第6話(1)熱い音楽談義(意味深)
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山田が長テーブルの短い辺に置かれた椅子に座る。もはやすっかり彼の定位置となった。それを見て、エメラルドが声を発する。
「それでは……いただきます」
「いただきます」
山田と向かい合う場所の椅子に座ったエメラルドに続いて、左右両側に三人ずつ座った六人の妹たちが食前のあいさつをする。昼食以外、朝食と夕食はよほどの事情が無い限りは、七姉妹揃って食事をすることがこの家のルールの一つである。七人は山田が用意した朝食をそれぞれ口に運ぶ。
「うん、今日もとっても美味しいわ♪」
「ほんと、そうだね~」
トパーズが自身の頬を抑え、ダイヤモンドがそれに同意する。
「……食事のメニューがまたちょっと違うようね? 特にマリの分……」
エメラルドがテーブルの上に並べられた料理を見比べながら山田に尋ねる。山田は頷きながら答える。
「アクアマリンさんのお祝いです。昨日の晩は皆さん揃って食事が出来なかったので……」
「それはまた……何のお祝いよ?」
「レコード会社からお話があったということなので……」
「へえ、そうなの、マリ?」
「い、いや、まだデビューとかそういう話じゃねえよ。ってか、俺より先に言うなよ!」
アクアマリンが山田に注意する。
「あ、す、すみません……!」
山田が慌てて頭を下げる。アクアマリンが頭をポリポリと掻く。
「ったく、しょうがねえなあ……」
「マリン、顔が思いっきりにやけているよ」
「え?」
「それは元々の顔つきでしょう」
「あ、それもそうか」
アメジストの言葉にダイヤモンドが頷く。
「ちょ、ちょっと待て、お前らなあ……」
アクアマリンがムッとする。トパーズが声をかける。
「すごいわ。お声がかかったのね?」
「ああ、まあな」
「良かったじゃない!」
「ああ……」
トパーズの言葉にアクアマリンが笑みを浮かべる。
「ようやくスタートラインに立ったというだけでしょう。騒ぐことじゃないわ」
「……そうだな。お前の言う通りだ」
「……あら?」
アメジストが首を傾げる。
「なんだよ?」
「いや……てっきり『水を差すんじゃねえよ!』とか言うかと思ったのに……」
「お前はオレを怒らせたいのか?」
「浮かれていないのならそれはそれで結構……」
アメジストがコーヒーを口に運ぶ。
「けっ……」
「……一歩前進ですね」
サファイアが口を開く。アクアマリンが苦笑する。
「一歩か……」
「ですが、極めて大きな一歩です」
「!」
「ちょっと待って、サファイアが珍しく良いこと言ったよ⁉」
「……ダイヤモンド姉さん、自分のことをなんだと思っているのですか?」
「まあまあ、それよりマリン、どう? ウチの配信でも宣伝しちゃう?」
「お断りする」
「なんでよ?」
「他人の力は出来るだけ借りたくねえからだ」
「コネというか、SNSを活用すると思えば良いじゃん」
「SNSくらいやっているよ。ダイヤは配信のネタが欲しいんだろう?」
「うっ、バレたか……」
「バレバレなんだよ」
アクアマリンが笑う。
「……まあ、とにかくおめでとう」
「ありがとう、エメ姉」
「で、デビューはいつ?」
「……オパ、今までの話を聞いていたか?」
「へ?」
「まだ具体的な話はなにも決まってねえよ」
「え~なんだ~」
「なんだ~じゃねえよ。これでも結構大きなことなんだからな。ヤマが動いたって感じだ」
「山は動かないでしょ」
「……お前、それでよく今の高校入れたな」
「冗談だって」
オパールが笑みを浮かべる。トパーズが話し出す。
「アメちゃん、わたしのバイトしているお店にバンドメンバーみんなできてくれたら、割引サービスしてもらうように店長さんに頼んでおくわね」
「いや、気持ちはありがてえけど、ちゃんと定価で払うよ」
「ええ~なんで?」
「なんでって……まだデビューも決まったわけじゃないからな」
「そっか~」
「そうなんだよ、ここでしっかりと気を引き締めねえと……ふぁ~あ」
アクアマリンがあくびをする。ダイヤモンドが笑う。
「いやいや、言っているそばから大あくびかましているじゃん? 何? やっぱり興奮で眠れなかった感じ~?」
「い、いや、これはいつものことだろう、オレは夜型なんだから……」
「そうかな~?」
「そ、そうだよ……」
「……昨日は山田パイセンと朝まで二人で音楽談義、大変そうだったね」
「「「「「!」」」」」
「い、いきなり、な、何を言うんだよ! オパ!」
「上の階から聞こえてくるもので……あれ、音楽談義じゃなかった?」
「い、いや、ガーネット、もとい、山田との熱い音楽談義だよ、そう、あれはあくまでも音楽談義! それ以上でもそれ以下でもねえ! なあ⁉」
アクアマリンが山田に同意を求める。
「は、はい……」
山田が頷く。
「熱い……」
「意味深ね……」
「ふ~ん……」
サファイアとアメジストがボソッと呟き、ダイヤモンドがニヤニヤとした顔で見つめる。
「あ~もうこんな時間だ! ごちそうさま! 今日も俺は忙しいんだ! 皆も出かけろよ! ほれ、オパ! 遅れるぞ!」
「は~い」
皆がそれぞれ出ていく。トパーズがエメラルドに尋ねる。
「う~ん、それじゃあ、この問題もとりあえずはおいておきましょうか。それで良いわよねエメちゃん?」
「そうだな……」
エメラルドが食後のお茶をすすりながら答える。視線はダイヤモンドの方を向いている。
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