第9話(2)頑張れチェッカーズ

「オパール、ああいうのは困るな……」


 廊下を並んで歩く山田がオパールに話しかける。


「え?」


「皆には秘密にしているんだ」


「秘密って?」


 オパールが首を傾げる。


「俺が天翔家に居候していることだ……」


「ああ……でもさ、別に学校で声かけても良くない?」


「あまり親しくしていると余計な勘ぐりをされる。それに……声のかけ方が問題だ」


「ええ? なにかマズかった?」


「なにもあんなに注目を集めなくたっていいだろう」


「そんなに見られていた?」


「ああ、ジロジロとな」


「そっか~それは気が付かなかったな~」


 オパールは腕を組んで首を傾げる。


「君はなにかと目立つんだから、気を付けてくれ……」


「……」


 オパールがニヤニヤと山田を見つめる。


「なんだ?」


「ガーパイセンも人のこと言えないと思うんだけどな~」


「そうか?」


「うん、一年の女子の間でも話題だよ?」


「ふむ……」


 山田は鼻の頭をこする。


「あれ? パイセン、照れてる?」


「照れてない」


「いやいや、顔赤いよ~?」


「元からだ」


「そんなことはないでしょ?」


「ならば、高熱があるんだ」


「いや、それはヤバいっしょ。って、誤魔化すの下手過ぎ~ウケるんだけど~」


 オパールは腹を抱えてケラケラと笑う。


「とにかく……」


「ん?」


「用事がある時はRANEでもしてくれ。それならすぐにでも駆け付ける」


「! へへっ……」


「なにがおかしい?」


「いや、駆け付けてくれるんだと思ってさ……」


「そ、それは家政夫として当然の責務であって……」


「……イチャイチャしているところ、申し訳ないのですが……」


「うおっ⁉」


「うわっ⁉ ビックリした……」


 前からいきなりサファイアに声をかけられた山田とオパールは揃って驚く。


「なんですか、そのリアクションは……失礼ですね」


「ど、どうしたの、サファイアお姉ちゃん?」


「どうしたもなにも貴女が呼び出したのでしょう」


「あ、そうか」


「遅いから迎えにきました。行きましょう」


 サファイアが振り返って歩き出す。山田たちはその後に続き、ある場所に着く。


「……ここは?」


「ピロティーです」


「そ、それは分かりますが、何故ここに?」


「それはオパに聞いて下さい」


「実はサファイアお姉ちゃんにお願いがあってさ……」


「なんでしょうか?」


 オパールが両手を合わせてサファイアに頭を下げる。


「ボクにチェスとサッカーを教えて!」


「お断りします」


「即答⁉ な、なんでさ~」


「理由は色々ありますが……まず人に教えるにはまだまだ研鑽が足りません。それに……なんと言っても、時間が惜しいです」


「それ!」


 オパールがビシっとサファイアを指差す。サファイアがややビクッとなる。


「な、なんですか……?」


「その問題を一挙に解決する方法があるんだよ!」


「はい?」


「こちらをご覧あれ!」


「チェステーブルとサッカーボール……?」


「そう! ただ今からチェスとサッカーを組み合わせた全く新しい競技、『チェッカー』を行います!」


「帰ります」


「ま、待って、待って! 騙されたと思って一度やってみて!」


 オパールがサファイアを引き留める。サファイアがため息交じりに呟く。


「はあ……ルールは? 『チェスボクシング』のようなものですか?」


「チェスボクシング? なにそれ?」


「海外に実際にあるのですよ、チェスとボクシングを交互に行う競技が……」


「海外の人も随分とおかしなことを考えるね」


「貴女に言われたくはないでしょう」


「チェッカーは交互なんてことは言わないよ!」


「ということは?」


「チェスとサッカーを同時に行うんだ! とにかく二人とも位置について!」


「ええ、オパールはやらないのか⁉」


 山田が驚く。 


「ボクはルールを説明するから! さあ、早く!」


「はあ……」


 サファイアと山田が位置につく。オパールが説明を始める。


「まず先攻、サファイアお姉ちゃんがチェスの駒を動かす!」


「はい……」


「後攻のガ―パイセンがキックオフ! ゴールを狙えるよ!」


「い、いいのか⁉」


「遠慮しないで!」


「う、うむ……」


 山田がボールを無人のゴールに向けて転がす。オパールが声を上げる。


「サファイアお姉ちゃん、ゴールに入っちゃうよ!」


「くっ!」


 サファイアがダッシュして、ボールをカットし、ドリブルを始める。


「さあ、ゴールを狙えるよ!」


「そうはさせない!」


「パイセン、ダメだよ、何ディフェンスしてんの⁉ チェスをやらないと!」


「あ、ああ、そうか!」


 山田がディフェンスからチェステーブルに戻り、一手動かす。


「はい、お姉ちゃん、ドリブルストップ! チェスに戻って!」


「くっ、はい!」


「はい、パイセン、こぼれ球拾って!」


「い、忙しいな!」


「どう? 新感覚でしょ?」


「確かに今までなかった感覚ではあります……」


 笑顔を浮かべるオパールの前で、山田とサファイアが忙しなく動き回る。

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