第8話(1)朝の異変
8
山田が長テーブルの短い辺に置かれた椅子に座る。彼の定位置としてすっかりお馴染みとなった。それを見て、エメラルドが声を発する。
「それでは……いただきます」
「いただきます」
山田と向かい合う場所の椅子に座ったエメラルドに続いて、左右両側に三人ずつ座った六人の妹たちが食前のあいさつをする。昼食以外、朝食と夕食はよほどのことが無い限りは、七姉妹揃って食事をすることがこの家の大事なルールの一つである。七人は山田が用意した朝食をそれぞれ口に運ぶ。
「うん、今日もとっても美味しいわね♪」
「ありがとうございます」
山田がトパーズに対して頭を下げる。
「……食事のメニューがまたちょっと違うようね? 特にトパの分……」
エメラルドがテーブルの上に並べられた料理を見比べながら山田に尋ねる。山田は頷きながら落ち着いて答える。
「新メニューを試してみようという話になりまして……」
「そういや何やら話が盛り上がっていたね?」
ダイヤモンドが尋ねる。トパーズが恐縮する。
「やだ、ダイちゃん、ひょっとしてうるさかった?」
「いや、別に隣だから聞こえただけだよ……」
「……ああ、トパのバイト先のお話?」
「そう、色々と相談に乗ってもらったのよ」
エメラルドの問いにトパーズが頷く。
「相談は捗ったの?」
「ええ、お陰様で」
トパーズが笑顔を浮かべる。
「それはなによりだわ」
「ありがとう」
「とはいえ……」
「ん?」
「夜通し部屋に二人きりっていうのは感心しないわね」
「い、いや、別に変なことはなかったわよ⁉」
「分かっているわよ、なにを慌てているの?」
「べ、別に……」
「……本当になにかあったの?」
「な、なにもないから!」
「ふふっ、冗談よ」
「まったく……」
「ねえ、オパ」
「なに? エメラルドお姉ちゃん?」
「良かったら久しぶりに勉強見てあげる?」
「いや、大丈夫だよ、間に合ってる」
「間に合っている?」
エメラルドが首を傾げる。
「うん、こないだの抜き打ちテストも良かったし」
「そう……サファ」
「はい」
「最近トレーニングはどうかしら?」
「順調、いや……」
「いや?」
「絶好調です」
「ぜっ、絶好調?」
「ええ、すこぶる」
サファイアが左手の親指をサムズアップする。
「そ、そう……アメ」
「なにかしら?」
「仕事の方はどうなの?」
「おかげさまで良い感じよ」
「そう……そういえばSNSで絡んでくるアンチに悩んでなかった? アタシの方で手を回しておく?」
「その辺は事務所がやってくれているから、ご心配なく」
アメジストが左手の手のひらをエメラルドに向ける。
「そ、そう……」
「それに……」
「それに?」
「つまらないアンチなどに気を取られている暇は無いわ。私は前を見据えているから」
「あ、そ、そうなの……マリ」
「……なんだよ?」
「最近曲の方はどうなの?」
「ああ、困っているよ」
「! あら、そう!」
「アイディアが次から次へと溢れて困っているよ」
アクアマリンは大げさに両手を広げる。
「あ、ああ、そう……」
「……なんかガッカリしてねえか?」
「そ、そんなことないわよ……ダイ」
「なに?」
「配信の方はどう?」
「ああ、盛況だよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「なにか困ってない? 案件回す?」
「いや、今のところは遠慮しておくよ」
ダイヤモンドが手を左右に振る。
「そう……トパ」
「悩みは解決したから大丈夫よ♪」
トパーズがウインクする。
「あ、そ、そう……」
「……そろそろ皆出かけなさいよ~」
「は~い」
トパーズの呼びかけにオパールたちが応え、それぞれ出かけていく。
「……さて、わたしも今日はちょっと早いから……」
「……」
「エメちゃん?」
「あ、ああ、分かった……」
「それじゃあ……」
トパーズも食器を手際よく片付けると、自分の部屋に向かう。
「……ふう」
「あの……」
ため息をついたエメラルドに山田が声をかける。エメラルドが驚く。
「うわっ⁉ な、なに? 忘れ物?」
「いえ、そういうわけではないですけど……」
「じゃあ何?」
「エメラルドさん……」
「うん?」
「……なにかお悩みないですか?」
「え?」
山田の問いかけにエメラルドが目を丸くする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます