第3話 人生初めての本気


『――この初恋を実らせてみせる』


 そう言った後の僕は、自分でも何でこんな頑張れるのだろう? と思ってしまうくらい自分の時間を勉強に費やした。


 そんな僕の様子を見た、始や萌々香に揃って――、


「急に人が変わって、怖すぎる……」


「これが恋の力……? 恐ろしいですね……」と言われた。


 まあ、今までの僕なら、勉強なんて塾に行っても寝たり、テスト2日前しかしていなかったのだから、彼らが驚くのも無理もないだろう。


 しかし、県内でも有数の名門校を受験することになるのだから、時間はいくらあっても足りない。今の僕じゃ、まだ合格までは、程遠いし、親や先生に確実に止められるだろう。


 ――まだまだ、頑張らないと……。


 それから、ただ、ひたすらに勉強するだけの日々を過ごし、気づけば夏休みを迎えていた。


 夏休みを迎えたからと言って、僕は、気を抜くことはなかった。毎日、塾の夏期講習があったが、授業が終わった後も塾が閉まる時間まで、自習を続けて、家に帰ってからもなるべく勉強の時間を取るようにした。


 その甲斐あってか、2学期の半ばには、元々、成績は真ん中くらいだった、僕が、学校の先生や親に手放しで褒められるくらいの成績を取ることができるようになり、模試では、志望校判定Aとまでは、いかなくてもB判定を取ることができるようになった。


 そして、努力が認められて、どうにか青倭高校を受けることを許してもらえた。


***


 ――頼む! 受かっててくれ!


 ひたすら願いながら、合格発表を待つ。


 人生でかつて、ここまで緊張したことがあっただろうか?


 ――この、入試当日より緊張する現象何なんだろ……?


 考えても仕方のないことを考えている内に、その時が来た。


 ――お願いします!


 掲示板にかかっていた幕が下ろされ、掲示板の前に立っている人達皆が、我先にと前へと押し寄せていく。


 もみくちゃにされそうになりながら、僕は、自分の受験番号を探す――。


「2034……2034……」


 中々、見つからず、少し焦る気持ちが出てきた。


 ――あっ、やばいかも。これ。


 焦燥感に駆られた、次の瞬間――、


「あっ――あった……」


 胸に安堵の気持ちが広がった。


 それと同時に、合格の高揚感で胸が満たされ、思わずガッツポーズをし、少しジャンプしてしまっていた。


「合格者の方は、こちらへどうぞ」と微笑みながら、案内員の人に声をかけられた。


 どうやら、僕がガッツポーズをしていたあたりから見られていたみたいだ。


 ――恥ずかしすぎる……。


 恥ずかしさに耐えながら、ありがとうございますと案内員の人にお礼を言い、指示された場所へと入学手続きに必要な書類を受け取りに向かった。


***


 入学手続きに必要な書類を受け取った後、僕は1つ気がかりなことを思い出していた。


 ……永井さんも受かったかな?


 自分のことで精一杯で、気にかける余裕がなかった。


 永井さんは、僕なんかよりもずっと優秀だから、心配しなくても大丈夫か……。と思いながら歩いていると――


「あのっ!」


 後ろから声がした。


 振り返るとそこには――、


「え、永井さん?」


 永井さんがいたのだ。


「やっぱり……! 霧崎君だ……!」


 脳が突然の出来事によって、機能停止しかけたが、どうにか言葉を振り絞った。


「う、うん、霧崎です。永井さんもここにいるってことは、合格したんだよね?」


「うん……! 結構心配だったけど、合格できてて安心したぁ」


 そう言いながら永井さんが微笑みかけてきた。


 ――その笑顔は、反則です!


 可愛すぎる永井さんに、しどろもどろしながらも、返答した。


「そ、そうだね! やっと、肩の荷が下りるというか、なんというか……」


 また、挙動不審になっているが、これは、仕方ない。うん、想定外だからね。


「何はともあれ、ほんと良かったよ……! それじゃ、そろそろ、友達と学校に合格報告しに行かなきゃいけないから――また、入学式で会えたら会おうね……!」


「う、うん。また、入学式で会えたら……」


 僕がそう言うと、永井さんは小走りで去っていった。


***

 

 永井さんが去った後、高校の最寄り駅に向かって歩いているとき、僕は、重大なミスに気がついた。


 ――あっ……。入学式に会えたらとか言ってたのに、連絡先聞くの忘れてた……。


 連絡先を自然な流れで聞ける絶好の機会を逃したのだ。


 ――僕、馬鹿すぎん?


 ミスを責め続けながらも、駅のホームに着くと、既に私立入試で受験が終わっていた始が僕を待っていた。


「よっ、どうだった?」


 いつも通りの軽快な声で話しかけてきた。


「合格したよ」


 そう返事をすると、良かったとだけ返ってきた。


 そんなことをしているうちに、電車が来て、僕たちは、電車に乗った。


「そういや、1年間勉強を頑張ったお前を労おうと思って、萌々香とか誘ってカラオケ予約しといたから合格報告終わったら行くぞ」


「マジで!? 今日ほどお前と友達でいて良かったと思った日はない!」


「ったく……。ほんとに安直なやつだよ。お前は」


 自宅の最寄り駅に着くなり、学校へダッシュし、合格報告を済ませ、一旦家にも帰って、親に合格報告を済ませると、すぐに始とともにカラオケへ向かうのだった。


 そのころには、永井さんに連絡先を聞き忘れたことは、あまり気にならなくなっていた。


***


 合格発表の日から早くも、1カ月が過ぎた。


 中学の卒業式があったり、始や普段よく絡むやつらと遊園地に行ったり、色々あった。


 そして、4月7日。


 ――そう、入学式の日だ。


 そして、僕は、今、自分のクラスが何組かを見にきている。


 永井さんと入学式に会えたら会おうと約束しているが、この人混みじゃ難しいだろう。連絡先を交換するのを忘れた自分の責任だ。


 ――まあ、それより、今は、自分が何組か見なければいけないか。


 そう思い、切り替えて、改めて掲示板へと目をやった。


 生徒がわらわらとしているが、どうにか自分の名前を見つけることができた。


 ――僕は、どうやら1年D組らしい。


 そのまま、教室に向かおうとすると――、


「霧崎君……!」


 声が聞こえた瞬間、僕は振り返った。


「あっ、永井さん……! 会えて良かった! 人混みすごいし、連絡先も知らなかったから、会えないかと思ってたから……」


 少し早口だった気がするが、気にしない、気にしない。


「ね……! ほんと会えてよかったよ……! ところで、霧崎君は何組だった?」


「えっと、僕は、D組だったよ。永井さんは?」


 まあ、さすがに、同じクラスになれるだなんて、そんな都合のいいことは考えていない。いや、ほんとですよ!?


 しかし、永井さんを見ると――、


 ――あれ? なんか驚いてない?


 そんなことを考えていると――、


「えっ!? ほんとに!?」


 いやいやいやいや、まさか――ね? 永井さんの友達が僕と同じクラスとかそういうパターンでしょ?

 

「私も……」


 ――え? マジなやつ? これ?


「D組だよ」


 ――ええええええええええええ!?

 

 心の中で僕は、絶叫した。






 



 

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