練習 〜海外作家風〜

 彼女がソファに横たわっていた。

 そう思った。


 動悸を堪えて近寄ると、実際は洗濯を終えたワンピースが置いてあるだけだった。

 僅かに失望したが、彼女に罪はなかった。


 ワンピースをハンガーに掛けた。いつか彼女に必要になるそれを、無碍には扱えなかった。それは真紅で、生地が薄く、上品だった。背中のスリットが綺麗なシルエットを形成し、着る人を美しく見せた。彼女はそれ以上美しくある必要はなかった。

 それでも彼女はそれを気にいるだろうと思った。


 ウィアンにとっても、それは同じことだった。嫌いなところはなかった。サイズ以外の全てが完璧だった。タグの40という数字を見るたび虫唾が走った。

 業者のミスだった。確認の連絡をすると、サイズ38の在庫は既になく、返品のみ受け付けるとのことだった。


「これはプレゼントなんです」


 ウィアンは食い下がったが、業者の回答はいつまでも同じだった。そのうち見かねた同居人がやってきて、38も40も変わらないと言った。


「でも彼女のサイズは38だ」

「ベルトをすれば着られるわ。あまりお店を困らせるのは止めて頂戴」


 そう言って同居人はウィアンから電話機を奪うと、もう良いですと言って勝手に電話を切ってしまった。

 ウィアンは抗議したが、同居人の答えも業者と同じだった。

 いつまでも同じことを繰り返した。


「いい加減にして」


 同居人はイラつきを隠さずにそう言った。


「サイズなんてどうだって良いでしょ。どうせ彼女は着ないんだから」


 着るか着ないかは問題ではなかった。

 サイズも分からない馬鹿だと思われるのは心外だった。

 ちゃんと分かっているのだと伝えたかった。

 「これは業者のミスで」。彼女の前で、そんなことを言う自分を想像して、ウィアンは一層抗議したが、同居人はウィアンから電話機を取り上げて、その先三日返さなかった。



2023/5/26





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落書帳 りりー @Ririry

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