prologue 1.2

 昼休み……

 部室で一緒にお弁当を食べようと提案するマホ子に「それじゃあ、購買でパンを買ってくるから、先に部室へ行ってて」と告げると、教室を後にするマホ子に手を振ってから、鞄の中に手を突っ込んで財布を探す。


「あれ……ない?」


 そんなバカなと思いつつ、鞄の中身を全て取り出して確認する。


「……うん。ない!」


 どこかで落としたのか、それとも家に置き忘れたのか、おそらく後者であろう(朝、急いでたしね……)

 頭を抱えてうずくまる俺に、救いの女神が囁いた。


「財布を忘れたんなら、貸しましょうか?」

「本当に?」


 そう言って、俺が振り向いた先にいたのは、意外な人物だった。


「小谷……さん……?」

「ほらほら、早く行かないと購買が混んじゃうわよ」

「えっ……えっ……!?」


 (間奏)


 その後、無事に購買でトンカツバーガーを購入する事に成功した俺は、スキップしながら、小谷さんに言った。


「ありがとう小谷さん。お金は後でちゃんと返すからね」


 小谷さんに誠心誠意、感謝の意を述べて、一応、利子じゃないけどコンビニでプリンでも買って……そんな事を考えていた時である。


「ところで彦根君、今日の放課後って空いてるかしら?」


 またしても意外な人物からの意外な一言である。

 まあ、今日は部活もないし(常時、開店休業状態なのだが)マホ子も家の用があるって言ってたっけ?


「特に予定はないけど」

「そう、それじゃあ、ちょっと付き合わない?」


 正直に告白しよう。マホ子とサクラちゃん以外の女の子から、こんなお誘いを受けたのは、生まれて初めての経験だった。


「いや、お誘いは嬉しいんだけど、その、俺には、えっと……」


 あからさまに動揺する俺を見かねてか、小谷さんがやれやれといった感じで言う。


「えっと、何か勘違いしてるみたいだけど、私の他にも何人かクラスの子が来るからね」


 そっか、そうだよね……いやあ、ビックリしたなあ、もう……


「高等部からの編入組も交えて、クラスの親睦会みたいな感じかしら。まあ強制はしないけど……」

「いや、誘ってくれてありがとう、小谷さん。必ず行くよ」


 俺は、小谷さんの誘いを快諾する事にした。

 昨日のマホ子じゃないけど、こういう付き合いも大事だろう。


「まあ、クラスメイト、ほぼ全員、既に見知った仲なんだけど……」

「彦根君、何か言った?」

「いや、なんでもないよ」


 それはそうと、小谷さんが一瞬、胸ポケットを押さえて、何か覚悟を決めたような顔をしていたように見えたのだが、気のせいだろうか?


unexpected person 完

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