extra 1.1
「ああ、うるせぇな……」
まだ引っ越しの荷物が整理できていない、段ボールだらけの部屋で、少年は、1人、愚痴っていた。
ここ最近、独り言が増えている事は、少年も自覚している。
「安アパートとはいえ、ここまで五月蝿いもんかね……」
自動車の走行音。道行く人の笑い声。酔っぱらいの叫び声。隣の部屋のテレビの音。こんなにも人の気配で溢れているにも関わらず、少年は孤独だった。
「しっかし……入学して早々、こんなに宿題を出すか?」
初めての一人暮らし、初めての学校、初めての教室、初めてのクラスメイト。もうそれだけで頭がパンクしそうなのに……更にこの仕打ちである。
「気分転換に、ちょっと散歩にでも行くか……」
椅子から立ち上がり、玄関に向けて歩きだす。その時である……
「あっ……」
床に転がっていた缶コーヒーを踏んでしまい、盛大にすっ転ぶ。
そして、床に積んであった段ボールに、思い切り足の小指をぶつけてしまう。
「痛ってぇ!」
あまりの痛みに、つい声が出てしまう。
正に踏んだり蹴ったりといった様相だ。
「ああもう、ガラスの左足なんだぞ!」
少年は、すぐさま左足が無事かを確認をした。
「とりあえずは、大丈夫みたいだな」
そう言って、安堵したのも、束の間だった。
崩れた段ボールの中から落ちてきた『何か』が、少年の顔面に直撃したのだ。
「あーっ……」
もはや、声にならない叫びであった。
少年は、赤く腫れた鼻をおさえながら、段ボールの中身を探した。
……数分後。床に転がっていた白いボールを見つける。
「こんなの、引っ越しの荷物に入れたっけ……?」
一度は捨てようとして、結局捨てられなった、白いサッカーボール。
少年は、それを小脇に抱えると、窓を開けて叫んだ。
「見てろよ、東京。絶対に一旗揚げてやるからな! ついでに可愛い彼女も……」
ドガンッ!
隣の部屋から、壁を蹴る音がした。
restart 完
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