第11話(3)ダイヤモンドは挫けない
「これは由々しき事態だね……」
部屋でパソコンを眺めながら呟く。端末を手に取る。画面には書き込みが表示される。
『ダイヤモンド、マズくね?w』
『こないだのコラボ相手誰だよ』
『だけど内容は結構良かったのが草』
『でも近頃はマンネリ気味だよね……』
『基本一人でやっているからどうしても限界があるでしょ』
「え~い! どいつもこいつも好き勝手言いやがって!」
ダイヤモンドが端末をベッドの上に置いたクッションに向かって思い切り投げつける。端末の画面には次の文章が映る。
『天翔ダイヤモンド、ヤバい……お前らの思ってる3倍はヤバい』
「くだらないスレッド立てて! それをエゴサしているウチもウチだけど!」
ダイヤモンドが声を上げる。しばらくして、少し冷静になった頭で考える。
(チャンネル登録者数が減っているのは事実……まだまだ誤差の範囲といえばそうだけど……これをそのままにしておくのはマズいよね……)
ダイヤモンドがベッドに横になって口を開く。
「さて、どうするか……?」
ダイヤモンドは端末を再び手に取る。指で画面をスクロールさせる。すると、次のような書き込みが目に留まる。
『それでも俺は応援し続けるよ』
『なんだかんだで面白い回は多いしね』
『かわいいから好き』
『顔も良いが、トークがおもしれ―女だから』
『アンチも増えてきたけど頑張って欲しい』
「うん!」
ダイヤモンドはベッドからバッと起き上がる。そして、ゲーミングチェアに座り、モニター画面を見つめながら、内心で自らに語りかける。
(大丈夫、応援してくれているファンの人もまだまだ多い。ここで踏ん張れば、また流れは変わるはず……いや、絶対に変えてみせる!)
ダイヤモンドがうんうんと頷きながらパソコンを手際よく操作する。カタカタカタと、キーボード音が静かな部屋の中に響く。
「とにかく動画を上げるだけ! ウチに出来るのはそれだ!」
ダイヤモンドが自らを励ますように声を上げる。
(いや、待てよ……)
「もう少し考えてみるべきかな?」
ダイヤモンドはゲーミングチェアを回転させながら考えを巡らす。
(やはりここらでもういっちょコラボしておくか?)
「いや、目ぼしい相手は今のところ見当たらないな、誰でもいいってわけじゃないし……」
ダイヤモンドは首を振る。
(なにかイベントでも開くか? ベタだけど、オフ会的な……)
「いやいや、ダメダメ! 基本コミュ障寄りのパーソナリティーだっていうことを忘れてしまってはいかん……!」
ダイヤモンドは激しく首を振る。
(そうだ、本格的にアメちゃんに出てもらうかな? 正式に事務所を通してオファーすれば、向こうも断れないだろうし……姉妹だというのはもう皆に知れ渡っているようなもんだから……待望の共演!って感じで……)
「いいや、ダメだ! それは禁じ手に近い! あるいはウチがもっと成功してからの話!」
ダイヤモンドは大きく首を振る。
(やっぱり……)
ダイヤモンドはチェアを回転させ、モニターに向き合う。
「愚直に動画投稿あるのみだ!」
ダイヤモンドはパソコンを操作する。
(まずはこれ!)
「『朝の忙しい時間でも三分で出来る簡単メイクアップ動画』!」
(美容系で女性層にアピールして……次は通勤・通学時間を狙って……)
「『朝からテンション上がる曲歌ってみた』!」
(お次は昼休みの時間帯を狙って……)
「『有名うどんチェーン店、おすすめのトッピング3選!』」
(案外庶民的なんだということを感じさせつつ、上手くいけば企業案件獲得も狙える……二兎を追う者は二兎とも仕留める動画! さて、次はコーヒーブレーク辺りか……)
「『クオリティ低すぎて逆に似ているモノマネ5連発!』」
(通常の動画ではとても見られたものじゃないけど、ショート動画で上げたから意外な爆発力や中毒性があるはず! リアルでコーヒー噴け! お次はアフターファイブか……)
「『お疲れ様♡ 一曲聞いていく?』!」
(疲れた心に染みるような曲を歌ってみた! 癒し効果は抜群! さてと……皆、そろそろ夕食も食べ終えたかな?)
「『フリートーク配信』!」
(話題のネットニュースなどに触れれば、基本引きこもりでも話すネタはある。もちろん、炎上しないように注意をはらって! 後は視聴者のコメントを小まめに拾えば、2時間くらいは余裕。ちょっと休憩して……最後は深夜の時間帯にかけて……)
「『恒例、お酒をたしなみながら、話題のゲームを実況プレイ』」!
(これで、ネットの主要層、オタクのハートもがっちりキャッチ! お疲れ、ウチ!)
「それはお疲れ様でした……」
リビングのソファーに横たわるダイヤモンドから話を聞いた山田は声をかける。
「久々にハードな一日だったよ……」
「それで……どうだったんですか? 反応とか……」
「あ、それ聞いちゃう?」
ダイヤモンドが体を起こす。
「いや、話の流れ的には聞くところかと……」
「どうしよっかな~?」
ダイヤモンドが腕を組んで首を傾げる。
「あ、話したくないなら別に良いです……」
山田が手を左右に振る。
「いやいや、そこはもっとグイグイ聞いてきてよ!」
「ど、どうだったんですか、視聴者さんの反応とかは……」
「それがね~」
「……はい」
「……良かったんだよ! 登録者数もまた増えてきた!」
「それはおめでとうございます」
「いやあ、安心した~。色々小細工も考えたけど、やっぱり小まめな動画投稿が一番だね!」
「そうですか。ダイヤモンドさんの動画投稿への純粋な愛が実った形ですね」
「え⁉ ま、まあ、そうなるかな~」
ダイヤモンドが後頭部を掻く。
「あ、そうだ……ちょっと待っていて下さい……これをどうぞ」
席を外した山田が綺麗にラッピングされた箱を持ってきた。ダイヤモンドが首を傾げる。
「なにこれ?」
「0時にはちょっと早いですが、明日お誕生日ですよね? おめでとうございます」
「プ、プレゼント⁉」
「そうです。どうぞ開けて下さい」
「これは……ネックピロー?」
「長時間配信されていらっしゃるので、首がお疲れかなと……良かったら使って下さい」
「早速これから使わせてもらうよ!」
「ええっ⁉」
「誕生日緊急配信だ! これで朝まで配信するよ!」
「が、頑張って下さい。無理はしないで……」
ダイヤモンドが自室に戻り、ゲーミングチェアに座る。もらったネックピローを早速使う。
(え、永遠の絆とか言ったら大げさかな? って、何考えてんのウチ……酔ってんのかな?)
ダイヤモンドが少し顔を赤らめながらも配信を始める。
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