「随分と冷静に為（な）って来たじゃねぇか」と大男は言った。

「いや好（い）い傾向だよ。矢（や）っ張（ぱ）り物事に対処する時は冷静じゃねぇとな。先刻（さっき）までのあんたはどうも苛附（いらつ）いて居て仕方が無かったぜ？」

　そう言って大男は笑った。

「矢（や）っ張（ぱ）りあれだよな。暗いと人間、冷静で居続ける事なんてとても出来ねぇよな」

「いや其（そ）れは君だけだ」「ふふっ、其（そ）れはあんただけね」

　年若い男と婀娜（あだ）やかな女は同時に否定した。大男は少々狼狽（うろた）えた表情を見せたが直（す）ぐに咳払（せきばら）いをして場を繕（つくろ）った。

「あー……で、何だ、其（そ）の……兎（と）に角（かく）だな、もうとっととこんな場所は脱出しようぜ。明（あか）りは手に這入（はい）ったが、こう云う場所からは早々に退散したいんだよ、俺は」

「そうね。まぁあたしもこう云う場所は好きじゃないし。さっさと行きましょ」

「そうしたいのは山々なんだが……」と年若い男は口を濁した。

　脱出可能ならば慥（たし）かに出たい所では有ったが、然（しか）し年若い男の収集範囲を遙かに超えて此（こ）の地下迷路は広く、出口はそう簡単には見附（みつ）かりそうも無かった。

　意識を集中させ、年若い男は把握出来る範囲を拡げて行く。半径五〇〇米（メートル）から徐々に徐々に、少しずつ押し広げて行く。

　六〇〇、七〇〇、八〇〇、九〇〇、一〇〇〇米（メートル）。一一〇〇米（メートル）から一二〇〇、一三〇〇、一四〇〇、一五〇〇……二粁（キロメートル）。

　未（いま）だに出口は無かった。迷宮と云って差支（さしつか）えない広さがここには有った。どうやら自分の力ではとてもでは無いが、此（こ）の地下迷宮を把握する事は出来そうに無かった。

　半径にして三・七粁（キロメートル）、能力の限界ぎりぎりまで拡げて見たが出口は見当（みあた）らなかった。

「ここに来た時みてぇな方法は採れねぇのか？　あれなら簡単に出られるんじゃ……」

「使った本人でさえ好（よ）く分（わか）って居ない能力を使うのか？　無茶も好（い）い所だぞ」

「遣（や）って見るべきだね」と婀娜（あだ）やかな女が口を挟（はさ）んだ。

「あたしの勘に依（よ）ればここからの脱出はそんなに時間が掛（かか）らない物なんだ。と云う事はつまり、尠（すくな）くとも歩いての脱出じゃないって事だ。違うかい？　あんたの話に依（よ）るとここから半径三・七粁（キロメートル）以内に出口は無いって云（い）うじゃないか。三・七粁（キロメートル）……おまけにここは高低差も結構激しいと為（な）ると、もう答は一つしか無い。あの時と同じ様にして脱出する。其（そ）れが出来るって事の何よりの証だよ。遣（や）って見る価値は有（あ）るさ」

　年若い男は少し考えた。が、直（す）ぐに心は決（きま）った。迷う事など何も無い。どうせ今の此（こ）の状況が既（すで）に異様なのだ。

　ならばあれこれと悩む事など無い。己（おの）れの力が通じぬ状況で猶且（なおか）つ、新たな能力が得られる絶好機だと云うのなら、流れに乗って身に着けて了（しま）えば好（よ）い。

　覚悟は決（きま）った。腹は括（くく）った。全く聞いた事の無い能力を使うと云う不安は拭（ぬぐ）い去れないが出口が見附（みつ）からない以上、これに懸（か）けて見るしか無さそうだった。

　不図（ふと）失敗したらどうなるのか、と云う思いが頭を掠（かす）めたが考えない事にした。今はこれしか無いのだと自身に言い聞かせた。

「失敗した時の事を考えるとは相変（あいかわ）らず慎重だねぇ……」

「失敗……」と大男は初めて其（そ）の事態に思い至った様で慌てた調子で訊いて来た。

「別に……だな、信頼しない訣（わけ）じゃないんだが、万一失敗した場合はどうなるんだ？」

「分（わか）らん」と年若い男は答えた。

「言っただろう？　此（こ）の力は僕も使った事が無いんだ。失敗した場合一体どうなるかなんて分（わか）る訣（わけ）が無いだろう？　まぁ先刻（さっき）は旨（うま）く行ったんだから大丈夫だと――何処（どこ）へ行く？」

