第6話(2)何でもする
「なに?」
視線に気づいたダイヤモンドが尋ねる。
「いや、大丈夫なのかと思ってな……」
「なにそれ、大丈夫だって」
ダイヤモンドが笑う。エメラルドが重ねて問う。
「本当に大丈夫か?」
「本当に大丈夫だよ」
「それなら良いが……」
「さてと……ウチもそろそろ出かけるわ」
「ええ⁉」
「な、なによ、トパ姉さん……」
ダイヤモンドが驚いた目でトパーズを見つめる。
「万年引きこもりのダイちゃんが外に出るなんて……!」
「万年ってそんな大げさな……」
「これは大変なことよ、エメちゃん!」
「大変じゃないって!」
「……どういうことだ? 大丈夫なんじゃなかったのか?」
「ちょっと外に出るくらいはするでしょうが」
「ロケのような動画撮影は面倒だから避けていたんじゃなかったのか?」
「あ、あいかわらず、妹の配信事情に結構詳しいね」
「なにかとおすすめに上がってくるからな」
「ああ、登録はしてくれているんだね……」
「基本的には室内で完結させるのが、動画配信者『ピンクダイヤモンド』のスタイルというかポリシーではなかったのか?」
「い、いや、勝手に決めつけないでよ!」
ダイヤモンドは声を上げる。
「む……」
「あ、ああ、大声を出してごめん……」
ダイヤモンドがエメラルドに頭を下げる。
「いや……」
「……そんじゃ、ちょっと行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「気をつけてな」
「うん」
「……大丈夫そうじゃないな」
ダイヤモンドの様子を見てエメラルドが呟く。
「どうやらそうみたいね……」
トパーズが心配そうに呟く。
「やはり手配しておくか……」
「え? ま、まさか……」
「ああ、そのまさかだ」
「そんな続けざまに効果あるかしら?」
「アクアマリンの例もある。一応な」
エメラルドが笑みを浮かべながら手元の端末を手際よく操作する。
「はあ~」
家を出たダイヤモンドが大きなため息をつく。
「どうかされたのですか?」
「うおっ⁉」
ダイヤモンドは後方から声をかけてきた山田に驚く。
「あ……」
「ビ、ビックリした……」
ダイヤモンドは胸を抑える。山田が頭を下げる。
「す、すみません……」
「い、いや、良いんだけどさ……えっと……」
「はい?」
「何の用? ってか、学校は?」
「学校は休みですよ。オパールさんたちは用事です」
「ああ……で何の用?」
ダイヤモンドが首を傾げる。
「いや、なんと言いますか、エメラルドさんから指示がありまして……」
「指示?」
「ダイヤモンドさんがなにか悩んでいらっしゃるそうなので、手助けをしてやれと……」
「悩み?」
「はい」
「ふっ、別に悩みなんかないよ」
ダイヤモンドが笑う。
「それにしては……」
「む?」
「大分大きなため息をついておられましたが?」
「あれは深呼吸だよ」
「では何故こうして外に?」
「広い家だけど、ずっとこもっていると気が滅入るでしょ? 気晴らしの散歩だよ」
「散歩……ですか」
「そうだよ」
「本当ですか?」
「え?」
「勝手ながらチャンネルの動画欄を拝見してみたところ……」
山田が端末を片手に呟く。
「な、なにさ……」
「自分の口からはなんとも申し上げにくいのですが……」
山田が口をつぐむ。
「……」
「………」
「…………」
「……………」
「いや、黙ってないでなんか言ってよ!」
「……良いのですか?」
「……良いよ」
「……わずかではありますが……」
「ありますが?」
「……動画再生回数が微減してきています」
「うわあー!」
ダイヤモンドが頭を抱えてしゃがみ込む。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないよ!」
「そ、そうですか……」
「う~ん……」
「し、しかし、あくまでも微減です……」
「減っていることには変わりないよ……」
「それはそうですが……」
「これは由々しき事態だよ……」
「あ、あの……」
「ん?」
「微力ではありますが……」
「うん?」
「なにかお手伝いすることが出来ることがあれば何でもお手伝いします」
「ん? 今、何でもするって言ったよね⁉」
ダイヤモンドが急に立ち上がって山田をビシっと指差す。山田はビクッとなる。
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