第10話(2)戻っただけ
トパーズが自らの椅子に座る。それを見て、エメラルドが声を発する。
「それでは……いただきます」
「いただきます」
エメラルドに続いて、左右両側に三人ずつ座った六人の妹たちが食前のあいさつをする。昼食以外、朝食と夕食はよほどのことが無い限りは、七姉妹揃って食事をすることがこの家のルールの一つである。七人はトパーズが用意した朝食をそれぞれ口に運ぶ。
「……美味しいわ」
「……どうもありがとう……」
「……」
「どうしたの、エメちゃん?」
「なんだか浮かない顔じゃないの?」
「そうかしら?」
「そうよ」
「気のせいよ」
「気のせい?」
「そう、元からこういう顔なのよ」
「そんなことはないでしょう」
エメラルドが苦笑する。
「いやねえ、冗談よ」
「……料理の準備は大変?」
「そんなことはないわ」
「そう?」
「そうよ、確かに人数はちょっと多いけどね」
トパーズが周りを見回す。
「やっぱり負担かなと思ってね……」
「洗い物だけそれぞれ自分たちでやってくれれば良いわ」
「そう……」
「そうよ、料理は好きだからね」
「それならば……」
「それならば?」
「特に問題はないと考えても良いのね?」
「ええ、そうよ。元に戻っただけでしょう?」
「それもそうね……ごちそうさま」
エメラルドが両手を軽く合わせる。
「食器ちゃんと下げておいてね」
「ええ……」
エメラルドが食器を手に台所に向かう。他の五人も食事を終え、それぞれ食器を持って、台所へと向かう。
「ああ、アメちゃん」
「なに?」
ダイヤモンドの声にアメジストが振り返る。
「今日はヒマ?」
「アニメとレギュラーのラジオ収録が一本ずつあるわ」
「へえ、結構忙しいね」
「……午後からだから昼から出ても十分間に合うけど」
「そうか、マリンは?」
「あん?」
ダイヤモンドから声をかけられ、アクアマリンが振り返る。
「ヒマだよね? うん、きっとそうだ、そうに違いない」
「決めつけんな、大学があるよ……」
「ええ?」
「いや、そんなに驚くことじゃねえだろ」
「もう卒業は諦めたのかと……」
「だから決めつけんな。留年にはならない程度に単位は取っているよ」
「ふ~ん……」
ダイヤモンドが腕を組む。
「なんだよ?」
「なんだかさ……」
「ああん?」
「ロックじゃないね、そういうの」
「ほっとけ!」
アクアマリンがその場を去ろうとする。ダイヤモンドが慌てて呼び止める。
「ああ、ちょっと待って!」
「なんだよ……」
「二人とも、ウチの部屋に来てくれる?」
「何のために?」
アメジストが首を傾げる。
「この間アップした動画がお陰様で好評でさ……カットしていた部分も再編集してアップしようと思うんだけど……そのチェックをしてくれないかなと」
「……別に良いけど」
「……随分、編集に時間がかかったんじゃねえか?」
「いや、まあね……」
アクアマリンの問いにダイヤモンドが後頭部を搔く。アクアマリンが重ねて問う。
「編集スタッフがいなくなったからか?」
「そ、それは別に関係ないよ……」
「……そうかよ」
「……さっさと済ませましょう」
アメジストが歩き出す。
「……あれ、サファちゃん?」
家を出たオパールの目に、靴ひもを結び直すサファイアの姿が映る。
「……なにか?」
「いや、今日もランニングしないんだなって思って……」
「たまには休息も必要です……」
靴ひもを結び直したサファイアが立ち上がる。
「それじゃあ、今日も一緒に登校しようよ」
「……良いですよ」
オパールとサファイアは並んで歩き出す。オパールが尋ねる。
「……立て続けに休みなんて珍しいんじゃない?」
「そうですか?」
「うん、ここんとこはほぼ毎日走っていたじゃん」
「そうでしたかね……」
サファイアが眼鏡のフレームを触りながら呟く。
「……やっぱりあれ?」
「……あれとは?」
「張り合いが無くなったから?」
「それは別に関係ありません」
サファイアが食い気味に答える。
「本当に?」
「本当ですとも」
「嘘じゃない?」
「嘘をついてどうなるのですか……」
「ふ~ん、そっか……皆と一緒だね」
「一緒?」
「うん、山田パイセンがいなくなったことをすっかり受け入れちゃっている……」
オパールは寂しげに呟く。サファイアが淡々と答える。
「受け入れるもなにも、ちょっと前の状況に戻っただけのことです……ほら、遅刻しますよ」
「うん……」
少し早足になったサファイアにオパールが続く。
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