第拾陸話 キスをされる男とする女とやはりする女
「あがりっ」
「むぅ」
これで3連敗。私は思わず頬を膨らます。コーセーくんが苦笑いした。
「ヒマリ、
「知らないよ。っていうか、しれっとコーセーくんが連勝してるのがムカつく。どうしたらそんなに勝てるの?」
「普通にやってるだけなんだけどなぁ」
コーセーくんは頭を
「
「相手の行動を予測しながら」か。なるほど、コーセーくんらしい。よし、私もコーセーくんみたいな優男ならぬ優女になろう。お昼には紅茶を
「……ヒマリ。何考えてるか分からないけど、多分無理だと思うわよ」
「ひどい! 私だって頑張ればコーセーくんみたいな人になれるもん。ねっ、コーセーくん?」
「いやー……」
「コーセーくん!?」
私は手に持ったカードを机上に落とし
「もう少し人の目を気にしたほうがいいのかな……」
「でも、最近じゃあ、人の目を気にせざるをえないことも増えてきたんじゃないの?」
「そりゃそうよ。なんたって学校中の注目の的なんだもの。ね、生徒会長?」
私は大きくため息をついた。夏休みが終わりちょうど一週間が経つが、この一週間は本当に
あの大阪旅行の後、私はすぐにお姉ちゃんの自殺の真相を学校に報告した。その結果、遠藤さんとその周辺人物は謹慎処分などの措置を受け、校長や担任はいじめに気づけなかったことを記者会見で謝罪した。校長は辞職し、お姉ちゃんのクラスには新しい担任がやって来た。
事態はそれだけに収まらなかった。同じクラスにいながらいじめに気づくことが出来なかったことに責任を感じた藤原先輩が、後期生徒会長選挙の出馬を辞退したのだ。代わりに副生徒会長で藤原先輩のいわゆる懐刀である宮田先輩が出馬するかと思われたが、「僕は会長のサポート役だった。会長に問題があるということは僕にも問題があることだ」という殊勝なコメントを残し、彼も出馬を辞退した。結果、繰上げ式で私が生徒会長に立候補することになったのだ。
先日、遠藤さんのいじめを告発し、姉の敵を討った1年生の女子生徒が、今度は生徒会長に立候補するということで、学校中で大きな話題となった。アカネちゃん曰く、裏では「小さきジャンヌ・ダルク」などと大層な名前で呼ばれていたらしい。選挙の結果、満票一致で私が生徒会長に相成った。1年生の生徒会長は実に50年ぶりらしい。
「こんなに人気者になったんだし、友達の一人ぐらい出来たんじゃないの?」
アカネちゃんの問いに対し、私は机に
「それが、生徒会長になったことで、皆がより私を敬遠するようになっちゃって。最近では『島崎さん』じゃなくて『会長さん』って呼ばれることも増えてきて、皆との距離が深まる一方で……」
私は机に突っ伏した。アカネちゃんが私の頭を
「『会長さん』なんて呼ばれちゃ、畏まるのも無理ないわよね。それにしても、人に気を遣いすぎるのも考えものね」
私は机に突っ伏しながら低く
私はむくりと起き上がった。そして頬をパチンと叩いた。よし、友達は諦めよう。
「もう、いいや。私にはアカネちゃんとコーセーくんがいるし」
開き直った私を見て、コーセーくんが
「そんなこと言ってるようだと、ますます友達できないんじゃないか?」
「いいの。二人が卒業するまでぼっちにはならずに済むし。それに二人のこと、大好きだし」
私が笑ってピースサインを見せると、アカネちゃんがやれやれといった表情で私を見た。
「ほんと、厄介な妹を持ったわね」
「だね」
アカネちゃんとコーセーくんは見つめ合って笑った。
「ところで、デートはどこ行ったの?」
「福井よ。なかなかいい所だったわ。東尋坊に恐竜博物館、海の幸も美味しかったし」
「アカネは海の幸ばっかり楽しんでたけどね」
「そうだっけ?」
とぼけるアカネちゃんを見てコーセーくんはクスッと笑った。つられてアカネちゃんも笑う。
「楽しそうだね。いいなぁ。私も彼氏がいたらなぁ」
「
「勝算がないからってテキトーなこと言ってるでしょ。ふんだ、彼氏作ってアカネちゃんを恥ずかしい目にあわせてやる」
「案外、来年ぐらいには出来てるかもよ」
コーセーくんがそう言うと、アカネちゃんが手をヒラヒラと振って否定した。くそー、絶対いつか後悔させてやるんだから。
「……ところでアカネちゃん、キスとかしたの?」
私が意地悪い顔で
「忘れてた」
「だね」
私は呆れた顔で二人を見る。
「裸は見せ合ったのに、どうしてキスは済ませてないの?」
「裸を見せ合うことになったのは誰のせいだ」
「誰のせいよ」
「私のせいだね」
あれ以来、私の貞操観念はかなり緩くなってしまった。コーセーくんが同じ部屋にいても平気で着替えるし、
「でも、キスぐらいはした方がいいよ。こういうのはさ、男性側がリードするんじゃないの?」
私がニヤニヤしながら言うと、コーセーくんは平然と答えた。
「いや、僕はアカネがしたいって言うのを待つよ。どうやらそれが僕のスタイルみたいだから。ね、アカネ?」
「ええ、私がしたいって言ったらいつでもさせてね、彼氏さん」
私は不満顔を見せた。ちぇ、つまんないの。私が子供みたいに膨れていると、アカネちゃんが「しょうがないなぁ」という顔をして、席から身を乗り出した。
「コーセー、いい?」
コーセーくんが微笑み了承する。二人の顔が近づき、遂に唇が重なった。数秒間、ファーストキスを
「特別大サービスよ」
私は口をあんぐりと開け、二人の
「こういうとこは、やっぱり
「いつもがマセてるだけよ」
からかう二人に対抗するように私も身を乗り出す。コーセーくんは困惑したような様子で拒んだ。
「ちょ、ヒマリ!? 何するつもり!?」
「何って、キスだよ。私はマセてるわけじゃないんだから。キスぐらい平気でするもん」
「人の彼氏のセカンドキスを奪わないでくれる……」
「えー。いいじゃん、セカンドキスぐらい」
「よくないわよ」
仕方ない。これくらいで我慢してやるか。私は人差し指を自分の唇に当てると、今度はコーセーくんの唇に押し付けた。
「私の暫定ファーストキス。責任とって、彼氏ができるまで仲良くしてちょうだいね」
コーセーくんはアカネちゃんと顔を見合わせ、声を上げて笑った。
「こりゃあ、とんだ妹を持ったもんだなぁ」
「ほんとね」
夕暮れ迫る教室で、私たちは笑いあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます