ダイタンな彼女
翌日の昼休み。
俺は、話したい事がある(ついでに、お金も返したい)と言って、小谷さんをオカ研の部室に呼び出していた。
「用って何よ? わざわざこんな所に呼び出して?」
小谷さんが、少し機嫌悪そうに言う。『こんな所』とは、失敬な!
「いや、俺じゃなくて、マホ子が小谷さんに用があるって……」
部室の奥に居たマホ子を、手招きして呼ぶ。
そう、こんな所にお呼びしたのは、ここなら誰にも邪魔されず、2人で話が出来ると思ったからだ。
「ちょ、ちょっと、彦根君……!?」
まあ、騙して悪いとは思ったが、昨日の件もある。これでお相子だろう。
「……読んで!」
動揺する小谷さんに、マホ子が封筒を手渡す。
マホ子が手渡したのは、昨日、俺が小谷さんから預かった“例の封筒”だ。
正直、こんな事をして良いものかと悩んだが、コアの中で小谷さんと話をして決心がついた。
「で、でも……」
小谷さんが、ジリジリと後ろに下がりながら言う。
マホ子は、そんな小谷さんの瞳を、ただ真っすぐに見詰めていた。
その真剣な眼差しに根負けしたのか、小谷さんは「ふうっ……」と、小さく息を吐くと、観念したように封筒から手紙を取り出した。
幼稚部の頃の文章なので、所々稚拙な部分もあるし、なにより人様の手紙をそのまま読み上げるのもどうかと思うので、俺の方で要約すると、手紙には大体こんなような事が書かれいてた。
高校生になった、小谷さんへ……
小谷さんは、格好良くてキレイで私の憧れです。何時も私を遊びに誘ってくれてありがとう。小谷さんはきっと、高校生になって今よりも、もっと格好良い、大人の女になっているんだろうなと思います。きっと皆のリーダーで、今と変わらず、クラスの中心にいるんだろうなと思います。
……ううん、そうじゃないんです。私が小谷さんに伝えたいのは、そういう事じゃないんです。私は、もっと小谷さんとおしゃべりがしたいです。もっと一緒に遊びたいです。だから高校生になった小谷さん、まだ私とお友達になっていなかったら、お友達になってください!
P.S.……でも高校に入る前に、小谷さんとお友達になれるように頑張ります!
手紙を読み終えた小谷さんは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「この手紙に書いてある事って……」
「うん。これが高校生になった小谷さんへ、私が伝えたかった想いだよ」
「……怒ってないの、あの日の事?」
「いやあ、怒ってないと言いますか……魔女の家に入ったのも、昨日まで忘れていたと言いますか……」
マホ子が、申し訳なさそうに両手を合わせる。
小谷さんは、安堵とも落胆ともつかない表情で「はあっ……」と、大きく息を吐いた。
「まったく、何なのよ……?」
そう言って、手紙を持っていない方の手で、パタパタと自分の顔を仰ぐ。
そして、手紙をテーブルの上に置くと……
「ねえ、マホ……」
先程と一転、覚悟を決めたような面持ちで、マホ子に言った。
「でも、これだけは言わせて欲しい……あの日の事、本当にゴメンなさい……」
小谷さんが、深く深く……頭を下げる。
まるで、今までの歳月が重く覆いかぶさっているように、俺には見えた。
「小谷さん……」
マホ子が、優しく小谷さんを抱きしめる。
「許して……くれるの?」
「許すもなにも、不法侵入しちゃった、私が悪いんだし……」
あの日から、小谷さんは、マホ子の事をずっと見つけられないでいた……でも、今日からは違う。
過去という重い扉を開けて、ようやくマホ子を見つけだす事が出来たのだ。
「それはそうと、『お友達になってください』って一文は、今でも有効なのかしら?」
小谷さんが、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、マホ子に問うた。
「う、うん。その今でも有効というか、これからも有効というか……」
マホ子が、モジモジしながら答える。
「そう、でも私は、友達じゃ物足りないのよね……」
「えっ?」
それってつまり……
「マホ……私、ずっとあなたの事が好きだったの!」
「あ、あのね、小谷さん。その、気持ちは嬉しいんだけど、私にはネー君が……」
「いやいや、小谷さん! いきなり何を言ってるの!?」
俺は、慌ててマホ子と小谷さんの会話に割って入った。
いやでも、好きにもいろいろ……
「ライバルね!」
そう言って、小谷さんが俺にウインクをした。
これって宣戦布告……だよね?
「いや、ライバルって……ちょっと待ってよ、小谷さん!」
「別に心配しなくても、『今すぐ』取って食ったりはしないわよ」
「『今すぐ』って……いずれは取って食うつもりなんじゃないか!?」
強力なライバルの出現に、俺は叫んだ。
そして俺は、また小谷さんにお金を返しそびれるのだった……
someday shine together 完
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