第22話 ウルフダンジョン④

 くちばし、かな?

 キャディの口には鳥類を思わせるそれが卵の上の部分から生えていた。

 ペンギン的な? 大型鳥類に見られるソレだ。


 うん、珍妙。

 犬の足が生えた時は順調にウルフに育つと思っていた。

 だと言うのに二回目の孵化で様子がおかしくなる。


「キャディ、調子はどう?」

「くえ(とても良いよ)!」


 とても元気に鳴き声をあげる。

 今まで概要欄がポップアップして見えていたけど、今度は鳴き声に副音声がついて直接頭に届いた。口がつくとこんな変化が起こるんだ。

 テイマーになる前だと何も変化なかったからね

 やりたい事が増えていく過程でしかなかったし。


「しかし君、その口はボディと比べて随分とバランス悪いんじゃないの?」

「くぇー(パパのお手伝いしたくて。これでカンカンできるよ!)」


 ふむ? それはつまり私がやりたいことを汲み取って自ら望んでその成長を果たした?

 そう言えば謎の卵の説明にも書いてあったか。

 種族設定そのものはダンジョンの特性によって変化するが、スキルなどはテイマーと行動を共にすることで変化すると。

 突き詰めればくちばしは採掘に特化した変化であると?

 嬉しい誤算だ。

 おかげで見た目が珍妙になってしまったが、私を思ってくれての成長ならそこを咎める事などできまい。


「では早速ここの天井を掘ってこれるかい?」

「くぇ(うん)」


 キャディは足の裏から根を張り、壁をゆっくり登りながら天井に到着。

 そのまま足を軸にくちばしを天井に叩きつける様に振り子運動を開始した。

 カンカンと音はすれど、全く採掘できてる感じがしない。

 これはあれだね、武器グレードが足りない証拠だ。

 光苔の採掘は出来るけど、鉱石や宝石類の採掘はまだ早いと言う感じだ。

 

 今手持ちのアイテムはここで採掘した宝石のかけらぐらい。

 水晶とかは始まりのダンジョンに納品してしまっているからね。

 

「どうやら君が活躍する機会はここでは発揮できない様だ。引き返そうか?」

「くぇー」


 鳴き声に悲哀が籠る。

 顔がないのに落ち込んでるのが声で伝わってくる様だよ。

 まぁ、行き止まりなのでどっちにしろ引き返すんだけどね。


 ウルフを葬りながらの道中では、早速キャディのくちばしが役に立つ。

 ボディの卵も今までの脆さが嘘の様に頑丈になり、攻撃を受けてもダメージを受ける様子がなかったのだ。


「凄いね、キャディ」

「くえ(少しは役に立てた)?」


 そもそもスキル『根を張る』が水色ウルフ特攻だ。

 液体状になったウルフを吸い尽くすだけじゃなく、別個体のウルフに絡みついて行動を制限までするのだ。

 その上で採掘の如き連続くちばし攻撃である、これはたまらない。

 武器グレードが上がったら必殺コンボになることは請け合いだ。


 キャディという名をつけた通り、彼(?)には右腕と言うよりサポート役を担ってもらいたかったのに、頼れる相棒ぐらいの成長っぷりだ。

 テイマーというジョブは案外侮れないぞ?

 

 そもそもスキルというのをゲームと同様に捉えてると痛い目を見そうな気すらした。そしてテイム可能モンスターの上限が今のところ設定されていない。

 一匹づつ成長させるデメリットこそあるものの、成体にすればもう一匹育てられるのが最大のメリットだ。


 そして分かれ道に戻ってきた時、金狼君やギン君と思しき人物とばったり遭遇した。どうやらちょうど引き返すタイミングだったらしい。


「おいおい、ここは封鎖地区だぞ。勝手に入ってこられちゃ困るんだよ」

「待て、ギン」

「止めるなよ兄貴。この爺さんを不法侵入で訴えてやる」

「あんた、アキカゼさんか?」

「ほう、名乗ってないのによく分かったね」

「マジか兄貴!」


 金狼君はやっぱり、という顔。ギン君に至ってはよく見抜いたな、と金狼君をみやっている。


「いや、親父から事前に聞いてたんだよ。アキカゼ・ハヤテも探索者になった。うちのグループがダンジョンを一つ占拠したことを嗅ぎつけたら遅かれ早かれアポ無しで来るって」

「あの人そんなこと言ってたの?」


 信用ないなぁ。

 でも全くもってその通りなので予知夢でも持ってるのかな?

