第6話(3)試行錯誤
「い、いや……」
「もう前言撤回は出来ないよ! さあ~ナニをしてもらおうかな~?」
「何のイントネーションおかしくないですか⁉」
山田が慌てる。
「考え過ぎだって」
「そ、そうですか……」
「まあ、冗談はさておいて……なんとか手を打たないとならないわけだよ」
「は、はい……」
「その為に散歩に出てきたわけだ」
「気晴らしではなかったんですか?」
「半分はそれもあるけど、もう半分は違うよ」
「そうなんですか?」
「うん、ネタ探しの為だよ」
「ネタ探し?」
「そうだよ」
ダイヤモンドが頷く。
「はあ……」
「ネタは意外なところに転がっているものだからね!」
ダイヤモンドが大きく両手を広げる。
「ふむ……」
山田が近くの茂みを覗き込む。ダイヤモンドが苦笑する。
「い、いや、それはあくまで言葉のアヤだから……」
「『道端を覗いてみた』って動画はどうでしょうか?」
「いくらなんでも手当たり次第過ぎるよ!」
「『突き当たりまで歩いてみた』って動画は?」
「行き当たりばったり過ぎるよ! 突き当たったらどうするの⁉」
「その場合は“どちらにしようかな”で右か左を決めるとか……」
「それでなにか面白いことが起こるかどうか分からないでしょ!」
「ダメですか……」
山田は肩を落とす。
「こうして外に出ているのはあくまでも凝り固まった考えを変える為だからさ」
「考えを変える……」
「そう、基本的には屋内での撮影が主だから」
「基本的に……そうか!」
山田がポンと手を打つ。ダイヤモンドが問う。
「なにか閃いたの?」
「奇をてらうより、基本に立ち返るのが良いんじゃないでしょうか?」
「基本に立ち返る? 『歌ってみた』とか?」
「そうです」
「有名曲、ヒット曲は片っ端から歌っちゃったからな~」
「では、『踊ってみた』は?」
「それも同じだよ」
「それでは『演奏してみた』は?」
「楽器はあまり得意じゃないからな~上手い人と比べるとどうしても……」
「そうですか……」
「音楽系はバズる可能性は高いっちゃ高いけどね」
「ならば……」
「ならば?」
「考えを転換しましょう」
「転換?」
「ええ」
「例えば?」
「『作曲してみた』です」
「え⁉」
「いっそのことオリジナル曲を作っちゃいます」
「え、えっと……」
「上手くいけば大バズり間違いなしです」
山田が右手の親指をグッと突き立てる。
「上手くいけばでしょ⁉」
「頑張りましょう」
「頑張っても限界ってもんがあるから!」
「これもダメですか……」
「それでヒット曲が作れれば誰も苦労しないから」
「ううむ……」
「まあ、基本に立ち返るっていうのは良いかもしれないね」
「そうですか?」
「基本、基本か……」
ダイヤモンドが顎に手を当てて考える。
「……」
「衣食住……」
「え?」
「そう! 人間社会の基本! 衣食住にスポットを当てた動画よ!」
「具体的には?」
「家に戻るよ!」
「は、はい!」
家に戻ると、ダイヤモンドが大量の服を取り出してくる。
「こんなこともあろうかと買っておいたユニセックスな洋服の数々! 着てみてくれる?」
「え⁉ ダイヤモンドさんが着るんじゃないですか?」
「ウチは撮影するから! 安心して、顔は映さないようにするから!」
「は、はあ、分かりました……」
山田が次々とダイヤモンドが用意した服に着替え、カメラの前に立ってポーズを取る。ダイヤモンドが舌を巻く。
「結構奇抜な衣装もあったんだけど、見事に着こなしているね……」
「……これで終わりでしょうか?」
「ええ、衣はね!」
「衣は?」
「次は食!」
「食?」
「なんか良い感じの……それでいて新感覚なメニューを作ってくれる?」
「ず、随分な無茶ぶりですね……」
「ウチのファストフードをアレンジしたオリジナルメニューもネタ切れでね……」
「それってオリジナルメニューなんですか……? まあ、ちょっとお待ちください」
山田が見事な手際の良さで料理を何品か作る。ダイヤモンドが感心する。
「へえ……」
「冷蔵庫の余り物で作ってみました」
「いいよ、いいよ! こういうのを視聴者の皆さんは求めているから!」
「そ、そうなんですか?」
「最後は住だよ!」
「……DIYで家具を数点作ってみました……」
「早っ⁉」
山田の仕事の速さにダイヤモンドが驚く。山田が尋ねる。
「ど、どうでしょうか?」
「知っていたつもりだけど……君ってなかなかのハイスペックだね」
「あの……」
「早速動画を上げてみるよ……うん、良い反応だ! ああ⁉」
「ど、どうしたんですか?」
「ミスった……男の影をチラつかせたことでガチ恋勢からプチ炎上した……」
「ええっ⁉」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます