第六章
緑が多い墓地だ。神聖さを感じる。太陽は相変わらず燦燦と僕たちを照らす。
夏休み最終日。母に父のお墓に連れて行ってもらった。今なら胸を張って父と対面できる気がした。
数百の石が置かれている。それだけで壮観だった。この石、一つ一つに一人一人の人生が詰まっているのだと考えると遺憾だ。でも、彼らはそれぞれの人生を生き抜いたのだ。そして、突然な死を遂げたのが、お父さんだけではないのだと、実感する。彼は決して特別なのではない。そのような経験をした人は、何人もいるだろう。僕のような思いを経験した人間も何千といる。それなのに、自分だけクヨクヨしているわけにもいかない。弱音を吐くわけにはいかない。
「ここよ。」
少し歩いてから、母が指差したのは、小さな石だった。一見、か弱そうだけど、中身は詰まっていそうだ。父にそっくりだった。弱そうで意外と度胸がある。頼りなさそうだけど、精一杯力を注いでくれる。素直で優しい。思いやりがある人。やっぱり失うべきではなかった人。
「本当にいなくなっちゃったのか。」
あえて言葉に出すことで、自分に教え込む。もう彼はいない。何度考え直したって、それだけは変わらない。どんなに抗っても変わらない事実なのだと確認する。
屈んで、父と目線を合わせる。そして、手を揃えた。静かに目を閉じる。蝉の鳴き声に負けないくらい大きな声で父に話しかける。もちろん実際に声には出していない。心の中で最大の声を出す。
『お父さん。元気ですか?なんて故人に向けた言葉じゃないよね。でも、それくらい実感がないんだ。お母さんに聞いたよ。お父さんの最後を。僕のための判断だったとは言え、やっぱりまだ許せない。僕のために自分の想いを犠牲にしたこと。無理して隠し続けたこと。お父さんの気持ちを考えると本当に吐き出しそうになる。それくらい胸がギュッと締め付けられる。だから、次、もし大切な人ができても、それと同じくらい自分自身も大切にしてほしい。』
『でも、もう一つ報告したことがあるんだ。僕は将来、医師になるって決めた。理由は率直すぎて恥ずかしいけど、お父さんみたいな人を一人でも救うため。ある人が、亡くなった人に価値を与えられるのは残された人だけって教えてくれたから、お父さんの死を無駄にしないためにも、努力する。だから、見守っていてほしい。また会いに来るから。そのときまでにもっと成長しているから、きっと。』
空を見上げる。太陽はきらりと輝いた。お父さんが笑ってくれたようだった。
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