第4話(4)アメジストの成果
「……ただいま」
「あ、アメジストさん、お帰りなさい」
一階の掃除をしていた山田がアメジストを迎える。
「やったわ!」
アメジストがガッツポーズを取る。山田が首を傾げる。
「え?」
「この間受けたオーディションの結果が出たのよ!」
「ああ……やったということは?」
「ええ、狙っていた本命の少年役をゲットしたわ!」
「本当ですか?」
「本当よ!」
「それはおめでとうございます!」
「ふふっ、どうもありがとう……」
「これはお祝いですね! ちょっと上のリビングでお待ちになっていてください!」
「え?」
アメジストは戸惑いながらリビングに上がりソファーに座る。しばらくすると……。
「この度はおめでとうございます!」
「え、ええっ⁉」
山田がバラの花束を差し出す。
「お花屋さんがまだ空いていて良かったです!」
「お、大げさ過ぎないかしら……?」
「そうですか?」
「そうよ、一つの役に決まっただけよ……」
「でも、アメジストさんにとってひとつのターニングポイントになるんじゃないですか?」
「!」
「少年役はこれまで演じられたことがないんですよね。今まで、ツンデレな女の子か高飛車な悪役令嬢がほとんどだったって……」
「く、詳しいわね……」
「〇ィキペディアで見ました」
「ああ、そう……」
「役柄の幅を広げるのも今年の目標の一つだったって……」
「そ、そんなことまでウィ〇に書いてあるの?」
「いえ、これはSNSの方で……」
「ああ……」
「各SNSもフォローさせてもらっています!」
「えっ⁉」
アメジストが声を上げる。
「あ……気持ち悪かったですかね、勝手にすみません、フォロー解除します……」
山田が端末を取り出して操作を始める。
「い、いや、いいわよ、そのままで!」
「良いんですか?」
「ええ、フォローしてくれてありがとう……」
「毎日こまめに更新されていますよね」
「情報発信は人気商売の基本だからね……」
アメジストは髪をかきあげる。
「なるほど……」
「綺麗なお花どうもありがとう、部屋に飾らせてもらうわ……」
アメジストがソファーを立とうとする。山田がそれを制止する。
「あ、もうちょっとだけお待ちいただけますか?」
「なによ?」
「お願いします、もうちょっとだけ……」
「仕方がないわね……」
アメジストがソファーに座り直す。
「すみません!」
山田が台所の方に向かう。
「なんなのよ……」
それからしばらくして……。
「……お待たせしました!」
「本当に待ったわよ、読みかけのライトノベル読み終わっちゃったわ……って、ええっ⁉」
アメジストが再び驚く。山田が小さいケーキを持ってきたからだ。
「すみません、ちょっと時間がかかりましたね……」
「え……こ、これ、作ったの?」
「はい、手作りの方がより気持ちが伝わるかなと思って……」
山田はケーキを指し示す。ケーキの上には『おめでとうございます』と書かれたメッセージボードが乗っている。
「……」
アメジストがケーキを黙って見つめる。山田がハッとなる。
「あ、こういう時間に甘いものは厳禁でしたよね! す、すみません!」
「いいえ……」
「え?」
「頂くわ」
「い、良いんですか?」
「まあ、たまにはね……」
アメジストがフォークでケーキを口に運ぶ。
「ど、どうでしょう……?」
「うん、おいしいわ」
「あ、ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらの方よ……」
「はい?」
「前も言ったけど、あなたのライブでのパフォーマンスを見て、迷いが吹っ切れたのよ」
「そ、そうなんですか……」
「そう……自分で言うのもなんだけど、殻が破れたというのかしら……」
「殻が破れた……」
「ええ、だからオーディションでも思い切ったお芝居が出来たわ。その時の自分が出せる精一杯の演技がね」
「こ、細かいことはよく分かりませんが、それは良かったです……」
「こういうことを見越して、エメ姉さんはあなたを寄越したのかしら……? いいえ、単に面白がっていただけでしょうね……」
アメジストが呟く。山田が首を傾げる。
「あ、あの……?」
「なんでもないわ、こちらの話よ」
アメジストが首を振る。
「は、はあ……」
「……ごちそうさま、美味しかったわ」
アメジストがソファーから立ち上がる。山田が頭を下げる。
「お休みなさい……」
「まだ寝ないわよ」
「あ、そうですか……!」
山田の胸にアメジストが一冊の本をグイっと押し付ける。
「このライトノベルが今度アニメ化するの。私が今回受かったオーディション」
「あ、はい、そうなんですか……」
アメジストが顔を赤らめながら呟く。
「よ、読み合わせに付き合ってもらえるかしら? 一人だとイメージが掴めないところがあるから……」
「お、俺で良ければ……」
「そ、そう、じゃあ、私の部屋に来て。今夜は寝かさないわよ」
「ええっ⁉」
山田は恥ずかしそうに歩いていくアメジストの背中をびっくりした顔で見つめる。
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