第9話(4)オールディッシュ
「……ということがありまして……」
「へ~それで結局どうしたの?」
山田にトパーズが尋ねる。
「撮影はしましたよ」
「よ、良かったの? だってその……」
「パチモンでしたね。登録者数はそれなりに多くはあるようですが……そのまま帰らせるのも失礼だからということで、ほぼ予定通りに撮影はこなしました」
「そ、そうなの……」
「ダイもネットリテラシーがあるようで思いっきり不足しているね。そんなパチモンに引っかかるとは……」
エメラルドが呆れながら頬杖をつく。
「……『な~に、かえって良いネタになるさ』って言っていました」
「ま、前向きね……」
「転んでもタダでは起きん奴だな……」
トパーズとエメラルドが揃って苦笑する。
「撮影は結構体も動かしたので、アクアマリンさんもアメジストさんも今日は部屋でub休んでいます。ダイヤモンドさんは張り切って編集作業をしていますが」
「ふふっ、後でコーヒーを持っていってあげようかしら」
トパーズが微笑む。
「基本インドアのマリはともかくとして、ダンスなどをやっているアメもへばっているとは本当にハードだったようだね」
「まあ、ダンスや普通の運動とはちょっと異なる動きではありましたが……」
「アレだろ? 互いに目隠しをした状態で相手の気配を察して、ウレタン棒で相手を先に叩いた方が勝ちってゲームだろ?」
「ああ、それはわたしも見たことがあるわ」
トパーズが思い出したように頷く。
「違います」
「え?」
「違うの?」
山田の答えにエメラルドとトパーズが揃って首を傾げる。
「それは『気配斬り』ですね、全然違います」
「ぜ、全然違うの……」
エメラルドが戸惑う。
「今回、我々が行ったのは『兆候叩き』です」
「そ、それはどういうゲームなんだい?」
「まず互いにアイマスクなどで視界を遮ります」
「うん」
「そしてその状態で相手の動きに何らかの兆候がないかを探ります」
「ふむ……?」
「そして……兆候を掴んだら、手に持っているウレタン棒で相手を叩きます!」
「同じじゃないか!」
エメラルドが声を上げる。トパーズが戸惑い気味に呟く。
「聞いた感じだと、同じゲームのように思えるわね……」
「ゲームではありません、真剣勝負です!」
「ご、ごめんなさい……」
「謝るな、トパ。大体、何を感化されてんのさ、君も……」
山田に対し、エメラルドが呆れた視線を向ける。山田がハッとなって頭を下げる。
「す、すみません、つい興奮してしまって……」
「まったく……というか、Vtuberと生身の人間でそういうことを行ったの?」
「そうですね、他にも色々と……」
「なんかシュールな動画になりそうだね……まあ、最近ではそんなに珍しくもないか……」
「仕上がりが楽しみね」
「それよりもトパ、今日はなに? 例のアレか?」
「ああ、そう。二人には試食をしてもらいたいのよ」
「試食?」
山田が首を傾げる。
「ええ、お店に出す新メニューを試作しているの。お店の方に食べてもらう前に二人の意見を聞いておきたくて」
「……いつも思っているんだが……」
「何? エメちゃん?」
「新メニュー開発なんてただのアルバイトの範疇を超えていないか?」
「そうかしら?」
トパーズは首を傾げる。
「ああ、もっと時給アップしてもらった方が良いと思うぞ?」
「修行させてもらっているから良いのよ、それは」
「まあ……トパがそれで良いならそれで構わんが……」
「じゃあ、作るわね。ちょっと待ってて」
トパーズがウインクをして、席を立ち、キッチンに向かう。山田が尋ねる。
「……こういうことはよくあるんですか?」
「時たまね。いつもはアタシだけなんだが、君がいてくれて助かるよ」
「エメラルドさんだけなんですか? 他の皆さんは?」
「……オパはまだまだ子供舌。サファとアメは体重管理の関係でこういうのはパス。マリとダイは基本腹が膨れればなんでも良いってタイプだから……アタシしかいないのよ」
「な、なるほど……」
「まあ、一応これでも社長だし? 良いもの一杯食べていて舌は肥えている方だからね」
エメラルドが髪をかき上げる。
「ああ、なるほど」
「いや、そこは突っ込んでよ。なんだか嫌みっぽいじゃん……」
「は、はあ……」
「お待たせ~♪」
トパーズが料理を持ってくる。
「こ、これは……」
「パスタだよ~」
「え? てっきりラーメンかカレーかと……」
「イタ飯屋さんでもバイトしているから」
「そ、そうなんですか……」
「どうぞ召し上がれ~」
「……うん、良いんじゃないの」
「美味しいです。このソースが良い味出していますね」
「そう? 好評で良かった~」
「ごちそうさまでした……」
「それじゃあお次はカツ丼を……」
「え? ま、まだあるんですか?」
「まだまだあるよ? ハンバーガーにケバブ、トルティーヤにトムヤムクン……」
「なっ⁉ ト、トパーズさん、どれだけアルバイトしているんですか?」
「えっと……両手では数え切れないわね~」
「……一週間って七日ですよ?」
「? 知っているわよ?」
「トパはなんでも作れる料理人になりたいんだってさ」
「そう、そこに行けば何でも食べられるレストランを出すのが夢なの!」
「そこまでの需要が果たしてあるのかって疑問だけど……夢が大きいのは結構……ん⁉」
エメラルドが端末を見て驚く。トパーズが問う。
「どうしたの? エメちゃん?」
「秘書から連絡だ……」
「なにか会社に問題が?」
「いや、山田くんがこのビルに出入りしているのが文秋にバレた、いわゆる文秋砲だ……」
「ええっ⁉」
山田が驚く。
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