第7話(4)トパーズの目標
「ありがとうございました!」
「ふう……ようやく一息つけるな」
大将が席に腰かける。奥さんが声を上げる。
「トパーズちゃん!」
「は、はい!」
「トパーズちゃんのアイディア、大当たりよ!」
「ははっ……」
「ねえ、アンタ?」
「ああ、そうだな……」
「行列が出来るなんて久しぶりだわ」
奥さんが嬉しそうに話す。
「しかし……客層に合わせて細かく味つけを変えるなんて……良く考えついたな?」
「本当にね」
大将と奥さんが感心したような視線をトパーズに向ける。トパーズは慌てて手を振る。
「い、いや、違うんですよ」
「違うって?」
「このアイディアはこちらの山田くんが思い付いたものなんです!」
トパーズはカウンター席でラーメンを食べる山田を指し示す。
「へえ……」
奥さんは目を丸くする。
「なるほど、お前さんの入れ知恵か……ただの臨時バイトかと思っていたら坊主、若いのになかなかやるじゃねえか」
大将が山田に笑顔で話しかける。
「いえ、それほどではありません」
「おいおい謙遜なんかするなよ」
「それに……」
「うん?」
「アイディアを具体化させたトパーズさんと大将の確かな腕があればこその好結果です」
「おお、そうだな、良く分かっているじゃねえか」
大将は満足気に頷く。奥さんが呆れる。
「アンタも少しは謙遜しなさいよ」
「主ってのはドンと構えているもんなんだよ」
「はいはい……それにしてもトパーズちゃん?」
「はい?」
「この子は弟さんじゃないの? 住所一緒だったけど」
「ああはい……わけあってわたしたち七姉妹と一緒に暮らしているんです」
「親戚の子?」
「そういうわけでもないんですけど……」
「七姉妹と一つ屋根の下かい、羨ましいねえ」
「アンタはちょっと黙ってて」
奥さんが軽口を叩いた大将を睨む。
「お、おう……」
「ふむ……」
奥さんはトパーズと山田を交互に見比べる。
「な、なにか?」
「トパーズちゃん、良かったわね」
「え?」
「良い人見つかったじゃないの」
「ええっ⁉」
「ふふっ……」
「もう、奥さん! いやだ!」
「ぶわっ! 熱っ!」
トパーズに後頭部をどつかれた山田はどんぶりに顔面を突っ込んでしまう。
「そ、そんなんじゃないですから……」
「結構お似合いだと思うけどね~」
「いやいや、彼は高校生ですよ? 年の差ってものが……」
「アタシとこの人だってそれくらいだよ」
「ええっ⁉ 奥さん、姉さん女房だったんですか?」
「そうだよ、言ってなかったっけ?」
「初耳ですよ!」
「ああそう」
「でも全然そうは見えませんね~」
「若く見えるってことかい?」
「はい!」
「いやあ、なんだか照れるわね~」
「どういうきっかけで知り合ったんですか?」
「それはね、高校で……」
「え⁉ 教え子と生徒⁉」
「おい、もういいだろ、昔のことは……」
大将が恥ずかしそうに新聞を広げ、顔を隠す。
「……ごちそうさまでした」
顔を拭いた山田は静かに食事を終える。
「お疲れ様でした~」
「失礼します」
トパーズと山田が店を出て帰路につく。
「山田くん……」
「はい?」
「本当にありがとう」
「え?」
「山田くんのお陰でお店が持ち直したわ」
「いや、俺はあくまでアイディアを出しただけですから……大将さんと奥さん、そしてトパーズさんの尽力があればこそですよ」
「そのアイディアが大事なのよ」
「いやいや……」
「過度の謙遜は嫌味ととられちゃうわよ」
「はあ……」
「素直に受け取りなさい」
「はい……」
「あらためて……ありがとうね」
「ど、どういたしまして……」
「そう、それでよろしい」
トパーズが笑みを浮かべる。
「しかし……飲食店経営というのは大変ですね」
「そうね、お客さんが来たら来たで大わらわだし、贅沢な悩みだけど」
「嬉しい悲鳴とも言いますね」
「ふふっ、まさにそうね」
「……」
「……わたしね、将来自分のお店を持ちたいの」
「ああ、それはなんとなくうかがったことがあります」
「だから今は色んなお店で修行しているの」
「はあ……えっ⁉ ラーメン屋さん以外にもですか⁉」
「そう……実はお手伝いしているカレー屋さんが経営ピンチというわけじゃないけどマンネリ化で悩んでいて……スタッフ皆で新メニューの開発をしようと思っているのよ」
「は、はあ……」
「キッチンがカレー臭くなっちゃうのはあれだから……わたしの部屋でスパイス研究を手伝ってくれない? ちょうど明日が成果発表会だから、今夜一晩かけて……」
「ええっ⁉」
トパーズからの思いがけない申し出に山田はあっけに取られるのであった。
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