第5話(3)助っ人
「昨日からしんどかったみたいだけど、今日になってから高熱が出たんだって……」
「マジかよ……」
「39℃あるってさ」
「おいおい……」
アクアマリンが頭を抱える。
「本人は這ってでもくるって言っているけど……」
「……いいよ」
「え?」
「無理すんなって言っておいてくれ」
アクアマリンがライブハウスに入ろうとする。
「ど、どうするの?」
「そりゃあ、三人でやるしかねえだろう」
「さ、三人で?」
「今からじゃヘルプを頼んだって間に合わねえだろう」
「ど、どうするの?」
「どうするもなにも、テラ、お前はベースだろう」
「う、うん」
「で、ランドがドラム」
アクアマリンが側に立つ長身の女性を指差す。長身の女性が無言で頷く。
「……」
「で、ギター兼ボーカルがオレだ」
アクアマリンが自身を指し示す。
「だ、大丈夫なの?」
「スカイほどじゃねえけど、オレだってそれなりに弾けるのは知っているだろう?」
「そ、そうだけど……」
「なんだよ?」
「大変じゃない?」
「スカイのパートを削ったら、音の厚みが極端に薄くなるからな、仕方ねえ」
「ぶっつけになるわよ?」
「いやいや、何のためのリハーサルだよ。なんとかなるさ」
「そ、そうかな……?」
アクアマリンたちがライブハウスに入る。そしてリハーサルに臨む。
「……『ブランニューパレット』です、よろしくお願いします」
「あれ? 今日は三人?」
「ギターは病欠でして……でも大丈夫です!」
「ああそう、じゃあお願い」
「はい……!」
アクアマリンたちが演奏を始める。しかし、どこかぎこちない。ライブハウスのスタッフたちが首を傾げる。そんな中、一曲目が終わる。
「……はい。じゃあ次……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
テラが声を上げ、アクアマリンの下に駆け寄る。
「どうしたんだよ?」
「やっぱり無理があるって!」
「え?」
「マリン、慣れてないから、パフォーマンスが全然だよ!」
「は、はっきりと言うな……」
「それに……」
「それに?」
「焦っているの?」
「あん?」
「ギターが走っているよ。アタシとランドがついていけない!」
「!」
「やっぱり従来のパートで……」
「それじゃあ音の厚みが足りねえよ」
「今日はしょうがないでしょう」
「今日は特に大事なライブだぞ⁉」
「それは分かっているけど……」
「あの~時間が押しているからさ~」
「あ、す、すみません……」
スタッフの言葉にテラが頭を下げる。
「いつものパートに戻すの? 音響関係もあるから早く決めて」
「は、はい、えっと……良いよね、マリン?」
「ちっ……」
「それじゃあ、すみません……」
「ちょっと待って下さい!」
「⁉」
ギターを持った山田がステージに上がる。
「俺がギターをやります」
「は?」
「良いですよね、アクアマリンさん?」
「い、いや、お前、ギターどっから持ってきた⁉」
「近所の楽器店で買ってきました」
「金は?」
「エメラルドさんが前もって振り込んでくれましたんで……」
「そ、そうか……」
「それじゃあ……」
「ちょ、ちょっと待て!」
「え?」
「ギター経験は?」
「文化祭の助っ人で何度か……」
「そうか、確かに様にはなっているが……」
「では……」
「いや、それなら大丈夫だなとはならねえよ!」
「そうですか?」
「そうだよ! 曲も知らねえだろう?」
「あ、ダイヤモンドさんにCDを貰ったので……」
「ダイの奴……」
「一通り耳コピは出来てます」
「あん? 耳コピだあ? 文化祭レベルの奴が何を……」
「……どうするの?」
スタッフが尋ねてくる。アクアマリンは頭を掻きむしってから呟く。
「いねえよりはマシか……」
「それで?」
「こいつがギターに入ります。四人編成でお願いします!」
リハーサルが再開する。そして……。
「わああ……!」
「ブランニューパレットでした! ありがとうございました!」
「わあああ……!」
山田を加えたアクアマリンのバンドはこの日一番の声援を受けたのだった。
「はあ……はあ……」
「お疲れのところ、失礼します……」
「?」
「わたくし、こういう者です」
スーツ姿の女性がアクアマリンに名刺を渡す。名刺を見たアクアマリンが驚く。
「AMIレコードの……⁉」
「今夜のパフォーマンスに大変感銘を受けました……」
「⁉」
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