 勝手知ったる他人の家ってね。

 知ってるのは本人だけで、リアルで会うのはこれが初めてなんだけど。


「そりゃこの時期に親父がハマってるパターゴルフの装いで珍妙な生き物連れてりゃ対象はだいぶ絞れてくる」

「まさか私の装いで正体を突き詰めるとは、腕を上げたね」

「おかげさんでな。で、そいつはなんだ? 流石に親父もそいつの情報までは掴んでねぇぞ?」


 金狼君はズビシッとキャディに指をさす。


「キャディだよ。私のテイムモンスターだ」

「ジョブか。下条んとこの社長が似た様なのもってるって聞く。それもあんたが?」

「耳が早いね。それはきっと錬金術師か。私のテイマーの派生条件はダンジョンに由来する。条件を知っても取れるかどうかが全くの別問題だけどね」

「情報だけは抑えときたいんだ。取れるかどうかは他のやつに任せるさ」

「ま、それは秋人君に聞いてよ。私が情報をポンポン渡すとあの子に迷惑がかかるから言えないな」

「だろうな。ライバルを生み出す様な真似はしない筈だ。あの男はそういうところが狡いからな」


 言われてるよ、秋人君?


「にしても珍妙な生き物だな。種族は?」

「生まれてくるまでわからないんだよね、これが」

「ま、手間だし俺はパスするだろうな」

「割と成長早いからそれほどお世話してる感じはないけどね」

「そうなのか?」

「ゲームでも戦力外を一人連れてパーティ組むじゃない? ギルド運営の方針か何かで」

「そりゃな。新規メンバーを入れたらそんくらいはするさ」

「その一日目で卵状態からここまできた。もう単独でウルフと戦えるまでなってる」

「マジかよ。ここのウルフ結構すばしっこいぞ?」

「アキカゼさん、あんたレベルは?」

「さっき18になったよ」

「そりゃここにくるだけあるな。ギン、この人親父の情報より先に行ってるぞ。多分親父に黙って何回かダンジョン踏破してる」

「人として最低だな!」


 ちょっと、人聞きの悪いこと言わないでくれる?


「予定を聞いて都合が悪いから孫と一緒に挑んだんだよ。この子はここにくる前のダンジョンで手に入れたてさ」

「待て、その珍妙な生き物は今日の今日でその成長なのか?」

「そうだよ。餌を与えて、一緒にウルフを倒してたらここまで成長したね。この見た目で採掘したいって言うから武器グレードを上げに入り口の方に戻ってきたんだ。光苔をいくつかもらっても大丈夫?」

「無断で取られちゃ困るな。まだ一般開放してないんだ」


 おや? 表に情報出すまで出し惜しみかな?

 ならこれらは交渉商材となり得るか。


「ならこれらも返すとしよう」

「また勝手になんか拾ったな……ってなんじゃこりゃぁ!」


 ナップサックに詰め込んでいたそれぞれ宝石のかけらを見せびらかすと、ヤクザ映画のチンピラの如き悲鳴をあげるギン君。

 

「宝石のかけらだよ。床・壁・天井を採掘したら出てきた。やったね、売りにできるよ」

「採掘ポイントは?」

「そんなもんないよ。武器グレードをあげて掘るだけ。物によっては結構奥まで掘らないと出てこないから気をつけて」

「武器グレードを上げることで条件を開放するタイプか。こいつは盲点だ」

「おや、てっきり採掘済みかと思ってたけど?」


 軽く煽れば金狼君が「だったら苦労しない」と言いたげに表情を歪める。


「ま、親父に土産話ができたってのは本当だ。会ってくだろ?」


 どうやら今なら欽治さんと面会できるらしい。

 ついでにキャディを自慢してやろう。

 それくらいの気持ちで、私は金狼君の後について行った。

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