　逃げようとする大男を婀娜（あだ）やかな女は捕らえて放さない。

「そりゃ無いでしょ？　まぁ遣（や）るからには一蓮托生よ。大丈夫、あたしの勘はここから抜けられると言って居（い）るんだから。此（こ）のあたしを――いえ、此（こ）の場合は彼、かしら？――を信じなさい」

　そう言って女は大男を年若い男の前に連れて来た。大男は情け無い顔を浮べて居たがやがて顔を引き締めて心持ち胸を張ってこう言った。

「そうだな。ここまで来て往生際が悪いよな。好し！　地獄の底まで附合（つきあ）ってやるぜ！」

「底じゃなくて地上に出るんだよ。……まあ好（い）い。兎（と）に角（かく）試してみよう。いつ発動するかは分（わか）るんだな？」と言うと婀娜（あだ）やかな女は頷（うなず）いた。年若い男は応じて「分（わか）った、其（そ）れなら最先の様な方法で遣（や）って見る事にしよう」と言った。

「其（そ）れじゃ二人ともあたしに附（つ）いて来て」と婀娜（あだ）やかな女は水上を歩き始めた。巨大な地底湖の湖水の上を歩いて行く。水には波紋すら起って居ない。水上には誰も居ないかの様（よう）だった。然（しか）し確実に婀娜（あだ）やかな女は水上を歩いて居た。婀娜（あだ）やかな女は最も近い円柱に近附（ちかづ）いて後ろを振返（ふりかえ）った。

「附（つ）いて来てって言ったでしょう？」

「あのなぁ、僕達は君の様（よう）に水上を自在に歩き廻（まわ）る事なんて出来ないんだよ。君には何でも無い事かも知れないが僕等（ぼくら）には出来ないんだ。此（こ）の湖、深さが分（わか）らない上にそもそも僕は金槌で泳げないんだよ。こんな所に這入（はい）ったら溺れ死ぬ事に為（な）る」

「俺が担（かつ）いで行こうか？」と大男が言ったが遠慮した。

「おーい、此（こ）の兄ちゃんは無理っぽいぞ。何処（どこ）か別の発動地点を探したほうが好（い）いんじゃないか？　其処（そこ）じゃないとどうしても駄目なのか？　別の場所は？」

「何言ってるのさ。其（そ）の水があるだろう？」と婀娜（あだ）やかな女は指差した。

「其（そ）れが有れば水の上を歩く位なら出来るから問題無いさ。半分は其（そ）の為（ため）にわざわざ作ったんだから。有効活用して貰わなくちゃ困るよ」

「半分って事は他にも使うと云う事か？　一体何の為（ため）に」

「其（そ）れは未（ま）だ分（わか）らない。でもあたしの勘はここを出てからも使うと言ってる」

　暫（しば）し躊躇（ためら）った後、年若い男は水上へと足を運んだ。沈むかに思われたが水の上で留まった。奇妙な感覚だった。

　一歩一歩確かめながら歩いて行く。後ろから大男も遣（や）って来て年若い男に追附（おいつ）くと歩調を合せた。

　変な感じだな、と大男は言う。年若い男も、同感だ、と答えた。

　水は踏み締める度（たび）に毛布にでも足を沈めて居（い）る様な感触を足に残す。然（しか）し実際には沈んでなど居らず矢張（やは）り水に波紋が起（おこ）る事は無かった。

　相変（あいかわ）らず水は何事も無かったかの様に佇（たたず）んで居（い）る。結局婀娜（あだ）やかな女の待つ柱に到着しても猶（なお）、何も起（おこ）る気配が無かった。婀娜（あだ）やかな女を見ると悠然と微笑（ほほえ）み、柱を指した。

