第28話 愛理と遊園地デート 前編
浅草遠征から2日が経った。
今日、僕は、愛理と読買ランドに行くことになっている。
そして、これから愛理と浅草遠征のときと同様乗る電車の車両を合わせて合流することになっているところだ。
電車に揺られながら僕は、ぼんやりと一昨日のことを思い出していた。
『真琴君は、愛理ちゃんのこともきっとその好きな子と同じくらい大事に思っているんだと思うよ……?』
あれから、先輩のどこか幼さを感じさせる声がずっと頭から離れない。
――僕は、未だに先輩に言われたことを認められずにいた。
先輩の言った言葉を解釈すると、僕は、愛理のことを恋愛的な意味で同じくらい大切に思っている。もしくは、僕は、愛理を大切な友達として捉えている。
この2つのどちらかになる。
もちろん、僕は、後者のつもりだが、先輩の口ぶりだと、先輩は、前者だと解釈しているだろう。
昨日から、愛理と駅で別れた後、名残惜しいと感じた理由は、僕が、愛理のことを好きだからなんじゃないかと薄々思い始めてきていたが、それを認めることは、僕にはできなかった。
『ちゃんとその思いを貫いて永井さんと付き合えるようにこれからも頑張るんだぞ……!』
始が僕に言った言葉が胸に突き刺さった。
中学生の頃から恋焦がれてきた永井さんとようやく進展といえるものがあったばかりなのに、知り合って、まだ、1カ月くらいの愛理のことまで好きになってしまったなんて、自分がそんな軽率な人間だと認めることはできない。
――否、認めたくなかった。
僕がそんな風に思考を巡らせていると、もう既に愛理が電車に乗ってくる最寄駅に到着しようとしていた。
――今日、1日愛理と過ごしてみれば、やっぱり僕が好きなのは、永井さんだけで、愛理は大切な友達だと改めて思うはずだ……
僕がそんなことを考えていると――
「霧崎君、おはよう」
愛理が電車に乗るなりすぐに僕を見つけて、すぐに歩み寄ってきた。
「おはよう……!」
愛理に声をかけられて、僕は顔を上げた。
すると――
目の前にいつもの感じと違う愛理が立っていた。
愛理は、今日は動き回る時間が長いためか少しボーイッシュでクールな感じの服を着ていた。
――おお……意外とこういうのも似合うんだな……。
今まで見たことない感じの愛理に少しドキッとしてしまった。
こういったことは、今までもあったことだし慣れたことだと僕は自分に言い聞かせた。
心の中で、あれこれと思考を巡らせていると――
「って……髪セットしてきたのね……!?」
僕に顔を見せないようにしているのか少し俯きながら言った。
――変だったかな……?
僕は、少し俯く愛理を見て、不安になった。
「えっと……うん……変かな……?」
愛理にワックスをもらってから、何度か練習でセットしたときはそんなにおかしくなかったし、今日も家を出る前に鏡で確認したし大丈夫なはずだ。
「ううん……! 全然そんなことないわよ……! むしろ……」
愛理が口をもごもごさせながら言った。
――むしろ何なんだ……?
「むしろ何かな……?」
僕が緊張気味に聞くと――
「い、いいえ……! なんでもないわ……!」
こほんと愛理がわざとらしい咳払いをした。
――やっぱり、おかしかったかな……?
