英雄学園の英雄殺し

はめつ。

プロローグ

それはかつて、世界一の魔剣士の言葉であり、

男にとっての先導者からの言葉。


「ねぇグラン? 素晴らしい才能ほど、その扱い方は難しく、大きなリスクを伴うんだ。君は殺す為の剣でなく、守り導く剣を歩むんだよ? それが英雄への近道なのだから」


世界一の英雄がまだ幼い彼にそう告げて、七年の月日は流れる。


0【稀代の英雄】


そのコロシアムでは今まさに、稀代の英雄と呼ばれし二名の魔剣士が、衝突を向かえようとしていた。


《さァ! 今年の中等部統一大会もいよいよ最終日の個人戦決勝を迎えようとしております! 昨日の団体戦は手に汗握る死闘の末、エルガイア王国が誇る魔剣士学園、【ガイア】の勝利という形で幕を閉じましたが! 個人戦ではどちらが今年の覇者に輝くのかッ! もう躍動と手汗が止まらないッッ!》


まさに今、アリア王国の首都『ベルン』で行われるのは、世界列強八大国よる各予選を勝ち上がった十五歳までの魔剣士学院中等部生による八大国統一大会、通称【大国際】

大会最終日も会場は多いに盛り上がり、間もなく個人戦の決勝が行われようとしていた。

闘技場の中心にて向かい合うのは、二名の若き騎士。

両者が纏う覇気と覇気が衝突し合い、肌がピリつく風は、観客席にまで届く。


《ガイア学園代表ッッッッッッ! グラン・アルデラだぁッ! 》


司会の呼び声と共に、全身を漆黒のベールに包んだその男は剣を静かに抜いた。その笑みには何処か笑顔さえ浮かべている。


《そして、ハインリーネ王国を代表するのは勿論彼女……オリビア学院中等部代表ッッ!》


会場全体の歓声の嵐は、先程より確実に増していたが、そんな重圧を大きな笑みで受け止めるのは一人の少女。彼女は高く大きく広げた左を掲げ、握りしめた。


《セツナ・ハインリーネ第一王女様だァッッッッッッッッッッッッッ!》


盛り上がり過ぎだろ、と自身の時より上回る歓声に男はため息を吐く。


「流石にちょ〜っとこれは盛り上がり過ぎてるよね……? 君もそう思わない?」


全身に白を纏い、長い銀髪を靡かせた少女はにっこりと微笑みながら大剣を抜いた。

彼女こそがハインリーネ王国の時期王女であり、英雄の血をを受け継ぐ一人の逸材。その異名は【怪物王女】と呼ばれ、彼女の麗しく可憐な容姿にはとても似合わない名だった。


「数分後、直ぐにこの歓声は静まり返りますよ」


「いいねいいねぇ! 私もはなから手を抜く気はないけど! なんかますます火がついちゃうよ!」


その言葉を最後に、闘技場のあらゆる空気が消え去り、殺意という禍々しく尖った空気へと移り変わる。

もう戦場に微笑みは要らないと言うように。それを感じ取る司会者も、大きく唾を飲み込んだ。


《決勝戦ッッ!! 開始だァァッッッッッッァ!!》

会場正面の大きな鐘の音は、王都全域に響き渡り、二人の魔剣士は強く地を蹴った。

三十メートルはある間合いを一瞬で詰め、愛剣を振りかざす。

その激しいぶつかり合いは、凄まじい波動を呼び、砂嵐が沸き起こしていた。

互いが互いの首を狙い、寸前で回避し、後退し、また衝突する。そんな魔力なしの剣術対決は誰が見ても両者互角の腕だ。

お互いにそれを察しているのか、先に後ずさったのは銀髪の少女の方だった。

彼女はその身に纏う魔力の覇気を剣に集中させている。


「……雷帝よ、穿け━━━━━━━━━━━!」


彼女の背後に生成された無数の光の槍は、グランの胸を目掛けて放たれる。

男は一瞬の判断で後方に跳躍し、その頬スレスレを稲妻の如き槍が通過する。


「……ぶねッ」


男は体勢を崩しかけたが、直ぐに立て直し後退、ではなく、着地と同時に走り出していた


《これは凄いぞ〜ッッ! 光の速度で向かってく

る稲妻の如き槍を、全て交わし切ったと思えば、直ぐに距離を詰め、勝負を仕掛ける気だぁッ!》