　年若い男は柱に触れた。滑らかではなく凹凸（おうとつ）を有したざらざらした感触が掌（てのひら）に伝わる。一度後ろに居（い）る婀娜（あだ）やかな女と大男を見た。二人とも頷（うなず）いた。

　年若い男は柱に向き直って情報を収集して行く。出来る限り緻密に精密に。掌（てのひら）の触れて居（い）る箇所（かしょ）の半径は六・二米（メートル）。精確な円柱では無く微妙に歪んで居（い）る。成分不明。硬度は高く破壊は間違い無く不可能。

　人工物では無い。人の手は間違い無く這入（はい）って居ない。若（も）しも這入（はい）って居ればこんな歪な形はして居ないだろうと云（い）う分析結果が出た。

　柱は水中から伸びて居（い）る。水上に出た直後が最も細く、半径は四・五米（メートル）。水深が深くなればなる程に太さが増して行く。把握出来る範囲では最大二二六米（メートル）。

　意識を上に向ける。水中から水上へ。柱は上に行けば行く程に太くなる。これは水中と同じだった。然（しか）し此方（こちら）のほうが急劇（きゅうげき）だった。

　天井までの距離は十八・二米（メートル）。五米の地点で半径八・一米（メートル）。十米（メートル）に為（な）ると少しだけ細くなり七・五米（メートル）。

　十五米（メートル）の地点で半径は十・四米（メートル）。そして十八・二米（メートル）の地点では半径は六・六米（メートル）に為（な）る。

　地上までの精確な距離は三一米（メートル）。天井からなら十二・八米（メートル）。此（こ）の距離に空洞の様に為（な）って居（い）る部分は全く無い。凡（すべ）てが岩石で固められて居た。

　いや僅（わず）かだが穴が空いて居（い）る箇所（かしょ）が有った。全部で三つ……いや四つ。穴は何処（どこ）とも通じて居（お）らず、大きさは人間が丸まって這入（はい）れる程度の物だった。

　其処（そこ）から更（さら）に上に行くと地上に出る。剥き出しの地面に草が疎（まば）らに生えて居（い）る。雑草だった。僅（わず）かだが蒲公英（たんぽぽ）も混じって居（い）る、未（ま）だ開花しては居なかったが。

　白い石が敷き詰めて有（あ）る。其（そ）の部分には雑草は生えて居ない。周囲には寂れた工場が一つ建って居（い）るだけだった。工場内部は無人で暗い。時刻は既（すで）に夜に為（な）って居た。

　然（しか）し工場には人が居た気配が無く機械類は錆附（さびつ）いて居（い）る。蔓（つる）が巻き附（つ）いて居（い）る物さえ有った。

　工場の周りは木々に囲まれて居（お）り、人家も何も無かった。街灯がぽつんぽつんと有りそれぞれ点灯して居（い）る。電気は通って居た。生物は見当（みあた）らない。鳥の姿も無ければ猫も野犬の類（たぐ）いも居ない。虫すら居なかった。

　工場の建物は天井が抜けて居た。夜空が見える。然（しか）し星も月も出て居なかった。と云って雲が有（あ）る訣（わけ）では無かった。空は晴れて居た。夜空には暗闇以外何も見えない。

　星明（ほしあか）りも月明（つきあか）りも無い状態だった。工場を照らして居（い）るのは照明だけだった。自然物に囲まれ唯一の人工物たる工場跡地も又（また）、自然物と化そうとして居る状態で明（あか）りを齎（もたら）して居るのは工場内の照明と街灯だけだった。

　街灯は真（ま）っ直（す）ぐに森の中を伸びて居る。道のアスファルトは大半が砕けてぼろぼろに為（な）って居（お）り、雑草に蔽（おお）われつつ有（あ）る事も手伝って、其処（そこ）が嘗（かつ）て道路で有った事実を忘れさせた。

　只（ただ）、規則正しく立並（たちなら）んだ街灯が其処（そこ）が道路で有った事を示して居た。存在して居た筈の建物は何も無くなって居た。

　否、存在すらして居なかった。どう情報を集めても其処（そこ）には建物が有った痕跡は認められなかった。只（ただ）、一軒の小さな工場が有（あ）る丈（だけ）だった。周囲は深い深い森に囲まれて居た。

