UMAよ、UMAよ!

「佐久良様、このUMAという生き物、以前から知ってはいたのですが、こんなにも興味深いものだったのですね!? 今まで、私には不要なものと情報を遮断していた事が悔やまれます……」


 アイリが某オカルト専門誌を読みながら、感嘆の声を上げていた。


 週明け。さも当たり前のように佐和山学園の中等部2年に編入してきたアイリは、さも当たり前のようにオカ研に入部し、そして現在、さも当たり前のように部室でサクラちゃんと話をしている(狙ってか偶然かは分からないが、サクラちゃんと同じクラスになったらしい)


「アイリちゃん、その、佐久良様っていうのは止めてよ。なんだか申し訳なくなっちゃうし、同学年なんだからタメ口で良いよ」

「……ですが、佐久良様は部活の先輩ですし、先輩には敬意を払うべきと、資料にも記載されていました」


 アイリと数日だが一緒に暮らしていて、分かった事がある。

 どうもアイリは、少し抜けているというか、知識が少々偏っているようなのだ。

 それは、物理の難しい公式を知っていたと思えば、トイレの使い方を知らなかったり、風呂の入り方が分からなかったり、といった具合である。


(前に一度、びしょ濡れのアイリが、素っ裸で泣きついてきた時は、さすがに焦りましたよ。いろんな意味で……)


 俺が、アイリとの日々を振り返り、感慨に耽っていると……


「うう、ネコ先輩からも、せめて佐久良様は止めるように言ってくださいよお……」


 サクラちゃんから上目遣いで懇願された。

 可愛い後輩の頼みだ。俺に出来る事なら何でも聞いてあげたい。


(それに、アイリが平穏無事な学園生活を送るには、サクラちゃんの協力が不可欠だろう)


 俺は、サクラちゃんに助け舟を出す事にした。


「実は、これこれしかじかで……」

「そっか。かくかくうまうまって事ね」


 それから暫く、サクラちゃんと小声で打ち合わせをする。アイリの耳がピクピクと動いていた。

 そして、打ち合わせを終えた俺は、アイリの耳元でそっと囁いた。


「サクラちゃんは、アイリと友達になりたいんだよ」

「お、お友達……ですか!?」


 驚いた様子のアイリに、サクラちゃんが力強く言った。


「うん。私はアイリちゃんとお友達になりたい!」


 アイリの表情が、パッと明るくなる。


「お兄様、お友達が出来ました!」

「そっか。良かったなあ」


 俺は、嬉しそうに抱きついてくるアイリの頭を優しく撫でた。

 そして、サクラちゃんに誠心誠意、頭を下げる。

 

「サクラちゃん、アイリをよろしく頼むね」

「は、はい。よろしくね、アイリちゃん」

「よ、よろしくお願いします……サクラさん」


 アイリが俺に抱きついたまま、顔を真っ赤に上記させて言った。


 (間奏)


「お兄様も見てください! UMAですよ、UMA!」


 アイリが某オカルト専門誌の写真を指さしながら言う。

 そのページには、付箋が何枚も貼られていた。


 『海水浴場に青い目の首長竜!?』『佐和山町にUMA出現!』『第一発見者の少年が熱く語る!』


 ……そんな、見出しが躍っている。


「これって、サワッシーだよね?」


 それとなくサクラちゃん方に目をやって、確認を取る。


「あ、はい、そうですね。サワッシーです」

「サワッシーですか? えっと、確か以前に聞いた事があるような気がするのですが……?」


 アイリが首を90度くらい傾げて、思い出せそうで思い出せない、そんな表情を浮かべていた。


「ああ、サワッシーっていうのはね……」


 サワッシーというのは、今からおよそ10年前。佐和山町の近海に突如として現れた、首長竜のようなUMAの事である。

 当時はテレビや雑誌などでもかなり話題になり、連日、多くの見物客が町の海水浴場を訪れたそうだ。


 ちなみに商店街の軽食屋には、未だにサワッシー饅頭なる商品が売られていて、密かな人気メニューとなっているようだ。

 おそらくアイリも、それで何となく知っていたのだろう。


「なるほど。地の文での説明、ありがとうございます、お兄様」

「そうだったんですね、ネコ先輩。実を言うと、私も幽霊とかは好きなんですけど、UMAはあまり詳しくなくて……でも、サワッシーにはちょっと会ってみたいかも」


 後で聞いた話だが、サクラちゃんは、蛇や鰐など、巨大な爬虫類が人を襲う系のパニックムービーが大好物なんだそうな。


「いや、俺もあんまり詳しいわけじゃないんだけど、部長がね……」


 まだオカ研に入部して間もない頃。部長がサワッシーについて熱く語ってくれた事を思い出す。

 なんでも部長がオカルトに興味を持つきっかけだったらしい。


「部長命令で、マホ子とサワッシーを探しに、海まで行った事もあったなあ……」


 当時を思い出して、俺が感慨に耽っていると……


「そういえば……マホ先輩は、今日の部活、お休みですか?」


 思い出したように、サクラちゃんが言った。


「ああ、クラスの女子の集まりがあるんだってさ」


unidentified mysterious animal 完

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