第3話 ラブレター
「自殺!?」
僕とアカネは声を合わせて驚く。島崎さんは目を丸くして、
「えっ、あの、私の姉マシロが自殺したことは、さすがにご存知ですよね? 一応、サイコー新聞部の部員だったそうですし、それに学校中で話題になっていますから」
アカネは鼻を鳴らし、いかにも
「いい? 島崎さん。学校中の話題っていうのはね、全員に行き渡っているものではないの。私たちみたいな友達がいない人間にとっては学校中の話題なんてあってないようなものよ。ここ、テストに出るから覚えておきなさい」
島崎さんは
「ええっと、では最初から説明しますね。私の姉、島崎真白は5月7日に自殺しました。自殺の原因は不明、いや透明です」
「透明? 不透明じゃなくて?」
島崎さんは一枚の紙を机に置いて見せた。どうやら島崎真白の遺書らしい。僕とアカネは
「ふむふむ、なるほど。つまり、地域によってポストの色は異なるってことね」
「そこ!?」
島崎さんが大きな声でツッコむ。アカネのボケを一人で回収するのは大変だったから、ツッコミ役が一人増えてくれるのは助かる。
「要するに、サイコー新聞部に手がかりがあるとお姉さんに言われてここに来たわけだね」
島崎さんは
「でもサイコー新聞部にあるものと言ったら、美女一人と野獣一匹だけよ」
どちらかというとアカネの方が野獣に近いと思うんだけど……まあ、この第2多目的室に手がかりらしきものはほとんどないのは確かだ。
「そもそもサイコー新聞部って何をする部活なんですか?」
「その名の通り最高のサイコー新聞を作る部活よ」
アカネは棚から先月号のサイコー新聞を取り出した。
「学校新聞は主に3つの企画で成り立っているわ。1つは私が担当する『サイコーニュース』。ここでは校内で起こった
学校新聞にスリルを求めないでくれ。不祥事を記事にする学校新聞なんて聞いたことがない。それに、そんな記事を出したら、鍵を盗まれた失態を
「もう一つはコーセーが担当する『教えてコーセーセンセー』。コーセーの
「ねえアカネ。そのコーナー名もうやめないか。恥ずかしくて仕方ないんだが」
「でも『豆知識コーナー』なんてまめまめしくてなんか嫌だわ」
「まめまめまめまめうるさいな。まだ節分まで半年以上あるぞ」
アカネのくだらない
「最後は『サイコー掲示板』」
「掲示板?」
ヒマリが首を
「教室の前に木箱が置いてあったでしょ? あそこに手紙を入れると、『サイコー掲示板』にそれが掲載されるの。手紙は匿名でもOK。同級生とかだけじゃなくて、なかなか話しかけにくい先生とか、生徒会なんかに自分の要望を書いてもいいわ。ラブレターも大歓迎。あと、一応、先生からの手紙も受け付けてるわね」
「それで、実際にどんな手紙が投稿されてるんですか?」
アカネは教室の前から木箱を持ってくる。木箱をひっくり返すと紙切れが一枚だけ出てきた。紙切れには「先生、冷房が欲しいです」と書いてある。
「今の時代、アナログな手紙なんてウケないのよ。いっそのことコーナー名を『サイテー掲示板』にしてやろうかしら。そのほうがよっぽど手紙が集まると思うわ」
僕は苦笑いした。昔はこれでも人気のある企画だったらしい。
島崎さんは少し考えた後、目を見開いた。何か
「もしかして、姉の言ってた手がかりって、その『サイコー掲示板』のことじゃないですか?」
確かに、島崎さんの言う通り、手がかりになりそうなものはそれぐらいしかなさそうだ。僕が『サイコー掲示板』の欄を見ようとすると、アカネと島崎さんも覗き込んで来た。先月の『サイコー掲示板』には4つの手紙が掲載されている。
島崎さんは「あっ」と言い、「島崎真白」の名前を指さした。
島崎真白
屋上に来たら、野球場の上を見よ
「なにこれ?」
島崎さんが首を
「きっとこれのことじゃない?」
アカネが別の手紙を指さした。
透明なあなたへ
少し前、まだ桜が花びらを散らしていた頃に、
あなたと同じ高校に行くと決まったとき、私は驚きと喜びで声が出ませんでした。夕陽に染まった美しいあなたの顔が、すぐ側に近づいてくるような気がしました。甘い妄想と同時に苦い現実が私の
あの日、私は
透明なあなたへ。どうか屋上に来てください。そしてこの
真っ白な私より
「もしかして、姉が言っていた『透明』って、これのことじゃないですか?」
「そうみたいだね。『真っ白な私』っていうのも『真白』先輩のことだろうし」
「それにしても
アカネはそう言って
「『あなたと同じ高校に行くと決まったとき、私は驚きと喜びで声が出ませんでした』ってことは、『透明なあなた』とは小学校や中学校が一緒だったということかな?」
僕がそう言うと、島崎さんが
「姉の幼馴染ということですかね? たしか一人いたような……」
「とにかく、行ってみましょうよ」
「どこに?」
アカネが指を鳴らし、人差し指を上に向けた。
「屋上よ」
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