第8話 デート②


 デート場所はお互いに商売道具を買えるデパートですることにした。それを提案すると彼女は快く受けいれてくれた。

 護符作りの話になり調子に乗って色々と話してしまった。陰陽師としての腕は彼女の方が上なので俺が色々アドバイスするのもおこがましいと考えていたのでそれほど話すつもりはなかったのだが、彼女が興味津々に話を聞いてくるので興が乗って色々と話してしまった。

 ちょうど小腹が空いたのでカフェで軽食を取っている。

 食事中の会話で思った事は彼女は陰陽師の戦闘技術的なことは深い知見を得ているが道具などの戦闘面以外のことはほとんど素人だと言う事だった。

 軽食を食べながら彼女に聞いてみた。

 「陰陽師の技術はご両親から教えてもらっているんですか」

 「いえ、両親、と言うか父が私の陰陽師活動に反対しているので陰陽師の知識は師匠から教えてもらっています」

 そう聞いてなるほどと思った。俺は両親から技術を継承したが彼女にはそれがない。彼女が護符の使いに長けているにも関わらず護符作りの知識が希薄なのはそれが原因だったのだ。 

 「たしか水成家は陰陽師としての地位が降格させられているはず。それなのになぜ陰陽師になろうと思ったのですか?確か庚辛の位だと聞いてますが」

 「父は陰陽師の才がなく陰陽師の学校を卒業したレベルで止まっています。陰陽師としての活動もほとんどなく甲乙の位から庚辛の位になりました。だから私が水成を陰陽師として復活させたいんです」

 その瞳は強い意志が宿っていることを感じた。

 (凄いな)

 素直にそう思った。20も年下の女性に敬意の念を抱く。それと同時に一つの疑問が湧く。触れにくい話題だが素直に聞いてみることにした。

 「じゃあお父さんのことは好きじゃないのかい?」

 彼女はそう聞かれると目を見開いて驚きやがて思案顔になる。そして考えがまとまった頃に口を開く。

 「陰陽師としては尊敬していません。水成が没落する原因となったので頼りない父だと思っています。けれど嫌いと言うわけではありません」

 そう答えられるとそれ以上は深く追求が出来なかった。

 「鐘羽さんは家庭ではどのように過ごしているんですか?」

 「俺は両親の手伝いかな。自治会の用事や近所の困りごとを解決する時もある」 

 「鐘羽家に子どもはおらず養子だと聞いています」

 陰陽師同士は家庭の事情にある程度精通している。五つの宗家は親戚付き合いの如く濃密な関係だからだ。

 「そうだ。俺は幼いころに養子として鐘羽家に来た。それから陰陽師として修行して学校も卒業したが見てのとおり落ち零れだ。才能が無かったのさ」 

 「でも私を助けてくれました」

 自虐的に言った言葉を彼女はそう言って切り返してくれた。

 「ありがとう、そういってもらえると嬉しいよ」

 ふとそこで彼女の携帯が鳴った。

 携帯を取り出した彼女は

 「少し失礼します」

 そう言って席を立って電話に出る。そしてすぐに戻ってきて席に着く。

 「失礼しました」

 「いいえ、ご両親からですか?」

 他にアテが無かったので電話のかかってきそうな人を上げて聞いてみる。

 「いえ、陰陽師本部からです」

 それを聞いて俺の神経が強張る。

 「それではこの前の試験結果を?」

 「はい」

 そう言った彼女の表情から合格か不合格か読み取れなかった。合格でもあるし不合格でもある、そんな曖昧な表情だ。しかしどちらにしても俺には関係のないことだ。これ以上の詮索は無意味と思っていた時に彼女の方から合否を口にする。

 「結果は、合格でした」

 「それは、おめでとうございます!」

 「それが、その」

 喜ぶべきことなのに彼女は歯切れが悪い。そしてなぜか睨みつけられている気がした。

 「合格には条件がありまして。鐘羽さんと二人一組で合格なんです」

 「え?」

 二人一組での合格。そんなことがありえるのか?試験に落ち続けた俺には分からないがそう言う判定が下ったのならそうなのだろう。

 「それで早速仕事の話が来まして、ご迷惑でなければまた合同でお願いしたいのですが」

 その笑顔が強張っているように感じた。もうこれ以上係わり合いたくない。それが本音だった。

 「せっかくですが」

 そう言って断ろうとした瞬間、一瞬だが彼女に悲壮な表情が浮かぶ。

 当然だ、先ほど彼女が何を話していたのか思い出せ。


 「私が水成を陰陽師として復活させたいんです」


 若者の道を途絶えさせるようなことは出来ない。それが未熟なおじさんの矜持だった。

 「こんな俺でよければお受けします」

 そう言った瞬間彼女の表情が満面の笑顔になる。やはり女性は笑っているほうが可愛らしい。

 「ありがとうございます。詳細は追って連絡が来るので」

 「ええ連絡を待っています」

 「それではLINEを教えてくれませんか?」

 「え?」

 そこで俺の思考は停止した。

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