extra 1.2
「なんだか、物凄いものを見てしまった……」
「うん。私もビックリしちゃった」
扉から出て、アイリの部屋に戻る。
まるで白昼夢でも見せられたような感覚。
それから暫く、マホ子と一緒に呆けていると……
「大丈夫、さっき凄い音がしたけど? 何度、呼んでも返事がないし……」
突然、母さんが部屋に入って来た!!
(しまった……)
扉の存在に気を取られて、部屋の鍵を閉め忘れていた。
「ネー君、ごめん!」
マホ子が肩に乗っていた俺を掴んで蹲る。
突然の事に混乱しているのだろうか? 瞳の奥が、グルグルしてい……
パクッ!
「あら、マホちゃん。来てたの?」
「マ、マホ姉様に宿題を教わっていました。さっきの音は、その、私が転んでしまって……」
母さんの問いかけに、マホ子ではなく、アイリが答えた。
危機一髪。扉の隠蔽は間に合ったらしい。
「ふぁひ。らいひょうふれす(はい。大丈夫です)」
アイリに続いて、マホ子も答える。
「そ、そう? 大丈夫なら良いんだけど……」
キィィ……
部屋のドアが閉まる音がした。
どうやら母さんが、部屋から出て行ったようだ。
「申し訳ありません。この空間……ではなく、部屋には入れないようになっているものと勘違いをしていました……」
「ふぁいれらいように?(入れないように?)」
「マホ姉様。その……まずは、お兄様を吐き出してあげてください……」
「ふぁっ、ほうらった!(はっ、そうだった!)」
(間奏)
「うう、怖かったよお……」
俺は、アイリの膝の上で、濡れた体をガタガタと震わせていた。
そう、俺はついさっきまでマホ子の口の中に無理やり押し込まれていたのだ……
「お兄様、もう大丈夫ですからね」
アイリが、ハンカチで俺の体を優しく拭いてくれる。
やはり、俺の妹は天使に違いない。
「ゴメンね、ネー君。その、つい咄嗟に……」
マホ子がバツの悪そうな顔をして、首筋をボリボリと掻いていた。
まあ確かに、緊急事態ではあったけれども……
「俺を隠すにしても、他にやりようあったよね……?」
見つかったら、いろいろと面倒そうではあるが(最悪、ビッグブラザーで記憶を消す事になる)そもそも隠す必要があったのかも疑問だ。
「いやあ、あの時は、あの方法しか思いつかなくて……」
マホ子が、今度は、後頭部をボリボリと掻きながら言った。
目が泳ぎまくっている。
仕方ない、ちょっと反省してもらおう。
「一瞬だったけど、お花畑が見えてさ……俺、また死んだんじゃないかって……」
ちなみに、お花畑が見えたのは本当である。
一応、芝居がかった感じで、冗談っぽく言ったつもりだったのだが……
「うん。本当にごめんね……」
そう言って、マホ子が体を縮こませた。
「しまった……」
あんな事(俺がトラックにドーン!)があった後で、『また死んだんじゃないかって……』は、さすがに無調法だった。
「マホ子、その、ゴメン……そういうつもりじゃなくてね……」
慌ててフォローするも時すでに遅し。部屋の空気が、重く重く全身に伸し掛かる。
その重圧と沈黙を打ち破るように、アイリが言った。
「ところで、お兄様とマホ姉様が粘膜を接触させたのは、今回が初めてですか?」
「「ブーッ!」」
突拍子もない質問に、2人、同時に吹き出してしまう。
「アイリさん何言ってんの?」「アイリちゃん何言ってるの?」
セリフも綺麗に重なった。
「愛する2人は、粘膜を接触させるものだと資料に書いてありましたので……」
「「いやいやいやいや!」」
またしても綺麗に重なる。
その後、2人してアイリの誤解(?)をどうにか解いたのだが、まあ、結果として、アイリの純粋無垢(?)な質問のお陰でその場は丸く収まった(?)……という事にしておこう。
(……それはそうと、まさか“アレ”は、ファーストキスにカウントされないよね?)
inner space 完
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