　何も無い森の中に佇む工場。電線が無く内蔵電源が有（あ）る訣（わけ）でも無いのに光を放つ照明。有り得ない空間が有った。

「茲（ここ）って何処（どこ）なんだ？」と大男が言った。

「いつの間に夜に為（な）ったんだ？　慥（たし）か会場に集められた時は朝だった筈だろう？　夜に為（な）る程、俺達はあの洞窟の中に居たのか？　其（そ）の割に腹も全く減ってねぇんだが……と云うか、腹の減り具合からすると、どう考えても未（ま）だ昼前の筈だぞ。どうなってんだ？」

「無事に脱出出来た様だな」と年若い男は辺りを見廻（みまわ）して言った。

　工場の一角だった。周囲には人は居らず、無人の工場だった。使われなくなって久しい物だと云う事が見て取れる。鉄屑にまで草が巻き附（つ）いて居た。壁も崩れ掛けて蔦（つた）が這って居る。金属製の壁と扉は見事に錆附（さびつ）き今にも崩れそうだった。

「ここは位置的には大通りだった筈だ」と年若い男は言った。

「だが周囲は森に囲まれ民家や建物の類（たぐ）いは見えない――どころか生き物自体が居ない。人は勿論（もちろん）、鳥や猫や犬や虫すら居ない。此（こ）の一帯には僕達以外の生命体は無い」

「生命反応全くの零って事か？　幾（いく）ら何でもそりゃ無いだろ。もう鳥渡（ちょっと）細かく探して見りゃ何か居（い）るだろう。其（そ）れか偶然此（こ）の辺りには誰も居ないとか――」

「人以外の、虫や動物すら含めた凡（すべ）ての生命反応が全く無いなんて状態が普通有（あ）るか？　百歩譲って此（こ）の辺りが何らかの理由で無人だったと仮定しよう。だが無人なら無人で野良猫とか野良犬とかが居（い）る筈だし、大体これだけ木々の生えて居る場所で鳥とか虫とかが全く生息して居ないなんて事は有り得ないぞ。然（しか）も此（こ）の工場跡地は一体何なんだ？　分析に依（よ）ると此（こ）の工場が使われなくなってから最低でも二十年以上は経って居る。然（しか）も彼（あ）の街灯の並んで居る場所、あそこは道路だった所だぞ。あっちは全く整備されなくなってから既（すで）に七十年以上だ。明らかに計算が合わない。此（こ）の工場を使って居るのなら普通は道路を使う筈だろう。きちんと整備をしなければ道路はぼろぼろに為（な）って了（しま）うし、事実そうなって居る。其（そ）れはつまり車を使わず歩きでここに遣（や）って来て居たと云う事だ。予（あらかじ）め断って置くが、ここから半径三粁（キロメートル）以内に建物が建てられた、或（あるい）は建って居た形跡は全く見受けられない。三粁（キロメートル）も離れた所から何で歩いて来る必要が有（あ）るんだ？　おまけに何で照明が点いて居るのかも全く分（わか）らん。此（こ）の辺りには電線なんて無いだろう。発電機も無い。点（つ）く筈が無いのに点灯して居るんだ。地下を通って居るのかとも思ったが其（そ）れも違う。地下に電線は無い。あの街灯や工場内の照明は独立した物だ。何処（どこ）とも通じて居ない、居ないにも拘（かかわ）らず皓々（こうこう）と辺りを照らして居る。何なんだここは？　いや其（そ）れ以前に此（こ）の工場はそもそも何なんだ？　ここで機械類を動かして居た事は分（わか）る。分（わか）るが動かして居た丈（だけ）だ。何かを作って居た訣（わけ）じゃない。只（ただ）機械を操作して鉄骨を移動させて居た丈（だけ）、其（そ）れも何処（どこ）か別の工場に運ぶ為（ため）じゃない。工場内で動かして居た丈（だけ）だ。本当に何もして居ない。意味の無い単純作業を只管（ひたすら）繰返（くりかえ）して居た。其（そ）の跡しか無い。一体何がどうなって居るんだ」

