第9話(3)こんなコラボ動画、まいっちゃいますよねー!

「……というわけで今日は結構な筋肉痛です」


 山田は自らの足をさする。


「そ、そう……」


「頭も使いました……」


 山田は自らの頭を軽く抑える。


「それは大変だったわね……」


「ええ、さすがのサファイアさんもヘトヘトなようです」


「オパール……あの子ったら、全く何を考えているのか……」


 山田の話を聞き、アメジストが頭を抱える。


「いや、サファイアもサファイアだろう……」


 アクアマリンが困惑した表情を浮かべる。


「……真面目過ぎるのよね、あの子は」


「真面目って言うか、融通が利かないっていうレベルだろ、それは」


 アメジストの言葉をアクアマリンが正す。


「……そうとも言うわね」


「そうだとしか言えねえよ」


「……いちいち突っかかってくるわね?」


「そうか? 気のせいだろ」


「いいえ、いつも以上にうざったいわ」


「うざったいって」


「何をそんなにイライラしているのよ?」


「……お前は何も思わねえのか?」


「え?」


「いきなりわけのわからない所に連れてこられて、待たされているこの状況をだよ」


 アクアマリンが大げさに両手を広げる。アメジストが冷静に答える。


「わけがわからなくはないわ。撮影スタジオでしょ。私も以前来たことがあるわ」


「まあ、それは言葉のあやだ。待たされているのはなんなんだよ?」


「それは彼女に聞いてみたら?」


「は~い♪ 呼んだ~?」


 ハイテンションのダイヤモンドが部屋に入ってくる。


「……呼んではねえが、聞きたいことがある。何をさせる気だ?」


「撮影スタジオだよ。撮影に決まっているじゃん♪」


 ダイヤモンドがアクアマリンに向かってウインクする。


「はあ⁉ き、聞いてねえぞ」


「言ってないからね」


 ダイヤモンドが悪びれずに即答する。アメジストが口を開く。


「たまには外で食事でも……と聞いたのだけど?」


「ああ、それは嘘」


 ダイヤモンドはまたも悪びれずに答える。アメジストが絶句する。


「う、嘘って……」


「まあ、撮影が終わったら、近くのレストランを予約してあるからさ、安心して」


「帰らせてもらうわ」


 アメジストが立ち上がって帰ろうとする。ダイヤモンドが慌てて止める。


「な、なんでよ?」


「撮影なんて聞いてないからよ」


「い、いや、今帰られると困るんだって!」


「そんなの知ったことじゃないわ」


「きょ、今日は大事なコラボ撮影の日なんだから!」


「コラボ?」


「そう、他の配信者さんと一緒に動画を撮影するの」


「勝手になさいよ」


 アメジストがなおも帰ろうとする。ダイヤモンドがさらに慌てて止める。


「いや、だから困るんだって!」


「何が困るのよ?」


「有名な配信者さんなんだよ、登録者数も数十万人の……」


「そんなの私には関係ないでしょう」


「それが関係あるんだって! 4人組だからこっちも4人で行きますって言っちゃったからさ……1人足りないってなると、色々と撮影の段取りが……」


「お前、合コンじゃねえんだからよ……」


 アクアマリンが呆れる。アメジストがため息交じりで話す。


「はあ……あのね、私は事務所所属の声優タレントなの? 事務所を通さず勝手に動画出演なんてしたら大事になるのよ。分かる?」


「うん、だからアメちゃんにはノーギャラだよ」


「はあ⁉ い、いや、そういう問題じゃなくて……」


「大丈夫、顔は出さないからさ。マリンちゃんも含めて」


「オ、オレもか⁉」


「これを見て!」


 ダイヤモンドがパソコンを見せる。画面には美少女キャラのアバターが2体映っている。


「……なんだこれは?」


「ふたりにはVTuberになってもらうよ」


「「はあっ⁉」」


 アクアマリンとアメジストが揃って声を上げる。


「名前は『アマリ』と『メジス』!」


「アマリって!」


「本名から取ったらバレるわよ!」


「まあまあ、そこは案外なんとかなるって~」


「ならないわよ!」


「今日だけお願い! 姉を助けると思って!」


 ダイヤモンドが両手を合わせて頭を下げる。アクアマリンたちがため息をつく。


「ったく、しょうがねぇなぁ……」


「まあ、これも経験かしらね……」


「ありがとう!」


 ダイヤモンドが笑顔を浮かべる。


「おはようございま~す」


「あ、おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」


 部屋に3人の太った男性と1人の痩せた男性が入ってくる。アメジストが首を傾げる。


「……どちらさま?」


「ちょっと、知らないの⁉ 『ボーイッシュCD局』の皆さんだよ!」


「し、知らないわ……知っている?」


 アメジストは山田に尋ねる。


「えっと……似ている方々は知っていますが……」


「パチモンじゃねえか?」


「ちょいちょいマリンちゃん! 失礼だよ! ボイD知らないの⁉」


「略されても分かんねえよ!」


「あの……」


「あ、すみません、御本人たちを前にして緊張しちゃってるみたいで……ははっ……」


 ダイヤモンドが笑いながらペコペコと頭を下げる。


「ああ、そうなんですか……」


「いつも漫画やアニメのパロディネタ楽しみにしています! 『男〇』ネタ最高でした!」


「『〇坂』のパロディって……私がこういうのもなんだけど、マイナーでしょう……」


 アメジストが目を細める。


「物真似も最高ですよね! 藤〇也さんの物真似爆笑です!」


「藤竜〇さん⁉ 藤〇竜也さんじゃなくて⁉ 渋いな!」


 山田が困惑する。男性の1人が頭を下げる。


「ありがとうございます……早速ですけど、撮影始めちゃいますか?」


「はい! 始めちゃいましょう! いや~楽しみだな~『兆候叩き』!」


「『気配斬り』じゃねえのかよ! やっぱパチモンじゃねえか!」


 アクアマリンの叫び声がスタジオ中に響く。

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