第6話 ヒーロー
「ヒーローって、あのヒーローですか?」
ヒマリは目を丸くして言った。ヒーローといえば、弱きを助け強きを
「あれ? 知らないの? 『屋上事件』で牧くんは島崎さんを救ったのよ」
「『屋上事件』?」
「そう、屋上で始まったから『屋上事件』。そのまんまでしょ? そうね、何から話そうかしら……」
三つ編みの3年生は昔を思い出すように話し始めた。
「『屋上事件』の
彼女の告白計画はクラスの皆にバレていたの。そして、クラスの中心メンバーの一人だった
遠藤さんが
島崎さんがまさに告白しようとしたその時、遠藤さんは屋上の扉を開けて『ちょっと待って』と叫んだ。後ろには遠藤さんを応援する大勢のクラスメイト。流れは完全に遠藤さんの方に傾いた。あんなに喧嘩の
一方の島崎さんは「好き」の一言も言えず、おまけにクラスメイトからは完全に敵扱い。机を教室の外に運び出されるようないじめも起こった。しかも山口くんがいないところでやるんだから
そんな島崎さんを救ったのが、牧くんだったの。牧くんは同じ野球部の山口くんにいじめを報告し、遠藤さんを中心とするクラスメイトたちにいじめをやめるよう言わせた。もちろん、牧くん本人も声をあげた。牧くんの友だちにも協力を
チラとヒマリの方を見やると、彼女の手が震えていた。姉をいじめた遠藤さんたちへの怒りか。それとも、姉の苦しみに気づけなかった
「島崎さんと牧くんは幼馴染と聞いていたし、この事件をきっかけに付き合ってもおかしくないとは思っていたけど、まさかサイコー新聞で牧くんを屋上に呼び出していたとはね……サイコー新聞なんて普段読まないから気づかなかったわ」
分かってはいたが、サイコー新聞を読まないことは言わないで欲しかった。これでも一応、毎月それなりに骨を折って作っているのだ。それを普段読まないなんて言われたら、それこそ骨を折られたように痛い。とはいえ、情報は十分得られた。私たちは三つ編みの3年生にお礼を言ってその場を去った。
「牧玄弥の話と三つ編みの人の話、そしてあのラブレターの3つを、三つ編みの如くより合わせるとこうなるわね。まず、マシロ先輩は小学生か中学生の頃に牧玄弥に片思いをしていた。ところが、彼と付き合うのは無理だと
私が棚の上のリナリアの花を眺めながら、半ば感心したように言うと、ヒマリが小さく唸った。まだ何か納得がいかないようだ。
「でも、失恋が原因で自殺するとはやはり思えません。よほど
「
「なんで私の初恋がまだだと断定できるんですか?」
「いや、何ていうか……ちっちゃいし」
「ちっちゃくても恋は出来ます!」
ヒマリは半泣きになりながら訴えかけた。どっちの「ちっちゃい」を気にしているのか分からないが、相当コンプレックスに感じているらしい。そう思っているとヒマリが少し
「でも中村先輩だって、失恋をしたことはまだないでしょう?」
たしかにそうだ。恋をしたことはあるが、失恋をしたことはない。実ることも枯れることもない、造花のような私の恋だ。
「そんなに納得がいかないなら、コーセーにも相談してみたら? アイツ、あれでもけっこう頭切れるのよ。多分童貞だし、恋には
コーセーは温厚を絵に書いたような性格で、司会役や仲裁役に回ることが多いが、一人で考えさせるとなかなか深い思索や鋭い推理することがある。
「そうですね。処女2人と童貞1人とはいえ、三人寄れば
「しかたないわね。明日の朝、裏口から侵入してあげるわ」
「お願いですから表から上がってきてください」
「注文の多い料理店ね」
「うち、料理店じゃありませんし、服を脱がしたり、体に塩をかけさせたりもしません」
「分かったわ。
「道中で逮捕されても知りませんよ」
ヒマリは
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