そう心配する僕を他所に――
「それよりも、一昨日、先輩と2人きりだったけど大丈夫だった……?」
愛理が心配そうな顔をしながら聞いてきた。
愛理の質問に僕の肩がビクッと上がった。
――正直、全然大丈夫じゃないんだよな……。
先輩に愛理に関して言われたことは、僕の問題だからさておき、秀一と先輩の仲を取り持つことになってしまった問題は、愛理も巻き込んでいる。
「えー……実は……悲報があります……」
僕が神妙な様子で言うと、愛理が聞く前から嫌な予感がしたのか、一瞬、嫌そうな顔をしていた。
「秀一と先輩の仲を取り持つのに、僕が協力することになってしまいました……。多分……愛理も巻き込まれると思う……」
僕が、ため息をつきながら言うと――
「――私が巻き込まれるのはもういいわ……。それにしても、この前の補習のときに渡辺君、先輩に気に入られたばかりなのに……こんなにも早くなんて……」
愛理は、秀一に同情しているかのような表情を浮かべた。
確かに先輩の襲撃があってからまだ1週間くらいしか経っていない。
僕もこんなにも早く先輩が動きを見せるなんて思っていなかったため、呑気に身構えてしまっていた。
「もう、先輩は止められそうにないから後は、秀一への被害を最小限にするように頑張ろう……」
「ええ……。今度3人で会議でもしましょうか……」
「「はあ……」」
僕たちが、ため息をつくと乗換駅が近づいてきた。
「ここで乗り換えだね。行こうか」
「そうね」
僕たちは電車を降り、次に乗る電車に向かった。
***
電車を乗り換えた後、僕たちは、30分程かけて、読買ランドにたどり着くなり、チケットを窓口で買い、入園口を通過した。
「思っていた以上に広そうだね……!」
僕は、人生初の読買ランドに心を躍らせていた。
「ええ……! 正直舐めてたわ……!」
愛理は周囲を目を輝かせながら見渡していた。
愛理もここに来るのは初めてみたいで、興奮の色が少し顔に出ていた。
――僕も人のこと言えないけど、結構子供みたいにはしゃいでるな。
愛理に僕は、微笑ましい視線を送っていると――
「何よ……? 人のことをニヤニヤしながら見て」
じとーっとした目を愛理が向けてきた。
「いや、楽しそうだなーって思って見てただけだよ」
僕が思ったままに言うと――
「それ、子供みたいだって思ってるんじゃないの……?」
愛理は、少しムスッとした顔をした。
「ご、ごめんって……! 楽しそうにしてる愛理って珍しいからさ……!」
言い訳がましい声が出てしまった。
「まあ、そういうことにしておくわ」
愛理は訝し気な顔を僕に向けつつも追及を止めてくれた。
「それより、さっきから歩くの遅いわよ!」
愛理は、再び笑みを顔に浮かべ、僕の手を取って歩くペースを上げた。
「え、ちょっ!?」
素っ頓狂な声を上げる僕のことなんか気にせずに愛理はどんどんペースを上げていく。
――てか、自然に手繋がれてるんだけど……。
以前、愛理と出かけたときもこうして愛理に手を引かれたが、今、僕は、その時よりも心臓の鼓動が早いのを感じた。
――いやいや、先輩とあんな話をした後だから変に意識してしまっているだけだ……。
僕は、心の中で何度も同じことを唱えた。
「時間は有限なんだから……! 楽しまないと……!」
そう言って、無邪気な笑顔を浮かべる愛理を見て、僕は、また僕しか知らない愛理の一面を見たと思った。
そして――
「他の人には、こんな表情見せてほしくないな……」
僕は、無意識に小さい声で呟いていた。
僕は、心の中で、普段はクラスで塩対応だの高飛車だの言われている愛理が、自分の前でだけ素の自分を見せてくれていることに優越感みたいなものを感じていた。
「何か言ったかしら……?」
その声で僕はハッとした。
――今、僕なんて……?
『他の人には、こんな表情見せてほしくないな……』
自分の呟きが頭の中で反芻した。
――いくら何でも意識しすぎだろ……僕……。
僕は心の中で頭を抱えた。
「ううん……! 何でもない!」
僕は、そろそろ認めざるを得なくなってきた愛理に対する気持ちを打ち消すように明るい声を出した。
「そう、ならいいわ……! まず、あれに乗りましょ!」
愛理は僕の手を引いたまま、さらに歩くペースを上げた。
僕たちは、もはや歩いているというより、走っていた。
「いいね……! 今日は、絶叫系にガンガン乗ろう!」
僕は、向き合わなければならない現実から逃れるように、今、目の前の心地良い時間を楽しむことにした。
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