第9話 デート③
「納得いかないわ!」
そう言って私は妹の前で愚痴る。
「邪霊を祓ったのは私なのにどうして二人一組での合格なの!」
「でも鐘羽さんはお姉ちゃんを邪霊の攻撃から護ったんでしょ。あと最後の大符をつかえたのも鐘羽さんの協力があったから、その点で二人一組ってなったんじゃないかな」
机に半紙を広げて私を見る妹は水成美栗(みずなり みくり)。黒髪ツインテールで眼鏡をしている。少し歳の離れている妹は小学六年生だ。四つ年下の妹は可愛くて頼りがいがある。陰陽師としての才能はあまりないが、手先が器用で護符を作るのが得意だ。
「それはそうだけど、彼はずっと守ってばかりだったのよ」
「金の陰陽師は防御が得意なんだから仕方ないんじゃないの」
「防御が得意でも攻撃の手段はあるわ。逆もまたしかりよ。攻防できて一人前なのにあの人は半人前なのよ」
「うちは没落したから半人前以下だけどね」
そういわれて妹を睨みつけてしまった。
そんな私の視線を華麗にスルーして彼女は手元の本に視線を落とす。
「それでどうするの?共同作戦の話」
「受けるしかないでしょ!そこで私の力量を見せ付けて一人でも陰陽師として活動できるって証明するのよ」
「私、護符作り手伝っているんだけど」
「バイト代を出しているでしょ」
「割り増しさせてもらうからね」
「足元を見て!」
「あのね、護符つくりも道具そろえるのとかで結構お金が必要なんだから、何度も言ってるけど」
「それは、そうだけど」
そう言った私の反応に妹は驚愕する。
「どうしたのよ?」
「いや、だってこれまではそんなのたいした金額じゃないでしょ、って言ってたのに」
「そ、それは。私だって日々精進しているんだから。護符作りについても勉強したんだから」
「・・・そういえば鐘羽さんとデートでどこに行ったの?」
「デートじゃないわよ。場所は雨路デパートよ。お互いに仕事道具を買おうって話になったのよ」
「つまりそこで鐘羽さんに護符の事を教えてもらったのね」
「そうよ、あっ」
「人から聞いた話で精進できてよかったねお姉ちゃん」
妹の嫌味に私は言い返すことが出来なかった。
※
そんな気持ちのまま試験の日を迎えた。
私達は指定された場所で待っている。そこは学校の通り道でもある河原で橋の下に場所が指定されていた。
橋の下は日光が当たらず暗い。
「こんなところに一体何が」
「このあたりで陰陽師を狙った陰陽師狩りをする者が出没するらしいですよ」
「陰陽師狩り?そんなのがいるんですか。それよりもどうしてそんな情報を」
そう言って彼の手元には場所を指定した地図が手元にあった。彼はなぜかその裏面を見ている。
「ここに書いていますよ」
「え?」
裏面はたしか白紙のはずだ。私は確認するが白紙のままだった。私は鐘羽さんをみると一枚の符を取り出す。
「治失脱的符」
失くしたものを探す符を使うと裏面に文字が浮かんできた。
「裏面にこんな細工がされていたなんて」
「治失脱的符は失くしたものを探す符だけど隠されたものを見つける効果もある。本部の指示書には一般人に悟られないように呪力を篭めれば依頼文が浮かんでくる仕様になっているんです」
「知らなかった」
私は気を取り直して依頼文を読む。陰陽師狩りが橋の下でいるため対処すべし。非情に凶悪のため生死を問わない。そう言った内容が書かれていた。
「生死を問わないとは物騒な内容だけどそれほど危険人物ってことよね」
「相当な実力者なのだろう」
鐘羽さんは緊張しているようだ。横顔からは強張っている雰囲気が伝わってくる。よく見ていなかったが顔は面長で瞳は大きくもなく細めでもない。何と言うか平均的な顔立ちだ。私も女子なので好みの顔立ちと言うものはあるがそれとはかけ離れている。
そんなことを思いながら彼を見ていると視線に気付いてこちらにむく。
「でも邪な気配は感じられませんね」
「そうだね」
そう言って誤魔化して周囲を見渡す。
それは突然だった。
いつの間にか人影がいたのだ。
「「!!」」
人影に警戒レベルを上げる。目深いフードつきのパーカーを来た女性。
「陰陽師、狩らせてもらうわ」
それが襲いかかる。
「火生小符・火弾烈刺」
先端が尖った火の玉が私達を襲う。それぞれ別方向に逃げる。
「水生中符」
「火生中符・連炎外壁」
炎が蛇のようにとぐろを巻いて周囲を覆う。彼女は炎に守られる。素早い符の発動に高い呪力。強敵だと脳が警鐘を鳴らす。
「水生小符・連弾水包」
小さな水の弾が一定範囲を包み炎を消火する。そのわずかに開いた穴を目掛けて一撃を打ち込む。
「水生小符・水渦連砲・螺旋」
護符での戦いには二種類の護符を使う。
言霊を使い即席で護符に呪力を篭める言霊型。
筆で護符に呪力をこめる書写型。
この小符は予備型の護符で通常よりも威力のある水鉄砲だ。
「捕らえたわ!」
「ふん」
女の鼻笑いと共に炎の壁が移動し穴を塞ぐ。水鉄砲は炎を相殺して水蒸気が発生する。
「まあまあの威力ね。でもそれでは陰陽師として通用しないわ!」
女は一足で私の間合いに入ってきて私の手首を掴む。
(関節技!)
手を捻って強引に女から離れる。
「あら、まあまあの力じゃないの。でも罠は二重に張られているわ」
「え?」
「水成さん!後ろ!」
後ろを振り向くと炎の網が張られていた。
「火生中符・天網火焼」
退くことを封じられた私だったが一瞬後ろを振り返った隙に襟をつかまれていた。
「黒焦げになりなさい!」
そのまま網に向かって投げ飛ばされた。
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