第10話 閑話-学園長視点

 ワシの名はギー、ギー・ドゥ・マロンガ。

 名門と呼ばれるフィスニール魔法学園の48代目学園長をしている。

 学園長についてからは、10年ほどになる。その間も色々な生徒を見送ってきたりしたが。


「はい!失礼しました!」


 ペコリと頭を下げて部屋から出ていく女性と女の子。


「はぁ……」


 扉が閉まったことを確認して、思わずため息をついてしまった。ついで、窓の外に目を向ける。

 今日の朝は授業初日にふさわしいと思えるくらいの快晴で、今年はいい一年になるに違いない、なんて思ったものだが。

 天文学の教師であり副学長のユベールとも今日は一日晴れの予定だなんて笑いあった。

 しかし、突如天候が崩れて、何事かなんて焦ったのは1時間ほど前のこと。

 天候が崩れると、飛行学で箒を使って飛ぶ授業をしていた生徒達に影響が出る。ましてや、アレ程の嵐ともなると、生徒達の安全に大きな不安が出るのだ。

 幸いにも、すぐに収まったこと、飛行学をやっていたのが最上級生だったことで無事に怪我人などもなかったが、一歩間違えた大変なことになっていた可能性だってありえる。

 他に被害はないかと安全確認をしていると、一人の女性と女の子が部屋にきた。

 やってきたのは、呪文学を教えるマリオンと今年からその助手を務めることになったサラ・ヤガミだ。

 何か被害があったのかと、不安に思って聞いてみると、


「すみません、学園長。先程の嵐、サラ先生が起こしたものでして」


 信じられないことを言い出した。

 サラ・ヤガミはまだ10歳だ。本来であれば新入生の一人になっていてもおかしくないくらいなのだが、試験を受けさせた際に光がワシにこの子を教師にさせるよう強く訴えたのだ。

 もちろん、10歳の女の子を教師になどと悩んだが、来年には飛行学の教員が引退すること、その代わりとしてマリオンが立候補していたことで、呪文学の教員不足が生じていたのは確かだ。

 それに、10歳の子供とは思えないほどに、教員としての適正がある。

 迷った挙げ句、ひとまず、マリオンの助手とすることで様子見をすることにした。

 光は彼女の資質と才能がとんでもないことを示していたのだが。


「あのような年齢の女の子がまさかあれほどの嵐を引き起こすとは」


 ワシの横で思わずというように言葉にこぼしたユベールだった。


「流石はあの『稀代の天才』と呼ばれたカレン嬢の娘と言うべきかの」


 あの子の母親である、カレン嬢もとんでもない生徒だった。

 入学初年度から横暴だった最上級生に喧嘩をふっかけてそこで勝利を収める。当時の問題教師を相手どって、生徒と教師陣の争いを引き起こしたのは記憶に新しい。結果、問題教師が次々とやめさせられていき、まっとうな一教員であったワシが学園長になったという経緯もある。

 そして何よりも、一番の事件となる。


「さすが、あの魔王召喚未遂事件の功績者ということですかね」


 ユベールが言う、魔王召喚事件とは、魔王を信じる一派によって学園が占拠され、生徒たちを生贄に魔王を召喚をしようとした事件があった。それを、当時最上級生であったカレン嬢が解決したというのが大まかな筋となる。

 そんな多大な功績を持つ、カレン嬢から急に手紙が送られてきたのはちょっと前のこと。

 そこには、『うちの娘が学校に入りたいって言ってるからよろしくね』とだけ書かれていた。頭を抱えたのは言うまでもない。

 そうしてやってきた娘だという女の子は、やっぱり普通でなかったことは、今さっき痛いほど思い知った。


「のう、ユベール。お主なら先程の嵐と同じ規模起こせるかの?」


「いいえ、できません」


 ワシからの質問にユベールは首を振る。


「できたとしても、せいぜい簡単な雨を降らせる程度でしょう。いえ、たとえ、そんなことしたら魔力が空になりますが」


「そうじゃろうなぁ、きっとワシも同じ程度じゃろう」


 天候を操作するなぞ、一人間にできることじゃない。ユベールの言う通り、仮に出来たとしても、自分の身を犠牲にしてやっとというレベルだ。

 それをあの少女は、なんてことことのないように行ったのだから、その凄まじさが伝わってくる。


「サラ先生は本当に大丈夫なんでしょうか?」


 強すぎる力は、時として恐怖になる。まして、見た目は普通の女の子にしか見えない。これからも、この学校でやっていけるのかと不安がるユベールの気持ちはよく分かる。

 しかし、


「今は見守ろう、試しの水晶の光は間違ったことを示さない」


 彼女の出した光には、その資質もだが、性質も含まれていた。そこには、悪に決して染まることのない健全さもあったのだ。


「なに、自分の起こした間違いをちゃんと謝罪できるのであれば大丈夫じゃ」


 部屋を出ていく彼女はとても申し訳無さそうな顔をしていた。

 ……それは、カレン嬢には全く見られなかった表情だ。


「わかりました。では、私はこのあたりで、もう少し見回りに行ってきます」


 部屋を出ていくユベールを見送り、もう一度ため息。そして、また窓の外を見る。空はすっかり快晴に戻っている。


「はぁ、どうやら今年は大変な年になりそうじゃのう」


 ワシの心の中の風はまだ荒れているみたいだ。



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お読みいただきありがとうございます。いつも励みになっております。

ここまでで前半終了です。次回から後半に入ります。

引き続きよろしくお願いします。

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