第4話 夢に見た高校生活の始まり
『私も……D組だよ』
永井さんの放った衝撃の一言が僕の頭の中をリフレインする。
――えっ、ちょっ、マジで? 永井さんもD組? これから毎日、必ず顔をあわせられるってこと?
当たり前のことすら、確認しなければならない程、僕は、今、興奮している。
興奮のあまり僕は、呆然と立ち尽くしていた。
「えっと、霧崎君……? どうかした?」
そう言われて、僕は我に返った。
「あっ――ごめん! こんなにたくさん生徒がいるのに、同じクラスになれるなんてすごいなーって思って……」
「ほんとだね……! 霧崎君も一緒のクラスなら心強いよ」
永井さんが、微笑みながら言ってきた。
――やっぱり、永井さんの笑顔は反則だ……!
普段の涼し気な表情も永井さんの美しさを際立たせて好ましいが、やっぱり笑顔が一番可愛いと僕は、確信した。
「僕も、永井さんが同じクラスでホッとしたよ。ほんとに心強い」
そんな風に僕たちが話してると――、
「あ! 鈴音いた! やっと見つけたよー!」
そう言って、1人の女子と1人の男子が僕たちに近づいてきた。
「あっ、葵ちゃんと光瑠君……! 塾が一緒だった友達見つけたから話してたんだ……! そしたら、同じクラスで……」
完全に蚊帳の外になった僕は、そうだったんだー、どこにいるかくらい連絡してよーと言われ、ごめんと謝る永井さんを呆然と見ていると――、
「あ、私は、河原葵だよー。鈴音と同じ中学で幼馴染だよー」
「俺は、赤坂光瑠。葵と同じく鈴音の幼馴染。よろしくな」
2人の永井さんの幼馴染に声をかけられた。
「あっ、霧崎真琴です。塾で永井さんと同じクラスでした。こちらこそよろしくお願いします」
話しかけられると思っていなかったので多少たじろいで、挨拶が硬くなったが、まあ、いいだろう。
ふと、赤坂君の顔を見ると、きょとんとした顔をしていた。そして、赤坂君が口を開いた。
「――ん? 霧崎って、確か――鈴音がよく話て……」
そう言いかけると、赤坂君は永井さんにすごい勢いで遮られ、遠くの方へ引っ張られていった。
――赤坂君、何を言おうとしてたんだろ……?
そう、不思議に思いながら立ち尽くしていると、河原さんに声をかけられた。
「2人とも行っちゃったから、私も行くねー。あ、私もD組だから、よろしくー」
そう言うと、河原さんは、ゆっくりとした足取りで永井さんたちが行った方角へ去っていった。
――嵐のような出来事だったな……。
それにしても――永井さんと同じクラスか……こんな幸せなことがあっていいのだろうか? これからの高校生活が楽しくなりそうだ。
「あ、そうだ。始にメッセ送っておこ」
『どうやら、運が僕に向いてきたみたいだ……』
少し大袈裟に送ってみた。
すると、すぐに返信が返ってきた。
『あー、永井さんと同じクラスになったのね』
――なんで、こいつはこんなに察しがいいのだか。
とりあえず、始にも報告したことだし、そろそろ、教室行くか。
***
教室に着いてからは、あっという間に時間が過ぎ、気づいたら入学式が終わり、教室でホームルームの時間となっていた。
――あー、先生の話が全く入ってこない。
なぜ、僕が先生の話に集中できていないかというと、永井さんが僕の席から見やすかったからである。
――マジで僕、永井さんと同じクラスになったのか……。
ようやく、僕の中で消化されなかった事実が現実味を帯び始めてきた。
あれこれと、永井さんのことを考えていると――、
「以上が、来週月曜の持ち物です。オリエンテーションで使う資料とかあるから、忘れないように」
――ん? なんか先生、重要なことを言ってたんじゃ……?
我に返ったが、時すでに遅し、来週月曜の持ち物を完全に聞き逃していた。
どうしようか悩んでいるうちに、ホームルームが終わり、続々と生徒が立ち去っていく。
――仕方がない……こういうときは、第一印象は最悪になるかもだけど……。
僕は、くるんと後ろを振り返った。
「来週の月曜日の持ち物なんて言ってたっけ?」
後ろの席に座っていた男子生徒に声をかけた。
「あー、入学説明会のときに配布した資料と体育着と入学前の課題を持ってこいって言ってたよ」
「そっか、ありがとう。助かったよ」
そう言うと、僕は、席を立ち、その場から去った。
***
学校を出た後、僕は、学校へのショートカットコースはないかと皆が普段使うであろう道からそれて、学校周辺を彷徨っていた。
――ん? ここは、どこだ?
気になって、スマホのマップアプリを開いて現在地を確認すると、学校の最寄り駅から4Km程離れた地点にいた。
「うわぁ、大分めんどくさいことになったな……」
どうやら、テキトーに歩いているうちに迷子になっていたようだ。
仕方ない、4Km歩くか……と絶望的な気持ちになっていると近くで自転車が止まった音がしたので振り返ると――、
「君……何してんの?」
怪訝な声でそう聞いてきたのは――先程、僕が、持ち物を聞いた男子生徒だった。
「えっと、君は……?」
「――中野樹。入学式の点呼で呼ばれてただろ……で、一体なぜ、君は、こんなところに?」
――入学式の点呼なんて聞いてるやついるのか……? と言いかけたが、やめておいた。
「学校へのショートカットコースがないかなー?って思って歩いていたらこんなところに……」
そう答えると――、
「馬鹿か」
「あはは……」
とても辛辣な言葉が返ってきたが、ぐうの音も出ない。
「……ここからだと、もう学校の最寄に戻るより一駅先まで行く方が近いよ。しょうがないから、俺が案内してあげるよ。君をこのまま行かせると、いつまで経っても帰れないだろうから」
かなり辛辣なやつかと思ったが、どうやら、かなり親切なやつの間違いだったみたいだ。
「さっき、月曜の持ち物聞いたときといい、ほんとに助かるよ。ありがとう」
「ん、じゃあ、行くぞ」
そう言うと、樹は、自転車を降りて、手で押しながら歩き始めた。
それから、20分ほど歩いて駅にたどり着いた。
「ありがとう。ほんとに助かった……あ、そうだ、よければだけど、連絡先交換しない?」
「ん、そうだな。君を放っておくと、ろくなことが起きなさそうだし、丁度いい」
――前言撤回。さっき、かなり親切なやつだと言ったが、やはり、かなり辛辣なやつの間違いだった。
そうして、連絡先を交換してその日は解散となった。
色々あったが、永井さんと同じクラスになれたし、一応? 友達もできたし、高校生活は良い滑り出しと言えるのではないだろうか?
――これからの高校生活が楽しみだな……。
これからの高校生活で、初恋に振り回され、高校でできた友人とも幾度となく衝突することになるなんてこの時の僕は、夢にも思っていなかった。
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