第10話 デート④

 

 投げ飛ばされる彼女を見て俺は走る。

 跳躍して彼女を空中で抱きしめそのまま自分の背中に炎を浴びる。

 「ぐううう!!」

 地面に二人共落ち俺は熱さで痛む背を堪える。

 「大丈夫ですか!何て無茶な、あ!」

 そこで彼女も気付いたようだ。俺の仕込みを。

 焼けた背中。そこには服の中に仕込んでいた護符があった。

 「小符を幾つもつなぎ合わせて防弾チョッキのようにしていたと言う事?」

 「そうだ。小さな金の板も合わせれば立派な鎧になる。まあ作るのに一ヶ月掛かるんだけどね」

 その鎧はすべて焼け焦げてしまった。そこへ彼女が近寄ってくる。

 「準備を怠らない姿勢は嫌いじゃないわ。でも呪力が伴ってないみたいね。その程度の護符を作るのに一ヶ月もかかるなんて」

 「くっ、水生中符・水連巴弾」

 巴の形をした三つの水弾が敵を襲う。

 「火生小符・白炎火種」

 白い火の種。それにふれれば炎が発生する火種だ。

 巴の水弾は火種にふれて爆発して水蒸気となる。

 しかし水連巴弾は護符に呪力を篭める時間をかせぐための陽動だ。

 「御柱なる神々よ 我が命の危機となれば 御身の力を欲っさん 我が血と呪と言を以って しばし我に力を貸し給え。水生大符・殲滅瀑布」

 天空から大量の水が滝のように敵に降り注ぐ。広域殲滅型の護符だ。

 「こんな時の準備型の護符ね。火生大符・三輪炎華」

 三つの華が開き滝を覆い爆発する。

 「そんな!」

 その光景に絶句する水成さん。 

 爆音と水蒸気が周囲を覆う。

 水蒸気が晴れる中で敵の声が聞える。

 「呪力と戦闘能力は高いみたいだけどそれだけでは陰陽師の仕事をこなす事は出来きませんわ。戦闘以外にも下準備や地道な作業が必要な時もある」

 水蒸気が晴れ敵は俺達の近くまできて歩みを止める。

 「私はねあなたのようにただ邪霊を祓って陰陽師ですって言う人たちが大嫌いなの。もっと実力をつけてから試験に臨むことね」

 そうして一枚の符を取り出し水成さんに向ける。

 「止めろおおお!!」

 「火生大符・爆炎昇華」

 炎が渦巻き周囲を包み込む。外から見ればそれは炎の華のように見えるが中にいるものは猛火に焼かれる。その中を俺は迷い無く飛び込んで言った。

 中には空洞になっており地面に倒れる水成さんがいた。

 炎はその範囲を狭め全てを焼き尽くそうとしている。

 「早く逃げるぞ」

 「もう、良いの」

 はじめて聞く弱々しい彼女の言葉だった。

 「私が未熟なのは理解したから。ずっと師匠の下で頑張ってきた。父さんも母さんも陰陽師の仕事に反対しているから何も教えてくれなくて、師匠だけが味方で、見返してやるんだって」

 「じゃあ早くこの場所から避難しないと」

 「でも、もう無理かな」

 「水成さん!」

 「私のとっておきの大符が通用しなかった。あの人の方が何枚も上手で、これまでの努力が意味無かったわ。アハハ、ハハハ」

 そう言って落ち込む姿がかつての自分と重なる。

 俺は地面を向いて笑う彼女の顔を両手でつかみ目を見て言う。

 「努力した自分を笑うな!」

 「っつ!」 

 「君がやってきた事は無駄じゃない!無駄かどうかなんてまだ分からないだろう!」

 「鐘羽さん」

 「歩みを止めたらそこで終わりだ。だからここから脱出するんだ!分かったな!!」

 俺は彼女の顔から両手を放す。俺の言葉に彼女は頷く。

 「はい」

 そして炎の隙間を見つけてそこから逃げる。

 その間に素早く作戦内容を伝える。

 「分かりました。あなたの指示に従います」

 そう言って彼女は懐から符を取り出す。俺も二枚の符を取り出し一枚を自身に使う。

 「閉門康健符」

 病気を追い払い健康を維持する護符。肉体強化の効果もありアスリート並の運動神経を得ることが出来る。

 炎の隙間から外へ脱出すると

 「罠よ。火生中符・散乱火矢」

 火の矢が雨のように乱れ降り注ぐ。

 「金生中符・連星双壁」

 二つの金属の板が火矢の軌道を逸らし俺達は二手に別れる。水成さんは大きく迂回して、俺はまっすぐに敵の元へ向かう。

 お互いに護符を使えない至近距離に入り、それぞれの拳が繰り出される。陰陽師といえど護符が発動できない至近距離に至ればそこは格闘戦勝負となる。

 「格闘戦ね、面白いわ!」

 拳と拳をぶつけ合う。一瞬の間隙をついて彼女は大技を繰り出す。前蹴りだ。

 拳同士の競り合いと思わせておいて正面下方向からの奇襲。俺はギリギリで回避して後方へ跳んで距離を取る。すると彼女は追撃してきた。

 このとき彼女の目には俺しか映っていなかっただろう。それゆえに

 「水生大符・竜泉昇牙!」

 真横から水成さんが護符を構えていたことに気付かなかった。

 「陽動!!」

 俺は攻撃に気付いた彼女の反射神経を疑った。水の竜は敵に直撃するはずだったが彼女は跳躍して直撃を免れる。しかし水の竜は彼女を吹き飛ばし大きく吹き飛んで地面に倒れる。倒れた彼女はパーカーがはずれその素顔が明らかになっていた。

 「痛たた、油断したわ」

 そう言って立ち上がる彼女を俺も水成さんも知っている顔だった。一度見ただけだったがその威圧的な雰囲気は変わらなかった。

 「どういうことですか、火口さん」

 水成さんが前にでて問い詰める。

 「あら、バレてしまったのね」

 悪びれる様子も無く彼女は立ち上がる。

 「あなたたちの実力をもっと見たかったのよ」

 そう言った後で彼女は俺の前に立つ。

 「私の部下にならない」

 そう言って俺の目を見て言って来た。

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陰陽相見える @Electra17

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