「そんな一遍（いっぺん）に言われても――つーか、俺に訊かれてもな……姐さん？」

　婀娜（あだ）やかな女は口許に手を当てて何かを思案顔で居た。視線は工場を移ろって居た。

「分（わか）らないねぇ……」と婀娜（あだ）やかな女は暫（しばら）く経ってから言った。

「こりゃ流石（さすが）のあたしもお手上げだ。元々あたしの勘は非道（ひど）く曖昧な物だからね。でも――此（こ）の辺りの生命反応零（ぜろ）って云（い）うのは本当なのかい？　あたしの勘に依（よ）ると近い内に誰か――いや何かかな？――がここに来る筈なんだけれどねぇ」

「何かって何だよ？　尠（すくな）くとも此（こ）の周辺には生命反応は無いし、建物の類（たぐ）いも無い」

「突然現れるって事だって有り得るだろう？　あたしらみたいにさ」

「僕と同じ様な能力者がここに遣（や）って来ると？　そう云えばの会場に居た他の連中はどうなったんだ？　先に脱出した奴等（やつら）は何処（どこ）へ行った？　残って居た奴等（やつら）は脱出出来たのか？」

「答（こたえ）に為（な）るか何（ど）うかは分（わか）らないけどさ、あの連中とは多分、もう二度と会う事は無いと思う」

「勘か？」

「勘さ」

　年若い男は婀娜（あだ）やかな女の言葉の意味を考えて見た。嘘は吐いて居ないだろう。実際此（こ）の女の勘は今まで不気味な程に的中して居る。

　今の此（こ）の状況凡（すべ）てが此（こ）の女の自作自演と云う事も考えられたが、証拠も無ければ理由も無い。翻弄して何に為（な）ると云うのか。

　只一（ただひと）つ慥（たし）かなのは、此（こ）の女があの会場に集められた合格者とは二度と会わないと言って居る以上、そうなのだろうと云う事。此（こ）の女の意図であろうと無かろうと、其（そ）れは間違い有（あ）るまい。

　婀娜（あだ）やかな女の手が伸びて年若い男の前まで持って来られた。

「疑り深いねぇ……そんなに気に為（な）るなら調べて見れば好（い）いだろう？」

　年若い男は少し迷った後、収集する事にした。こう云う事は判切（はっきり）させて置いたほうが好（い）い。手を取って意識を集中させた。

　年齢は二七歳、身長一六七糎（センチメートル）、体重五八瓩（キログラム）、体脂肪率二七・七パーセント。胸廻り一〇〇糎（センチメートル）、胴廻り六四糎（センチメートル）、尻廻り九二糎（センチメートル）。……其（そ）れ丈（だけ）だった。其（そ）れしか分（わか）らなかった。

「年齢と体のサイズ以外の情報が全く取得出来ないんだが……」

「矢（や）っ張（ぱ）り駄目だった？　あたしの勘でもあんたの力だと精々（せいぜい）其の位（くらい）しか分（わか）らないだろうって言ってたんだけど……ふふっ、でもまぁ流石（さすが）のあたしも正確な年齢やサイズや体脂肪率まで把握されるのは恥（はず）かしいねぇ」

「恥ずかしがる必要が有（あ）る数値とは思えないがな……もっと歪（いびつ）な数値の奴も居るだろう。其（そ）れに体重や体脂肪率などは完璧に正常範囲内の様（よう）だが」

「ふふっ、分（わか）ってないねぇ……そう云う問題じゃないのさ。他人に正確に把握されて了（しま）う事、其（そ）れ自体が恥（はず）かしいのさ。まぁあんたにあたしの性格やら嗜好まで把握されなくて好かったと云う所かね」

「君は……分（わか）った上で言って居たのか？」と年若い男は答えた。

「正直どんな事が分（わか）るかと思って居れば……これじゃ調べようと調べまいと同じだった――」

「そうでも無いさ。あんたはあたしの事を余り信用して居なかっただろう？　敢えて然（そ）う言う事で信頼して貰おうと思って居たのさ。それに、御蔭（おかげ）で頭も冷えただろう？　どうもあんたは未知の存在に出遭うと動揺して了（しま）うみたいだからねぇ……謎だらけだったあたしだって年齢やら胸廻りやら胴廻りやらの情報は判切（はっきり）と分（わか）ったんだ。別に化物って訣（わけ）じゃない。だろう？」