ひとめぼれ

 あの人と出会う

 私が書こうと思っていること、中核にあるのは、ある人のことである。

 ませた私は、ドラッグストアで万引きした化粧品で、軽くメイクをしていた。

 

髪留めピンで、毎日二重瞼の癖をつくり、自然に二重になった。

 中二の頃、塾に通っていた。頭の良くない友達四人とほぼ遊び半分に。

ある日、慣れた塾の入り口の階段を降りると

知らないお兄さんが立っていた。


     ひとめぼれだった


 冷たい目で、ませたガキを呆れて見てるような表情で、当時流行していたストリート系のバッシュを履いた、あまり塾では見かけないタイプの人だった。

 目が合ったが、一瞬だけでスッと事務室へ入って行ってしまった。

 

あ、講師なのか…


 見つけた。わたし、絶対、あの人を好きにさせてみる。


私の不良心がふつふつと湧き出してきた。

 これで、つまんない学校生活に、楽しみができた。はじめは、そんな感じだった。

 

この瞬間以外、私が覚えていることはおぼろげで、そのあと、彼とどんな話をし、バレンタインにチョコを渡したりもしたが、ほとんど覚えていない。

 とにかく、ひとめ見た、この瞬間だけ、やっと思い出せるのだ。


 ひとめぼれ、なんだろう。


生まれて初めて、男性に興味を持った瞬間。

 今でも、この時の彼の姿だけは、忘れない。

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