第10話(3)足りない

「ふむ……」


「社長、この件ですが……」


 秘書が端末に表示させた情報をエメラルドに見せる。


「ああ、これね……」


「いかがいたしましょうか?」


「ちょっと待ってくれる?」


「はい……?」


「彼の意見を聞いてみないと……」


「彼……ですか?」


 秘書が首を傾げる。


「あ、ああ、いや、なんでもない……」


「そうですか……」


「とにかく検討する。もうちょっと保留で」


「かしこまりました」


「はあ……」


 エメラルドはテーブルに両肘をつき、両手を顔の前で組んでため息をつく。


                  ♢


「……」


「……ちゃん」


「………」


「トパーズ……」


「…………」


「トパーズちゃん!」


「あ、は、はい、なんですか、奥さん⁉」


 トパーズがラーメン屋の奥さんに尋ねる。


「いや、あそこのテーブル、片しといてちょうだい」


「ああ、はい……」


 トパーズが空いたテーブルに向かう。


「……うちの店以外にも結構バイトしてんだろう? 疲れてんじゃねえか?」


「いや、それとはまた別の理由だね……」


 大将の言葉に奥さんは首を振る。


「別の理由?」


「ああ、アタシには分かるよ……」


                  ♢


「ふむ、なかなかいい出来だ……」


 ダイヤモンドが暗い部屋でモニターを眺めながら満足気に頷く。


「~~~♪」


 端末が鳴る。ダイヤモンドがそれを手に取る。


「うん? ああ、前上げた動画にコメントが来ているのか……」


「『今回も最高でした!』」


「はいはい、どうもどうも……ハートマーク付けちゃおうかな~」


「~~~~♪」


「また来た、悪いけど、作業中だから通知切っておくかな……」


「『次のモンド&ネットの登場はいつですか?』」


「!」


「『大好きなので、楽しみに待っています!』」


「ふむ……これがどうしてなかなか好評なんだよね……」


 ダイヤモンドが顎に手を当てる。


                  ♢


「休講とは……ラッキーなのかね」


 アクアマリンが頭を掻きながら、道を歩く。


「マリン、お疲れ!」


 声をかけられ、アクアマリンが振り返る。楽器ケースを背負った女の子が立っている。


「! ああ、なんだ、テラか、お疲れ……」


「スタジオの予約時間までまだ時間あるのに、もう来ちゃったの?」


「講義が休みでな……」


「へえ~、それでどうする? 喫茶店で時間潰す?」


「いや、あそこのカラオケボックスで練習する」


「おお、気合入っているね~」


「今気合入れないでいつ入れんだよ」


「そういえばさ~あのハコのスタッフさんとこないだ会ってね」


「ああ……」


「あの男の子はもう参加しないの?だって」


「! い、いや、アイツはヘルプなわけだから……」


「結構良い感じだったよ~って言ってたよ、あの人わりと辛口なのにね」


「……そう、良いフィーリングだったんだよな……」


 先を行くテラには聞こえないほどの小声でアクアマリンが呟く。


                  ♢


「……どうかしたの?」


「え?」


 タクシーで移動中、女性マネージャーがアメジストに尋ねる。


「ラジオの収録中、時々どこか上の空だったから」


「そ、そうでしたか?」


「ええ」


「すみません、今後気をつけます」


「なにか悩み事?」


「え?」


「良ければ相談に乗るけど……」


「い、いえ、大丈夫です!」


「それなら良いのだけど……」


「いや、そんな……まさかね……」


 アメジストはマネージャーに聞こえないような声で胸を抑えながら呟く。


                  ♢


「!」


 サファイアがボールを足に収める。


「ふむ、今のはなかなか良いプレーでした……」


 サファイアが満足気に頷く。


「このあたりにしておきますか……」


 サファイアがロッカールームに戻り、シャワーを浴びて着替えを終え、外に出る。


「……次はチェスですね……しかし……」


 サファイアがチェス教室のあるビルを見上げる。


「こう言ってはなんですが、最近、手応えのある方がいらっしゃらないのですよね……」


 サファイアは端末を取り出す。


「……海外の方とは時間がなかなか合いませんし、eスポーツもまた同様ですね……」


 サファイアはため息をついて端末をしまう。


                  ♢


「う~ん、また授業で分からないところが増えてきた……」


 オパールが腕を組む。


「予習復習はちゃんとしているんだけどな……勉強の仕方が悪いのかな?」


 オパールが首を傾げる。


「やっぱりあれだね……」


 オパールが頷く。


「限界ってもんがあるよね……」


 オパールが首を捻る。


「でもなあ……声をかけたりしたら、また変に噂になっちゃうし……あ~!」


 オパールが自らの頭をくしゃくしゃにする。


「どうすれば良いの⁉」


 オパールが大きな声を上げる。

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