか。


「スザンヌ先生は幽霊じゃないの?」


 シャロンが首をかしげる。


「ええ、幽霊というのは死んだ人の思念から成るものですけど、私の場合は、はじめからこういう存在ですもの」


「よくわからないけど、悪い人じゃないのはわかったよ」


 本当によくわかってなさそうな顔でシャロンが頷いた。

 ……魔法生物については1年のうちに授業で習うんだけど、果たしてこの子は大丈夫なんだろうか?


「それで、パウラちゃん達は、何をしに来たのかしら?本を読みに来たの?」


「あ、いえ、あの、例の噂話のことで……」


「ああ、あの件ね。パウラちゃんは大丈夫かしら?」


 どうやら、パウラさんはスザンヌ先生にも夢のことを話しているみたいだ。

 スザンヌ先生は心配そうにしている。


「はい、校内新聞の二人にも見てもらおうと思いまして。あの、お願いできますか?」


「ええ、任せて」


 そう言うと、スザンヌ先生は杖を振る。

 すると、急に本棚が動き始めた。


「おおっ!」


 一人でに動く本棚は凄く魔法っぽい!

 そして、動いた本棚の中から、一冊の本がこちらに飛んできて、それをスザンヌ先生が受け取った。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます!」


 パウラさんがその本を受け取って、お礼を言っている。その様子は何度もこういうやり取りをしているように見える。


「いつもそうやって本を探してもらっているんですか?」


「う、ううん。違うよ。いつもはスザンヌ先生のおすすめとかを聞いたりした時だけ」


「最近は、本を読むために図書室を利用する子も減っちゃって。毎日のように本を読みに来るパウラちゃんには色々とおすすめしているのよ」


 なるほど、そういうことだったのか。


「やっぱりこの図書室って広いでしょう?二人も何か読みたい本があったら私に言ってね。私がすぐに見つけてあげるから」


「はい」


 なるほど、広いと思ったけど、そういう探し方もあるんだ。私自身、前世では本の虫だったし、また利用したいな。



「お話をするなら、個室を使いなさい」


 とのことで、スザンヌ先生から小部屋の鍵を頂いた。

 3人揃ってその部屋の中で、校内新聞をまとめたファイルを見ることにした。


「えっと、あっ!これだ!」


 一つのページでパウラさんがめくる手を止めた。

 それを見ると、確かに、パウラさんが言っていたように何度も同じ夢を見るという女の子の話が載っていた。

 古い本のように見えるけど、魔法でガードがかかっているのか綺麗なままだ。

 内容を読もうとして乗り出すと、新聞の女の子が浮かび上がってきた。

 飛び出す絵本みたいだけど、あ、そうか、魔法が使われているんだね。


「最近の話なんですけど……」


 浮き出た女の子が話を始めた。

 女の子の名前は、サマンサ・ハーヴィ。


「変な夢を見るんです。あ、毎日ってわけじゃないんですけど、結構な頻度で。はい、大体3日に一回くらいは必ず」


 インタビュー風なのかな?言葉は女の子の言葉しか聞こえてこないけど。


「夢の内容ですか。まず、私は硬い地面の上に横になっているんです。目をつぶっているはずなのに、何故か周りのことがわかって。でも、身体が動かないんです。そして、私のそばには、ローブをかぶった男性が一人いるんです。そして、その男性が私の額に手を当てます。そうすると、私は段々と力が抜けていって。そのまま目が覚めます。そんな夢です」


 うーん、確かにパウラさんに聞いたのとそっくりだなぁ。


「思い当たる原因ですか?いえ、特には……あ、でも、勉強で疲れている日に見ることが多いですね。ええ、私あまり頭良くないから先生達にも迷惑をかけちゃって」


 女の子の言葉はこれで終わりだった。浮き出た女の子の姿が消えて新聞の挿絵に戻る。


「どうですか?」


 パウラさんに意見を求められた。


「うーん、今のところ、確かに似たような状況だなぁとは思いますけど、やっぱり原因は検討がつかないですね」


 予想はしてたことではあるけど。


「えっと、これ何年前だろう?」


「あ、えっと、ここに……10年前くらいですね」


 確認すると、どうやら10年前の校内新聞みたいだった。

 ふむ、10年越しの同じ状況ねぇ。


「ちなみに、パウラさんは勉強で疲れてたりとかは?」


 強いていうなら、勉強で疲れている時に見やすい?ということがわかったくらい。

 そうなると、精神的な可能性ももちろんあるんだけど。

 パウラさんは首を振った。


「私の場合は、休みの日に見ることもあるので、それに勉強するのもそんなに嫌いじゃないです」


「パウラは成績もいいんだよ」


 シャロンが付け加えてくれた、そういえば、授業を受けている時もクラスの中では優秀だったと思う。

 そうなると、本格的にわからない。


「とりあえず、私の方で、よく眠れるようになる薬を処方しますね」


 睡眠薬……というにはちょっと大げさだけど、少し眠りが深くなる薬だ。

 それで解決するとは思ってないけど、少なくとも今よりも夢に悩まされることはなくなるはずだ。


「その間に引き続き私の方でも調べてみます」


 10年前ってことは当時の先生とかも残っている可能性もあるかな。

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