会場の大歓声は相変わらず騒がしいが、今の少年と少女には聞こえるはずもなく、ましてや互いのスピードが一段階加速したようにも見えた。

再びゼロ距離の所まで近づき、魔力なしの剣術対決の再開、より踏み込んでいるのは黒髪の少年のようだ。


「ハッァァァッッッッッッッッッッッッ!」


助走が長い分、男の一撃は凄まじく大きく、受け止めた少女は後方へ吹き飛んでいく。

少女も大剣は向け、大きな声で雄叫びを挙げる。


「鐫てッ、電流咆哮ッッ━━━━━!」


三匹の稲妻の龍が放たれ、男を貫いた。

誰もがそう確信した刹那、突如稲妻が全て消失した。少女は目の前で起きた事象を理解する事が出来ず、空いた左手で頬を拭う。


「 ……光を斬った!?」


懇親の一撃が消失し、驚きを隠せない彼女の腹部に、もうグランの拳が突き刺さっていた。


「……斬ったんじゃない。消し去ったんだ━━」


剣で剣を弾き、空いた腹部のど真ん中を左拳が射抜いた。


「アァッッッッッッ━━━━━━━━━!!」


初めて悲鳴をあげた少女は地面を転げフラフラと立ち上がる。

男も無傷ではない。高速で向かってくる光の粒を剣で弾き、その反動は体を吹き飛ばし服を焦がした。

一瞬で目前に迫る稲妻を剣で消し去る。少しでも剣を振りかざす距離感を誤れば大ダメージを負い直ぐに意識を失ったいただろう。

両者とも身体はボロボロにまで追い込まれ、気力でその場に立っている。そんな熱い闘いを前に、会場も最後のギアを上げた。


「行けぇぇぇッッ!! セツナ様ァァァ!!」


「帝国の騎士を倒せぇえッッッッッ!」


そんな大衆を一掃するべく、彼女はその身の剣を高く振り上げた、自身の覇気を降り注いで。

彼女を纏う稲妻は、会場全体を包み疾風を轟かせる。


「終わらせよう、グラン・アルデラ。こんな楽しい闘いは、きっと長い人生で余り多くはないだろうけどね……だからこそ今、私が勝って終わらせることに意味があるんだッ!」


そして男も剣を大きく振りが被る。


「……消し去ります。その稲妻ごと、この黒き炎でッ!」


禍々しい漆黒の炎が、不気味に男を包んだ。

稲妻の光が貫くか、漆黒の闇が飲み飲むか。

会場の上階からは、長い艶がある金髪をハーフアップにした少女がその死闘を真剣な眼差しで眺めていた。


「……………………………………………………」


もはや学生同士の決闘ではない。いわばそれは、戦場で命を懸けた魔剣士同士の闘い。

白く輝く稲妻と、漆黒の炎は凄まじい音を立てて衝突した。

砂煙と煙幕によって決闘の行方は不明だが、意外にも早く最後は決着が着いたようだった。

煙の中から現れたのは、銀髪の髪を靡かせて、笑顔で剣を振り上げる少女だった。

陽の光が勝者を照らし、代57回、八大国統一大会は幕を閉じた。


「……優勝は、セツナ・ハインリーネだぁッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!」


解説の怒号と共に、観衆はそれを数百倍にした声を上げ、試合は幕を閉じる。

そして気を失う少年は、直ぐにドクター室へと運ばれていく。

それを静かに見送るセツナは、自身もふらふらと今にも倒れそうな身体のまま、彼に一礼を捧げる。

そして誰にも聞こえない小さな声で呟いた。


「……誇り高き騎士よ、また何処かで。必ず」


勝者は最後、観衆に向かい大きく拳を振り、大きく微笑みを浮かべて退場していった。

願わくば、自信に一撃を入れた誇り高き魔剣士と、また巡り会う事を祈って。


















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英雄学園の英雄殺し はめつ。 @Limrim

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